ミックスってどうやったらいいの④

最初に、現在のDAW状況を整理しておきましょう。

◇マスタートラックに仮の音圧上げプラグインがささっている

→平均音量-3db~0db以内で編曲・ミックスを同時進行中です
 なおこのプラグインは後ほどバイパスするため
 便宜上さしているだけの状態です

◇各トラック(バウンス前)にEQとコンプがささっている

→EQは“削り方向”のみ処理済み、コンプレッサーは
 音色ごとに値を調整して波形の凹凸を減らしています

◇音源内、またはプラグイン内で音色の音量を適正化している

→単に音が大きすぎる音色はゲインを下げ、逆に小さい音色は
 ゲインを上げているだけです。まだ細かい調整はしてません

◇音源のパン問題を解決、全トラックのパンニングまで完了

→音源(音程)にパン問題がある場合はあらかじめ修正しておくことで
 二回目のパンニング時にしっかりと効果が出るようにしました

さて、ここまでで下ごしらえが完了しています。
以降はパラミックスを仕上げつつ、2MIXをかたちにするフェーズです。

まずは一般的な手順と同じで、バスドラムとベースから入ります。
ただし、当該パートをソロ状態にして調整を加えてゆくのは
あくまで“前段階”の処理となります。
なぜなら縁の下を支える役割をもった彼らは最終的に
縁の上、つまりメロディを想定して調整されるべきだからです。
※つまり前段階と後段階、計2ステップ必要になります。

手始めに、ファーストステップに必要なTIPSからまいりましょう。
バスドラムはアタック・サステイン・リリースを見直します。
楽曲のジャンルにもよりけりですが
タイトでデジタルな音にしたければサステインとリリースを速めに、
響きが豊かなアナログライクを目指すなら遅めにします。
※アタックについては最速でかまいません(リズムの根幹なので)

これらは音源内で値をいじれる場合はそれを利用しますが、
いじれない、もしくはパラメーターが深い階層にあって
いじりづらいケースも多いので、そういう時は
トランジェントやエキスパンダーでまかないましょう。
前者はコンプで潰したアタック感の補修にもなりますし
プラグインにもよりますが大抵はサステイン・リリースも
同時に扱えるようになっているので、一つ持っておくと
総括的に操作できて便利ですよ。
オススメのトランジェントはiZotope Neutron内のやつとか
WavesfactoryのQuantumですね。
エキスパンダーに関しては機能さえしてくれればなんでも良いです。
目的は“リリースの制御”。
冗長に伸びている残響部分をカットしてあげるイメージです。

お次はベース。
ベースは例によって倍音がしっかりしていないと
スカスカになって全然 楽曲を支えてくれないので
サブベース(100Hz以下が目安)の倍音補強用プラグイン、
もしくはサチュレーターを使って補うようにしましょう。
私は持ってないですけど、前者はWavesから出ている
『Submarine』とかが良いみたいですね。
サチュレーターについてはお好みで大丈夫です。
私はIK MultimediaのSaturator Xをよく使います。

その後は、2つ目のコンプレッサーをかけていきます。
1つ目は波形を整える目的で使いましたが
2つ目は音圧ブースト・音を太くするために使います。
こちらは波形の見えないタイプでもかまいません。
ベース単体で-6dbピークを目安に、グイッと上げましょう。
オススメはUnitedPluginsの『Royal Compressor』です。
これ使うと「抜けがいい」と「出しゃばり過ぎない」が
両立できるので、最近重宝しています。
なお、音圧を上げたことで-6dbピークを過ぎてしまう場合は
プラグイン内のゲインを下げて調整してください。

2つ目のコンプをかけ終わったら、再度 波形を確認します。
ここで、1つ目のコンプで潰したはずの山頂が復活し
尖っているようなら、その先端だけをスライスするイメージで
リミッターをかけておいてください。ベースは最終的に
いわゆる海苔波形になっていても、なんら問題ありません。
むしろそのほうがマスタリング時に有利なので
上記の過程で“高品質な海苔波形”をつくっておきましょう。

ここまでが終わりましたら、バスドラムとベースを
一緒に鳴らしてみます。このときマスキングの関係で
どちらの音にも、聞こえづらくなっている帯域があると思います。
それに関しては、より優先したい音がどちらかを決めたのち、
バスドラムを優先したいなら先ほど補強したサブベース領域を
EQで少し削り、代わりに1KHz以上の“美味しい部分”を少し上げます。
逆の場合はバスドラムの100Hz~200Hz付近を少し削って
ベースの主要成分が入れる余白を空けてあげましょう。
※ちなみにサイドチェインを活用して
 「一方の信号を起点としてもう一方にコンプをかける」ことで
 マスキングにアプローチする手法がありますけど
 あれは部分的にこちらが意図していないような挙動を
 することがあるので、個人的には非推奨です。

そして最後に、どちらかのトラック、または両方に対して
うっすらリバーブをかけましょう。まとまりが良くなります。

――と、ここまで来たらファーストステップはほぼ完了です。
あとはバスドラムとベースを同時再生した際、マスターが
-6db~-4dbくらいがピークになるよう音量を整えます。
(※依然としてマスターには仮の音圧上げがささってる状態です)
打ち込み時点のベロシティを見直しつつ
それで解決できない一部の音程(特にベース)は
ボリュームコントロールのオートメーションで対応します。
フェーダー操作はここでようやく初解禁となります。

そしてセカンドステップ。今度はバスドラム・ベースに加え
主旋律を担当しているパートを一緒に鳴らしましょう。
マスター音量のピーク目安は-3db~-2db。
このとき、メロディラインが前に出て来ない印象を受けた場合は
主旋律側にささっているEQないしコンプレッサーのゲインを上げ、
サウンドがどう変化するか確かめます。結果別のTIPSは以下のとおり。

◇前には出たけどなんかところどころうるさい

→コンプレッサーを弱くかけていることによる影響。
 が、ここで強くかけなおすと繊細なニュアンスが崩れて
 感情の薄い、のっぺりとしたメロディになるので、
 なるべくベロシティ・ボリュームオートメーションで泥臭く
 音の大きいところを下げ、小さいところを上げて微調整しましょう。

◇前には出たけどなんか全体的にゴワついている

→300Hz~1KHzくらいに原因となっている成分があるかも。
 改めてEQで削りを吟味、2KHz以降のブーストも加味して
 抜けが良くならないか確かめてみます。
 ただし、音色(音源)そのものに問題がある場合は
 なかなか上手くいかないことも。そんなときは
 Techivationの『M-Clarity』やZynaptiqの『UNFILTER』など
 不要な成分を取り除いてくれる魔法系プラグインで
 いい感じになってくれるパターンは多いのですが
 なんだかんだでEQを複数さしていったほうが近道だった、
 みたいなことも往々にしてあるので、「楽しよう」と思わず
 地道に音がすっきりするまで粘りましょう。
 合理的に段階を踏み、その都度 音が理想に近づいているのなら
 別にEQが7個とかささってても全然いいんです。
 
◇そもそも前に出てこないんだが!?

→主旋律のゲインを上げたのに前に出てこないということは 
 先ほど音圧を上げて音作りしたベースの音量が
 大きすぎている可能性があるので、一旦-2.5dbして様子を見ます。
 これでもダメなら、次に疑われるのは音源側がスカスカという線。 
 例えば同じバイオリンの音色でも、音源によって
 まったく響きは異なります。各種プラグインはそのままにして
 複数の音源を聴き比べ、より適切なものを選択するようにしましょう。
※が、奏法・表現の都合でどうしてもスカスカなやつを使いたい場合は
 上記で紹介したサチュレーターや、2つ目のコンプレッサーを挿入を
 検討してください。それらで無事太い音になりましたら、
 細かいニュアンスはボリュームオートメーションで頑張ります。

記事が長くなったので、今回はこのへんで。
次は他の楽器について触れていきます。


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