ミックスってどうやったらいいの①~②の補足(パンニングとEQの話)

直近で作業を進めている最中に
過去記事の内容が不十分だなと感じる機会が多かったので
本稿にて加筆させていただきたいと思います。

まず①で扱った音源のパン問題ですが、元記事では
Boz Digital LabsのPan Knobを使用することで
特定の周波数にフォーカスして解決するのがオススメです!
……といった趣旨の結論を書きました。
これについて、ちょっとややこしい補足をします。

ドレミファソラシド
     ↑              ↑      ↑

たとえば上記のようにレ・ソ・シという3つの音程において
「センターで鳴らしているのにパンがズレている」音源の場合、
例によってPan Knobを通せば良い感じにまとまるのですけれども、
これはあくまで「L・Rにパン振りするケース」のみ有効なのです。

どういうことかといいますと、Pan Knobは
ただ差しただけでパン問題が解決されるような代物ではなく、
実際にツマミをいじって左か右に振らないと効果が出ないのです。

つまりサイドで鳴らすギター音源などには有効であるものの
メロディなど、常にセンター付近で鳴らす楽器群に対しては
結局 別のアプローチが必要になる、ということです。
ここでいう別のアプローチとは、元記事でも紹介した
「オートメーションで泥臭く」を“Pan Knobの信号”でやること。

ドレミファソラシド
     ↑              ↑      ↑

再び上記の例を使わせていただきますが、
とりわけ「レだけが左寄りになってて、ソとシは右寄りなんだけど
それぞれR20とR40って感じでバラけてる……」みたいな音源の場合に
Pan Knob内のPAN値をオートメーションで操作することで
各音程を1つずつ、個別に修正していくようなイメージですね。

……ただこれ、正直めちゃくちゃ面倒くさいんですよ。
そこで今回は、もっと楽にこうしたパン問題を解決できる
非常に優秀なプラグインを見つけたので紹介させていただきます。

それはずばり、Sound Particlesの『EnergyPannner』。
このプラグインの何がすごいって、
「入力された信号強度」に応じてパンを細かく設定できるところです。
例えば、音がアタックした瞬間をセンター設定にすれば
音源側の“ズレ”も含めて自然に中央へまとまってくれるんですが
それだとモノラル感が強まり“良い音感”は消えてしまうので
サステイン~リリースまでの間だけL10~R10の中をうっすら
ピンポンディレイ・トレモロするような設定も付与することで、
元の音源にある良い成分と、ズレている成分
これらの平均値を常に取り続ける、みたいな芸当ができます。
(詳しい使い方は割愛しますが、触ってみれば直感でいけるGUIです)

これなら「サイドで鳴らす・センターで鳴らす」といった
楽器ごとのポジションに関係なく、理想に近いパンニングが叶います。

ただし。
いかんせん、丁寧にオートメーションで仕上げたものと比べると
やはり総合的なクオリティで勝つことは難しいです。
特にソロパートのメロディなど、楽曲において重要なトラックは
あくまでも泥臭い処理が基本となることをご承知おきください。

【お役立ち情報】

ところで音源のパン問題って、耳や波形だけを過信していると
正確に感知しきれていないことがよくあります。
そこでオススメなのはMeldaProductionの『MMlutiAnalyzer』。
こちらのステレオ項目を参照すれば、いま出力されている音が
自分の想定しているパンになっているのか、一目瞭然でオススメです。

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続いて②の補足に入りましょう。元記事では
『EQはどのプラグインを使ってもそこまで差がない』と
やや挑戦的な言い方をさせていただきましたが、
あれは"EQの効き方"に対する見解を述べたものでした。

よく「このEQは効き方がマイルドで良い」とか耳にしますよね。
でも有名どころをそれぞれ同じ条件でイコライジングした場合、
ぶっちゃけ音色変化の違いって誤差の範囲でしかないんですよ。
よってEQは効き方ではなく、目的別に使い分けるのがベター。
今回は、せっかくなので色々と挙げさせていただきます。

■手動で細かくイコライジングしたい
└PreSonus 『Studio One』-Pro EQ

シンプルで非常に使い勝手が良いパラメトリックEQです。
削り方向で作業する際「どの帯域を増減すべきかな?」と迷ったら
まずはこれの出番。おおよその見当をつけ、デフォルトのQ幅にて
Gain±6dbくらいで帯域を行ったり来たりしていると
耳触りが良くなる場所が見つけやすいです。
ただバンド数が少ないので、基本は複数 差して使います。
(※めちゃ軽いので処理落ちなどの心配はありません)
ちなみに流石に稀ですが、私は一つのトラックに
10個ぐらい差すこともあります。大体は3~4個ですが。

■左と右で音を分け、個別にアプローチしたい
└Boz Digital Labs 『The Hoser』

左右のチャンネルにそれぞれ別個でEQをかけるのは
ステレオバランスが崩壊しかねないので諸刃の剣ですが
「ここの左の楽器群だけもうちょい前に出てくれたらなぁ……」とか
パラ時点で処理しきれなかった帯域・成分があるという場合に
これを使うと狙い撃ちで調整することができるようになります。
個人的にはステレオイメージャー系と組み合わせたほうが
シナジーが生まれてより良いサウンドにまとまりますが、
大前提としてパン問題は先に解決しておくようにしましょう。

なお、普通のEQとしても優秀です。
いったんどこかの帯域を極端にブーストした状態でサウンドを聴き、
耳が痛い周波数を特定してから削る、という処理の流れが定番。
あと、他のEQって信号を視覚的に表示するものが多いですが
それを見ながらだと音の変化(聴覚)に集中しきれない嫌いがあります。
The Hoserはツマミしか画面上にないため、そういう心配もありません。

■パラミックスの取っ掛かりを得たい
├iZotope 『Neutron』
└sonible 『smart:EQ4』

耳が肥えていないと、いま聴いている単体のトラックが
ミキシングの観点でどのように“不利”なのかわかりませんよね。
そんな時、現代は頼れる文明の利器「AI」が味方についてくれます。
これらのプラグインは科学的な根拠に基づいた音楽的な調整を
ワンボタンで代行してくれるので、イコライジングの入口として
バリエーション・選択肢を得る意味でも、試す価値があります。

Neutronは昔と比べると、アシスタント機能(自動調整)の精度が
かなり良くなりましたね。でも如何せん、Neutron特有の
パキッとした音を提示されがちなので、過信は禁物です。
同プラグイン内にはEQ以外にも便利なエフェクトが沢山入っているので
それらを手動でも一通りいじり倒し、音の変化を確かめましょう。

smart:EQ4も、同じくアシスタント機能のついたEQです。
特筆すべき点は、6トラックまで音をグループ化できること。
例えば裏のほうで鳴っているコードトーン役のストリングス、
アンサンブルの金管・木管、パッドなど、役割の近い者同士を
同じグループ内に放り込むことで、それらに対して
「どの楽器を前に出すか」という優先度を設定しつつ
総合的に自動調整をかけてくれるスグレモノです。
要するにマスキングの解消にうってつけのEQですね。
個人的にはNeutronより実用的な音になる印象です。
しかし、もちろんこれも「自動調整したらハイ終わり」ではなく
そこから他のEQも併用してサウンドを洗練する流れになります。

■手動でダイナミクスをコントロールしたい
└iZotope 『Ozone 11』-Dynamic EQ

いわゆるダイナミックEQというやつです。
通常のEQは曲全体に対して常時効果を発動しますが
こちらはスレッショルド設定に対して適時発揮されるものです。
(元の記事内でも書かせていただきました)

ダイナミックEQは後述するKirchhoff-EQが
引き合いに出されがちなんですが、個人的に
こちらのほうがGUIが扱いやすく好みなので紹介いたします。

楽曲中、特定の音程だけが大きく聞こえて耳障りな場合――
例えばピアノの低音とベースラインが刹那的にぶつかっている時など、
片方のトラックにこれを差して調整すると解決できるかもしれません。
逆に、ある一部分(特にクラッシュシンバルなど)を
もう少し大きくしたい、といった時にも使えますよ。

■自動で「効果的」にダイナミクスを調整したい
├Soundtheory 『Gullfoss』
└Oeksound 『Soothe2』

これらに関しては正直、私も内部のアルゴリズムについて
正確に把握しているわけではないのですが、
他のEQにはない独自の自動調整をやってくれます。
それはサウンドをリアルタイムでものすごーく細かく解析し、
ダイナミクスを繊細かつ適切にブラッシュアップしてくれること。
CPU負荷はいずれも高いですが、音を「主成分と副成分」に分けて
加工してくれる点では、他に類を見ないプラグインだと思います。
前者のGullfossにはマスタリング用モデルもあり、最後の最後に
「あと少し変化が欲しい」となった時など、救世主になり得ます。

■音の飽和(レゾナンス)を解消したい
└Plugin Alliance 『Kirchhoff-EQ』

前述したOzone 11内のやつと双璧をなすダイナミックEQです。
正確には「ダイナミックEQも使えますよ」というだけで
これ自体は性能の良い普通のEQなんですけどね。

ここで紹介するのは、
一通りのエフェクトを差し終えたトラックのうち、特定の音程、
および周波数が「突出してうるさい」場合の処理です。

高音域なら「キンキン」、中高域なら「ゴォォォ」という衝撃波みたいな
耳をつんざく成分(音が飽和している箇所)が見つかった時は
このプラグインの出番。まずバンドを1つ作ってソロ試聴モードにします。こうすることで、現在処理している音だけ聞くことが可能になりますので
先ほどのつんざく成分をピンポイントで探し出し、Gainを下げます。
その際Q幅は最も狭くして削れば、他の帯域にほぼ悪影響が出ません。

■2MIX後~マスタリング時に全体を整えたい
├Tokyo Dawn Labs 『Slick EQ Mastering』
└IK Multimedia 『Master EQ 432』

前者は明確なリファレンス音源がある場合に心強い味方です。
2MIXが完了した段階でSlick EQ Masteringをマスターに立ち上げ
リファレンス音源を学習させたうえで自動マッチング機能を使うと
かなり実用的なEQをしてくれます。他にもマッチ系は色々試しましたが
私のなかではこのプラグインが一番優秀ですね。
しかも低音域の「この帯域だけをモノラル化」みたいな機能や
数値の細かいハイ・ローカット、サチュレーター機能も付属しており
理想のマスタリングを目指すのに重宝します。

後者はマスタリングの際「微調整したい」人向けのプラグインです。
ツマミの感度がちょうどよく、使い心地抜群。
基本的にいじれる帯域も3つなので迷走するリスクも低いです。

……というわけで、以上 過去記事の補足でした。
なお、一番有名どころのEQあるFabFilterの『Pro-Q3』は
単純に持っていないので書きませんでした。

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