スクリーム・フロム・ザ•レディオ
グーーーーーーッドイブニーーーング!バッドイブニングなヤツもいるかな?
世界はバレンタイン・デーの翌日、男と女の浮かれ騒ぎ、そんなピンキーなインサニティーの中で、キュートなプラネットに住むブルーなアンタら、ちゃんと生きてるかい?呼吸してる?しっかり二本足で立ててるなら上等、両手含めた四本足でなんとかってヤツもまあ立ててるんなら上々ってとこだ。そんな今夜のお便りはテクノポリスより愛を込めて、悩み多き乙女からの相談だぜ。
世界はセント・バレンタインデー、テクノポリスではその由来なんか重要じゃなくて、ただただチョコレートを交換して喜ぶ甘ったるい日になってる。ほんとにチョコが欲しいヤツらなんかいなくって、だってチョコレートが欲しかったら自分でお金払って買えば良い話でしょ、中世ヨーロッパじゃあるまいし、チョコレートなんておいしいのがそこらじゅうに、それも手の届く値段で売ってるんだから。
結局ほんとに欲しいのはチョコそのものなんかじゃないって、そんなことはみんなわかってること。欲しいのは「恋人からもらった」チョコであって、その称号で、だから一番重要なとこは「チョコ」じゃなくて「恋人からもらった」ってとこね。はあ、もうこの時点であたしはうんざりなんだけど、アンタたちはどう?あたしは今とっても機嫌が悪いから、今日は愚痴のオンパレードね。このへんでもうお腹いっぱいって人は、さっさと退場してちょうだい。あたしはこれからずーーーっとこの調子なんだから。
そう、それで愛しの恋人からチョコレートをもらって、それをストーリーに上げるまでが我ら若者にとって必須のプロセスね。チョコレートはやっすいのじゃだめ、ちゃんとバイト頑張って買いましたって感じのちょっと良いのじゃなきゃ。チョコだけじゃなくて花束とか、香水とかもついてるともっといい。彼女からだけじゃなくて、彼氏からもなんか渡すのが理想のカップルってもの。ねえそれで必要なもの全部揃えたら、あとは有能なカメラマンの出番ね。16×9のフレームで、最高にばえるストーリーを投稿しなきゃ!彼氏だってセンスよくなくちゃだめよ、だっさいフィルターつけないでよね、リオデジャネイロとか冗談じゃないからね!あとはストーリーの閲覧者を逐一チェックして、いいねを待つだけ。みんな、どう?私って幸せでしょ?こんな私が羨ましい?こんな生活したい?
ねえ、そろそろ気持ち良くなってきたころじゃない?承認による快楽と充足、人間の三大欲求の四番手として「承認欲求」を入れたら良いくらい、私たちは承認なしじゃ生きていけない。他者から認められることでしか、好かれることでしか、羨ましがられることでしか、私は私を規定できないから。私は私自身によって作り出されるんじゃなくて、他者からの視線によって生み出される。だだっ広いテクノポリスで暮らす私たちは結局ひとりぼっちで、私を証明してくれる人なんていなくて、その孤独に耐えられる人なんていない。だから人は「君が好きだよ」って目を見て言ってくれる、私のことを見てくれる恋人が欲しいんだし、人に見てもらえるように、「あの子ってこんな子なんだね」って私のことを少しでも考えてもらえるように、ストーリーを投稿する。寂しくって仕方がない私たちに与えられた干天の慈雨・Berealは、投稿を義務化することによって1日に1回、私たちにつながる機会を与えてくれた。やったね!これで毎日誰かが私のことを見てくれる。これでもう孤独じゃない!
恋愛なんて全然美しいものじゃないって、最近思うようになった。クソ男にキープにされてから、優しさなんて全部「彼女がいるステキな自分」への投資なんだって知ったし、彼女の存在意義なんて「恋人がいること」っていう優越感といつでも性欲を満たせる相手がいることなんだって思ったの。だからキープなんて作るわけであって、最低ライン満たしてれば誰でも良いからとにかく恋人が欲しいんだね、寂しいから、人に認めて欲しいから。それは男に限った話じゃなくて、女の子だってそう。テクノポリスにひとりぼっちじゃ寂しいから彼氏が欲しいわけでしょ、クリスマスに彼氏の後ろ姿をストーリーに投稿したいから彼氏が欲しいんでしょ。結局恋愛なんて承認欲求と性的欲求で、わかりきったおままごとをそれでも真実を隠しながらなんとか綺麗に飾り立てながら、「ビバ!美しい恋愛!ビバ!愛しの恋人!」って叫んでるだけ。「いつかは本当に好きな人同士が結ばれ合う、『本来の形の恋愛』があるってみんな思ってるよ」ってバイト先のオーナーは言ってたけど、そんなものって果たして本当に存在するの?キープを何人も作る男が付き合ってる子は本当にその人の好きな人なの?彼氏と別れた3日後にマッチングアプリを入れる女は本当に元彼のことが好きだったの?ねえ、あたしが考えすぎるだけ?純真すぎるだけ?結局はあたしが、一番「本来の恋愛の形」を信じてるからこんなの受け入れられない。真実の愛はどこにいったの?それとも、そんなもの始めからなかったのかな。
そういうわけで人間世界は汚いから、こんなことに加担したくはないから、あたしは恋愛に完全に興味をなくしちゃった。昨日がバレンタインってこと忘れてて偶然開いたインスタには「Happy Valentine!」って明朝体で書いてチョコの写真貼り付けたストーリーが山ほどあってもううんざり。英語なんてろくに喋れないくせにそういうときだけ英語を使うな。それをなんで人に見せなきゃ気が済まないの?やっぱり承認欲求。みんな口には出して言わないだけで、「このストーリーみんなが見て羨ましがってくれればいいな〜それが醍醐味じゃん!」なんて言ってないだけで、それはもう暗黙の了解。みんながみんなの承認欲求認め合って優しい生活しましょうね、いいね交わし合いましょうね、そういう世界。他者からの承認は、テクノポリスにはなくてはならないものになっちゃった。見えない王様。そういうあたしもちゃっかりインスタはやってるわけだし、他人から見たらこんなの「はいはい非リアの僻みね〜」って感じだし、ほらここでまた他人を気にしてる。「非リアの僻み」って思われるのが嫌って自分が嫌!
承認欲求と性欲のおもちゃにされるのなんて嫌だから、恋愛はやめた。ひとりで生きてくんだって、それでじゅうぶん楽しいんだって思ってるけど、それでも世間がのしかかる。恋バナしかしたがらないバ先で「彼氏いません」って言うと「欲しくないの!?」って狂人扱いされるし、親には心配される。二十歳にもなってキスもしたことないなんて異常かな?社会不適合者の烙印決定?「かわいそうな子」決定案件ですか?だってキスもセックスも、ほんとに好きな人とじゃないとしたくないよ!だけどそのほんとに好きな人も、あたしが心から愛してるつもりの人も、結局あたしがあたしの欲求を満たすための道具にしたいだけなんじゃないかって考えたらもう好きってなに?って感じで、あたしの汚い欲求に付き合わせるのが申し訳ないからもう片思いのまんまでいっか、それがいちばん綺麗だし、って思っちゃう。私ばっかり好きで悲しい、彼氏は私のことを大事にしてくれないって嘆く友達を目の前にして「大変だね」って他人事でドーナツかじってるあたしには、別に彼氏なんて必要ないのかもしれない。
だけど時折不安になって、だってこのままじゃ一生彼氏できなくて純愛こじらせたおばさんになっちゃうし、多少奔放な恋愛なんて若いうちしかできないし、みんな経験してることだしってやっぱり世間のレールから完全に外れちゃうことが怖い。山にでもこもって完全に世俗から隔絶したとこにいれば悩みはなくなるんだろうけど、あたしが人間であるかぎり人間社会で生活して他者と関わることは必然であって、そしたら世間の価値観とかレールに合わせないと上手くやってけないわけでしょ。30にもなって処女ですなんて言ってたらヤバい女扱いされちゃうし陰口叩かれる。おーい、多様性、息してる?形骸化してない?あたしはあたしのまんまであたしの価値観で、一人で生きていけばいっか!っていう完全な個人主義と、それでも社会の一部としてしか生きていけないわけだから上手くやるために世間に合わせなきゃ、っていう共存路線で揺れに揺れている。要するにあたしの信念と世間の問題であって、みんなこれをどうやって解決しているの?それともあたしが考えすぎちゃうだけなの?あたしが生きるの下手すぎ?ねえ、どうやって生きたらいい?みんな教えてよ、みんなはどうやって生きてるの?どうやって生きるべきかな、こんな世界なんて嫌いだし狂ってるって思うけど、それでもそういう中で生きていかなきゃならない、人間として生まれたんだから。ねえみんな教えて、どうやってこの世界を生きていますか?
もううんざりした?ちゃんと最後まで読んでくれた?実を言うとまだまだ悩みは尽きないの。言いたいことも書きたいこともいっぱいあるの、だからみんなあたしに教えて、一緒に考えて、どうやって生きたらいいかを。あたしの名前はリサ・ケイ、忘れちゃダメだよ、リサ・ケイ、ちゃんと覚えてて!また会おうね、そしてあたしの、ともだちになって。
テクノポリスより愛を込めて、リサ・ケイ
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