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Well Jiing !! 第4章、お葬式のニーズ(3)後編

前章に続き、寺がお葬式で与えられることを考察していきたいと思います。
お葬式ニーズで遺族がワカラナイ不安を大きく4つに分けています。
(1)今、何をしておけばよいのか
(2)いざというとき、どうしたらよいのか
(3)結局、何をどう考えればよいのか←今回の考察
(4)そして、いくら用意すればよいのか
 
第4章、お葬式のニーズ(3)後編
~結局、何をどう考えればよいのか~

◎伝え方に工夫を

お寺が故人様やご遺族に伝えたい内容には、価値がある「はず」です。
しかし、価値があると思うか思わないかは、受け手の判断。
そして、伝わり方は、受け手の心情にも大きく左右されます。

お経でいえば「これから唱えるお経にはこういうことが書いてあります」と伝えてからお経を始めるのと、住職のペースでお経が始まることでは、会葬者が感じる価値に大きな違いが生じると考えています。

例えば、音楽のコンサートで、曲の説明を入れない演出も、MCで温めてから演奏に入る演出もあります。曲の背景もよく知っているファンが集まるコンサートであれば、説明を入れない演出でも成り立つ。しかし、ファンでない方が聴き手の場合、伝えたいメッセージをMCに入れてからの方が、意識を持って耳を傾けてくれるかもしれない。

お経が持つ意味や、なぜこのお経を読むのか?
それらを理解している篤信者の集まりと、そうでない集まりでは、受け手の状況が異なる。特に初めて聴く方へは、心情などの状況に配慮する必要があります。

◎知らない人を念頭に

各宗派の宗祖は過去からの教えである仏教を、その時代に合わせて市民に伝えてこられたと認識しています。伝えるにあたり例え話を工夫されたり、飢饉など社会性・時代生を重視されたり、様々な工夫をなされた。

今、何かワカラナイことを調べるとき、スマホで検索して納得できそうなページで理解する行動は一般的になりました。

ワカラナイことがすぐにわかる時代に生き慣れた市民が、お経を初めて聞いた時を想像してみましょう。

「これって何?」と思うかもしれません。

同時代に生きる住職も、逆の立場ならその心境はおわかりになるのではと思います。

「いや、そうじゃないんですよ、わからなくても、お経それ自体がありがたいものなんですよ。」という答えは、その考え方を知っている人(篤信者等)には理解できることでしょう。

しかし、基本的に相手は「知らない人」であるという前提に立って、価値を伝えることに取り組んでいただきたいと願います。

宗祖も「知らない人」に布教をされたはずですし、スマホでなく、私があなたに伝えます、という姿勢があったのではないでしょうか。

◎伝える相手を明確に

葬送において導師は、故人様を導くだけでなく、様々な信仰をお持ちかもしれないご遺族や会葬者すべてを対象とします。

葬送の法式は、決まっている内容がおありだと思いますが、例えば、大往生の方と自死した方に対して、お経は同じなのでしょうか?

お経の内容を故人様の状況やご遺族の心情ごとに変えられるなら、ぜひ相応しい内容でお経をあげて欲しい。耳は最後まで生きているかもしれないなら、なお。
そしてその工夫をご遺族や会葬者にも伝えてほしい。

「このお経には大往生されたことを讃える意味が…」というような個別性のある内容で、その説明を、口頭のみならず、「書面」「映像」等も使って相手に合わせて伝えて頂きたいと願うところです。

できる工夫の積み重ねで、「初めて」のお経も、伝わりやすくなる。

◎書面でも伝える

例えば戒名の説明では、「このように考えさせていただきました」と口頭でお伝えし、紙や白木位牌をお見せして説明されることが多いかと思います。

説明をされる場面は、(生前戒名ではない場合)、通夜や葬儀の当日が多いかと思います。

通夜や葬儀の法話のなかでも、改めて皆様へ説明されるお寺もおありかと存じます。

ご遺族も会葬者も、関心をもって臨まれることでしょう。

ご遺族や会葬者にとって、戒名は、戒名の【理由】にこそ大きな価値があると考えています。【理由】のなかに、「故人様の人生」と「お寺からのメッセージ」、両方が入っているからです。

ところが、人は忘却という機能を持っています。
そこに、老化(記憶力低下や難聴)という要因も加わります。
住職の説明をその場でメモすることもなかなか憚られる。

戒名の【理由】を誰かが何かで残しておかないと、いずれ「故人様の人生」も「お寺からのメッセージ」も薄れゆく可能性があります。

「おじいちゃんの戒名は何でこうなの?」
と聞かれたとき、誰も【理由】を答えられなかったら?

戒名ひいては仏教の価値がお孫さんに伝わる機会を逃してしまいます。

お孫さんに非はなく、戒名は「文字」として認識され、いずれ「何文字」と数える対象になり、いつか「貨幣の対価」になってしまう。

そうならないために、誰か一人の記憶に頼らない伝え方が重要になります。

お寺はぜひ、戒名の【理由】を含めた書面等を作成し、ご遺族皆様にお渡しなさってください。できればお経などにも触れながら。

そして、会葬の皆様に対しても、同じものをお渡しなさってください。

書面を渡す。その一つの方法でも、寺のメッセージが「知らない人」への布教となり、何より、「故人様の人生」を次世代につなぐ葬送に寄与すると信じています。

◎映像も活用する

スマホの普及により、写真や動画は多くの人の日常になりました。

映像を活用すると受け手も理解しやすいことは、動画サイトの人気を見ても明確です。ご遺族も会葬者もその時代に生きている。

法話において、住職が故人様との思い出の写真や動画を見せながら、

「お寺でご子息の合格祈願をさせて頂いた時、こうおっしゃっていました」

「自分は一人で悩むことが多かったけど、子供には人を頼りながら生きてほしいと」

そのように始まると、ご遺族や会葬者も意識を持って耳を傾けやすいことでしょう。

思い出を映像で補完してから、

「◯◯さんが仰ったことは、先ほどあげたお経と非常に近いものがあります」

と仏教を説く。

さらに、書面も活用し、

「その部分を抜粋しましたので、1枚ずつお持ちになられ、◯◯さんからのメッセージとして思い出して頂きたい」

そして最後に、

「お寺でよろしければいつでも悩みをお聞きしますので、お訪ねください」

と締める。


このような法話は、多くの会葬者の記憶にも残り、葬送の価値を高めてくれます。

「故人様の人生」と「お寺からのメッセージ」、両方が入っているからです。

お寺に故人様の写真がない場合でも、ご安置中や控室に写真や動画を写せるモニターやタブレットを構えられてはいかがでしょうか?

ご遺族等から写真データをお預かりしてセットする。
そうすればご安置中に近所の方が弔問にいらっしゃる時にも懐かしんでくださる。

何より、住職が故人様を深く知るきっかけになります。「これはいつぐらいの写真ですか?」とご遺族と対話し、より良い式づくりに結びつける。

その過程で、次世代とのコミュニケーションをもたらすことは、お寺とご遺族との繋がりを築きます。

◎人の数だけ内容を変える

現代人は、多様性の世の中に生きています。

価値観も趣味も様々。

生きてきた人を送る以上、葬送も様々な内容をもたらします。

柩の中の人が違うだけではありません。

想いは承継しづらいものです。だからこそ、できる方法で今の時代の故人様やご遺族に、オーダーメイドに対応してゆく姿勢が大切だと思うところです。

そうすると重要なことは、生きていた人(故人様)のことをどれだけ知っているか?

本人をよく知るには、生きている間のつきあいを密にしてゆくお寺の日常が大切なのかなと思いますが、それは別章で触れさせて頂きます。

長文お読みいただき、ありがとうございました!

次回から、「そして、いくら用意すればよいのか(費用の不安に対して)」を考察をしていきたいと思います。

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