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「黙殺-報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い-」感想

超絶ざっくりあらすじ

選挙に出馬してもマスコミから全然取り上げられない世にいう泡沫候補(本書では無頼系独立候補)の人生を追いかけたノンフィクション。

では、特に興味深かったところを本書から拾っていきます。

ユニークな候補者達

・松山親憲さん(2014年の都知事選に立候補)
元々この2014年の都知事選が行われたのは、当時東京都知事の猪瀬直樹さんが副知事時代に、徳洲会理事長だった徳田虎雄氏の次男の徳田毅衆院議員から現金5千万円を受け取っていたことを発表していなかったことが発端です。

松山さんはその徳田虎雄氏の事務所でドライバーをやっていたことが判明します。それだけでも結構驚きですが、次の松山さんの発言が記者たちを凍らせました。

「今回、徳田さんにね、選挙資金が必要なのでお金貸してください、って相談しようと思ったんです。でも、まだその相談の時間が取れなくて」(honto:P300)

それが今回の都知事選の発端やぞ(笑)と思わざるを得ない発言。
松山さんは神経が相当図太いんだなぁと思いました。

・関口安弘さん(2016年の都知事選に立候補)
選挙に出馬するには供託金というお金が必要です。
選挙の参加費用みたいなものです。
選挙で一定以上の得票数を得ることができないと没取されています。
都知事選の供託金は300万円に設定されています。

その供託金をどう準備したのか筆者が関口さんに尋ねると、関口さんはこう答えました。


どうしても出たくて、告示日直前の12日夜から11日にかけてサラ金でお金を借りまくったんです。
1日2日じゃ信用情報のデータが他社に出回らないだろうと思って、複数社を一気に回ったんです。
ところが、なかなか貸してくれない。
アイフルは50万円貸してくれたけど、プロミスは30万円しか貸してくれなかった。
あと、ローカルなサラ金業者にも行ったけど、
いろいろと難癖をつけられて20万円しか貸してくれなかった。
『これじゃあ全然足りないよ!』ってイライラしていたところを救ってくれたのがレイク。なんと100万円も貸してくれた!
そこからアコムも少し貸してくれて、もうほとんどのサラ金に行ったんじゃないかなあ、という段になっても、まだ20万円足りなかった。
そこで告示前日の夜、遠~い、遠~い親戚に話したら、最後の20万円を貸してくれた。
それでぎりぎり間に合った。レイクがなければ今の私はありません。(honto:P376,P377)

自分は、選挙はお金に余裕がある人が基本出ているものだという偏見を持っていました。しかし、この関口さんの発言を見て自分の考えは誤っている事に気づきました。
サラ金を回りまくっても選挙で訴えたいことがあるってすげぇことだなと思いました。

・武井直子さん(2016年の都知事選に立候補)
武井さんは、拡声器に関するエピソードが興味深かったです。
どういったエピソードかというと、

「武井さんは自室から中々出てこないため、車椅子で生活しているお母さんが選挙用の拡声器で武井さんに呼びかけた」というエピソードです。(honto:P456,457参考)

それだけならまぁあるかなぁという感じなのですが、
結局その拡声器を、武井さんは選挙では一度も使わなかったところが面白いです。
武井さんは拡声器を使って大勢に話しかけるのではなく、近くの人と1ON1で話していくスタイルで選挙を戦ったので拡声器を使う必要がなかったからです。
選挙で活躍するはずの拡声器が自宅で活躍したというのが面白いです。

選挙の負担

選挙に出る負担として一番大きいのは先述した供託金ですが、それ以外にも無頼系独立候補の方にいろいろな負担がかかっていることが本書から分かります。

・調査票
立候補すると各社から調査票なるものを渡され、記入が依頼されます。各社によって調査票の形式が違うので初めて選挙に出る方にとってはとても時間がかかる上、せっかく記入しても無頼系独立候補の方の場合報道されないことが多いです。(honto:P397,398参考)

・ポスター
東京都知事選(2016年)では掲示板が全部で14163箇所あり、組織力がなければほとんどの掲示板にポスターを貼ることはできません。また、ポスター制作にかかるコストもバカになりません。

雑感

供託金を用意するだけでも大変なのに、それ以外にも調査票書くとかポスター春とかいろいろな手間を掛けたにもかかわらずメディアから黙殺されるのではやってられないと思いました。

この選挙に出る際のハードルの高さ・負担の多さが選挙に出る人たちを世襲議員など一部の権力者に固定し、世にいう泡沫候補というものを生み出しているのだと思いました。

もっと選挙へのハードルが下がって、より多くの人が選挙に立候補するようになれば泡沫候補という概念自体がなくなっていくのかなと思いました。

って言っても、選挙へのハードルが下がったら自分が出るかと言うと、多分出ないしなぁ。

結局、自分にできるのは選挙の際に、泡沫候補だからと切り捨てずすべての候補者をしっかり見ることくらいだと思いました。

以上

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