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睡眠薬で、初夢を。

初夢、という文化がある。
いろいろな説はあるものの、だいたい、新年最初に見る夢らしい。
富士山とか、鷹とか、茄子とか、を夢に見ると縁起が良いとか。
そんなの、残りの364夢を足したってこの1年で1度も見なかったけど。
そういう状況で初夢に出てくるからこそご利益があるのか。

でも、その"眠り"を、"夢"を、薬にコントロールされているとしたら?

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睡眠薬を飲むようになったのは、昨年の春。

その前の夏に不眠症状が顕著になって初めて睡眠薬が処方された。
その日は事情があり、いつもの主治医と電話診療でパパッと処方の方針が決まり、翌日病院に行って別の医師の代診で処方してもらうことになった。
当然、というか、案の定、飲めなかった。
信頼している主治医とでも処方が変更になるまで何回も話し合ってようやく納得するのに、初めて会った感じの悪い医師が渋々申し送りに従って出した薬など飲めるはずがなかった。

翌日眠すぎて支障が出るのではないか、意識が無いうちに勝手にいろんなことをしてしまうのではないか、幻覚を見るのではないか、悪夢を見るのではないか。
巷で聞く噂の数々が怖くてなかなか飲めなかった。

その後、不眠症状がまた悪化し、今度はちゃんと主治医に説得され、ついに飲むことになった。


結局、心配するようなことは大した問題ではなかった。
睡眠薬と一口に言っても数え切れないくらいの種類があるので、普段定期的に飲んでいる薬と違ってちょっとした問題でも簡単に変えることができる。

睡眠薬のせいで眠すぎて支障が出ることもあった。
それでも寝付けなくて睡眠不足になる日と似たような感じで、動けるには動けた。
睡眠薬の種類を変えたら、睡眠不足による眠気よりはましになった。

意識が無いうちに勝手に色々動いてしまうことはなかった。
薬を飲んでから他に何もしなければ。
何も起こらないぞ、とだんだん調子にのってきた頃、薬を飲んでからスマホでメッセージのやりとりをしていたら、眠剤が回ってきている自覚なしに怪文書を送りつけてしまったことがある。
翌朝、「もしまぐちなぐちな」という自分でも何を言おうとしたのか再生できないメッセージを見て反省した以降は、何も起きていない。

幻覚も見たけど、分かっていたから怖くなかった。
覚醒と夢の間で朦朧としているくらいだと、何が起きてもあまり怖く無いらしい。
初めて見たのは、ジェットコースターくらいの早さでドローンのような自由自在な視点でピカピカ光る世界を目まぐるしく回っていく、という幻覚。
書き起こすと自分でも心配になるが、その時は怖くも楽しくもなく、ただその世界を受け入れていた。
翌朝起きて、あ、これがサイケデリックな感じか、と妙に感心した。
あとは、現実世界と融合して、自分が寝ている部屋の机の下などの空間や布団の上を、小人のような存在が何人(匹?)もで舞台のセットのようにしていく、というのも何回も見た。
怖くなかった。むしろ、一人じゃ無い、と思った。
寝るときに薬を飲んで、そのあたたかい世界に入っていけるのが楽しみなくらいだった。

悪夢も、やっぱり見た。
しかもホラー映画のような悪夢ではなく、現実に直結した内容だった。
例えば、恨みに恨んだ父親を線路上に突き落として殺して、自分も飛び込んで自殺する夢とか。
そういうものが一番メンタルに来た。
起きたときには涙でびしょびしょで、疲弊しきっていた。
ただ、飲み続けているうちに、頻度はだいぶ下がったように思う。

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睡眠薬は全部で6種類くらい試して、今は3つを使い分けている。
よく言われているように、リスクとベネフィットのバランスを考えて薬を飲む。
初めの心配事には上がらなかったが、一時期ある睡眠薬を飲み続けていたら認知障害が出て仕事で普段ならありえないミスを連発してしまうことがあった。
でもその薬が一番よく寝られはするので、連用しないように、どうしても必要な時だけその薬にする。
普段は、超短時間のものと、中時間のものを、翌日の起床時間によって選んで使っている。

もう、そういう生活に慣れた。

その薬を飲む決断をした事自体、私の意志なのだ。
あの超短のものを飲めば幻覚を見るしあの中時間のものを飲めば悪夢を見るし、あの青い薬を飲めば翌日までふらふらだ。
それを分かった上で、賢く使い分ける。
主治医も、その判断を私に委ねてくれている。

どんな夢を見ようと、私らしい初夢なのかもしれない。

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2024年、初夢は、2つ見た。

1つは、働いている夢。
大晦日まで働いていたものだから、完全にその延長戦が夢の中で繰り広げられていた。

もう1つは、精神科にかかっている夢。
いまの主治医に、転院を促され、渋々了承して他の医者にかかった。
転院した先の医者が私のお世話になった大学の教員だったので、働いている夢と違っていかにも夢だなと思ったけど。

なかなかにリアリティのある、地味な悪夢だった。
泣きながら起きた。


いかにも私、という感じだ。
笑いすら込み上げる。

私へ。私を支えてくれるみなさんへ。
年が変わってもいつも通りこんな調子だけど、今年もよろしくお願いします。

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