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【就職・転職】技能につく対価の高さ

職業選択、職務経験について真摯に考えました。長めになってしまったので結論を先に書いておきます。以下では「手に取って分かる範囲だけのことを生業にすれば安定した需要があっても付加価値の低い仕事しかできないだろう」というような話をしていきます。職選びや働き方について考えている方の参考になれば幸いです。

職務経験と給与

私は製造業の会社に勤務しています。お客さんと打ち合わせしたり、図面を描いたり、旋盤と呼ばれる機械で部品を作ったり、その部品を組み合わせて製品を組み立てて出荷したりといった仕事がここにはあります。
そこに就職することを選んだときに考えていたのは「形のある物を作りたい」という漠然とした動機でした。聞いたところIT業界の方がお金になるみたいだったけれど、

* 中の仕組みが見える方が自分にはいい
* ましてやどのように移ろうか知れない人の心を相手にする営業やコンサルなどはやりたくない
* 後に別業種に転職するのだとしても最初はどのように作られてどのように機能するかが見て分かる物を扱いたい

と思っていました。

それから4年も経ち、今までには上で書いた各業務を全て一度は経験することができました。これは就職前に期待していた以上のことです。しかし収入の面では初任給こそある程度高かったもののそこから数パーセントしか増えていません(それでも社内には非正規雇用の人が多いのでどちらかと言えば「高給取り」になります)。この現状について文字通り「どうしてこうなった」と思い始めました。

給与を左右する要因

そもそも以前書いた通り給料が上がらないのは根本的に自分の働き方のせいですが、仮に同程度のポテンシャルを持つ人が同じくらい主体的になって働いても業界によって収入の伸びは異なるようにも思います。成長の著しいIT業界で生き残り続ければ収入がガンガン伸びていくというような話はよく聞くでしょう。

一体何がその違いを生むのか考えてみて、第一に思い浮かぶのは「業界全体がどれだけ成長する傾向にあるか」の尺度でした。成長著しい新興産業に従事している人の給与はどんどん増えていくし、反対に業界全体が縮小傾向にあればその中だけで高い収入を得ることはほぼあり得なくて、あったとしてもごく例外的なことでしょう。

そういった景気・業界全体の動向の他の要因として「その仕事にどれだけの付加価値が付くか」の尺度も見過ごせません。そしてその付加価値は、先ほど書いた就職前の私の視点から見れば「形のない物もしくは形を捉えらにくい物を上手く扱う能力」から生まれています。これが今回の本題です。

まず製造業ではユーザーに届けたい最終製品があり、多くの仕事はその構成部品だとか生産に使用される物品だとかを供給するプロセスの中に存在します。それぞれが作るべき物・施すべき処理は予め決まっていて、売上は基本的にどれだけ多くの顧客に採用されて最終製品がどれだけ売れるかに依ります。最終製品が大ヒットしたり大手企業相手に超大型の契約を取って供給義務を果たしたりすれば大きな利益を生むこともできますが、それらは例外的なことであって再現性は低いです。製造するには必ず原価というコストがかかってしまい、「その会社にしか作れない」且つ「代替の効かない」物でない限り高値では売れないため利益率はどうしても低めになってしまいます(経験はありませんが飲食業も同様でしょう)。

これに対してIT系の産業では、SIerでもWebデベロッパーでも大雑把に言って「こんなことを自動化して便利にしたい」のような動機・需要から始まって要件定義を行い、仕様策定・詳細設計・実装・テストを経て納品ないしリリースにつなげるのが基本だと思います。実際にはこの流れが一方通行ではなく何度も行ったり来たりするようだけど、それはまた別の問題です。それにゲームだとかエンターテインメント系の仕事だと人々の心の中にある欲求を満たそうと考えてコンテンツを企画します。これらの業界の製品(成果物)は一度作ってしまえば複製することで利益を生み出し続けることも可能なので驚くほどの利益率を上げることもあります。

業務システムもWebサービスも、使う側はその中身がどうなっているか知らないけれど使えますし、下手したら作り手側も自分たちが触れているより低いレイヤーのことは知らなくてよいのであまりよく分かっていません。それらの業種の中でも自分と同程度かそれに満たない給料で働く人もいるようですが、概して製造業や飲食業よりも高い利益率と成長率を生み出すポテンシャルがあるはずです。

この現実を見ると私には「形のない物もしくは形を捉えらにくい物を上手く扱う能力」には大きな付加価値が付くように思えます。

形の見える物(具体的には機械の部品だとか飲食店の料理など)の値段には「気前よく出すとしても高々この程度」という上限の金額があって、形・質が具体的に決まっている限り原則的にその金額は上げられません。

形の見えないシステム・Webサービス・ゲームにもそのような金額があるでしょう。しかしその形が見えない故の曖昧さ・不確実さに大いなる自由度が残されていて、それを利用して競合相手にはない便利さ・楽しさ・発展性のようなメリットを作り出すことで製品に支払われる対価が大きく伸びるのだと思います。逆に同じ業界にあっても利益率が、そして平均収入が低い企業の場合はその自由度を活かせていないのではないでしょうか。

どんな技能に高い価値があるのか

ここでいう「形の見えにくい物」にはまた高度な複雑さがあります。例えばシステム・Webサービス・ゲームの中身がどうなっているのか分からないのは、一言で言えばこれらの製品が複雑なロジックの組み合わせで成り立っているからです。

それに近年注目されているデータサイエンスや機械学習系の職種でも、原理こそ簡素化して考えることはできても実際の職務では一見して秩序を見出せない対象を扱っているからこそ時に非常に大きな金額が動くのでしょう。

全く別業種の例として医師の仕事を考えると、単純な原理・機構で動く機械とは比べられないほど複雑な組織・器官で構成されているのが人体で、医師はその細部に至るまで蓄積された膨大な知見を持って複雑な実体に向き合う故に高い給与が支払われるのだと解釈できます。

このように視野を広げてみても「形のない物もしくは形を捉えらにくい物を上手く扱う能力」には大きな価値があると言えそうです。

そうと言っても決して製造業は儲かりにくくてダメだと思っているわけではなく、製造業は国の産業・国民の生活の根幹を担っていて良くも悪くも安定した需要が存在します。それに先ほど少し書いたように「その会社にしか作れない」且つ「代替の効かない」製品を生み出せれば大きな価値が出て相応の利益が得られることもあります。そしてその開発の過程にはやはり「形のない物もしくは形を捉えらにくい物を上手く扱う能力」が大いに発揮されているはずです。それなしにできるならば他社でもできてしまって優位さがなくなりますから。

重要なのは、扱う物が複雑であったり抽象度が高かったりして中身が分かりにくいものほど希少さや付加的な価値があって大きな対価が払われるだろうということです。反対に手に取って分かる範囲だけで完結する仕事にはそれがないから、安定した需要があっても付加価値の低い仕事しかできなくて儲かりにくいのです。

自分の選択について

そう考えると私はただでさえ利益率の低い業界に入り、しかもその中で給料の上がりにくい働き方をしていた(再掲)のですから収入が大して増えなくて当然でした。すると今度はなぜ私は「形のある物を作りたい」との思いで就職先を選んだのか自問してしまいます。

確かに物を作ることが好きだという思いはあります。しかし就職先を選んだときに持っていた

・中の仕組みが見える方が自分にはいい
・ましてやどのように移ろうか知れない人の心を相手にする営業やコンサルなどはやりたくない
・後に別業種に転職するのだとしても最初はどのように作られてどのように機能するかが見て分かる物を扱いたい

といった判断基準は、何も殊勝な信念ではなく中身がどうなっているか分からないことによる不安やリスクを回避したい気持ちを意識高そうな言葉で塗り固めただけだと認めるしかありませんでした。特に中がどうなっているか分からない人の心を相手にする仕事を避けようとしたのは、まさしくその不確実さを嫌ってのことでした。つまりは自分の持っていた判断基準がむしろ足かせになっていたとの認識に至ったわけです。

この反省を踏まえ、これからどう働いて生きていくか決めなければなりません。今まで通り手に取って分かる範囲だけのことを扱って現状に甘んじるか、一度は感覚的に分からない状態や曖昧さの中に身を投じて新しい成長を遂げたいか。
私は後者を選ぶことにしました。以前ならその選択はできなかったけれど、今では不確実さ・曖昧さやそこから生じる不安に向き合えるようになったのでやってみようと思います。その途端にできることの選択肢が格段に増えたように感じられて途方にも暮れそうです。でも間違いなくその方が面白そうな気もします。

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