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逆噴射小説大賞2019PU

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#逆噴射小説大賞2019 で『貴方の作品スキ!』と心を揺り動かされたnoteをピックアップしました。プラクティスが混じっていますが、自分のブックマークみたいなものなので個人的には…
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#小説

注目の多い料理店

「みなさんこんにちわ!本日は今SNSで話題になっているフランス料理店、シャ・ソヴァージュさんに来ています!見てください!このビル丸々お店なんです!オーナーのリヨンさん、いったいどういうことなんでしょうか!?」 「当店での食事は1日がかりです。1日をかけて心身を整え、極上の食卓に身を委ねていただきます。さぁ、どうぞ。まず、1階でお召し物を預かります。食事に集中していただくためスマートフォンなどもすべて、責任を持ってお預かりいたします。2階はマッサージです。日頃の疲れを取ってい

ホームセンター戦闘員、浅間!

「うるせえ! 自分の車に積み込めってほざいたのはてめぇだろ!」 俺が振るった金槌は、眼前のクレーマージジイが握る草刈り鎌より早く、ジジイの側頭部を打ち砕いた。ジジイは倒れ、そのまま動かなくなった。 「しまった……」 俺は青ざめた。今月の殺害許容数は5人まで。このジジイは6人目だ。本当に非正規は不利だ。殺していい数が正社員に比べて少なすぎる。 「やってしまったねえ、浅間くん。超過だよ」 粘ついた声音に振り向くと、東村店長が立っていた。最悪だ。ずっと見てやが

だるまとお姫さま

村のはじっこの森の中に、赤くて、丸くて、小さいだるまが住んでいました。 だるまは甘いものが大好き。 特にドーナツ!ドーナツの穴にはまりながら食べるのが大好き! 今日もドーナツをもらいに村までやってきました。 あれあれ、悲しい顔したおじいさん。どうしたのでしょう?「あまい?」 「ああ、だるまか、すまないドーナツはないんだ。兵隊がみんな持っていってしまった。金平糖なら…」「あまい!」 だるまは兵隊が好きではありません。硬くて甘くないからです。 だるまはコロコロ転がり兵隊のいる

本能寺炎上2019

 ことの発端は、五百年ほど過去に遡る。日本人ならば誰もが知っている『本能寺の変』、その闇に隠された歴史の真相が、すべての始まりだった。  天下統一を目前にした英傑、織田信長に対して、家臣筆頭の明智光秀が謀反を起こし、殺害した。しかし、その仔細ははっきりとせず、諸説ある。  当然だ。南蛮から渡来した外法に手を染めた織田信長が、永遠の命を求めて吸血鬼と化すことを企み、それを明智光秀が阻止した……などという妄言、誰が信じようか。  本能寺において、織田信長の野望は頓挫した。主

「まほうつかい」を探して

「私は魔法使いではないよ」 終生、私が「先生」と呼ぶことになる人は、困り顔でそう告げた。 年若い私は、夜通し馬で駆けてきた疲労で朦朧としながら、両の手をついてこう繰り返したのだという。 「大賢者アーヴィエリ様、どうか名高い魔法のお力をお貸しください。どうか、どうか」 目を覚ましたのは広間の長椅子だった。夜は明け、朝霧の美しい気配が窓から立ち込めてくるようだった。側には帳面を手にした先生がいた。 私が何か言いかけると、先生は手で制して言った。 「魔法をお目にかけよう」 先

環太平洋神在月合同会議

「それでは、今年度の縁結び・縁切り合同会議を始めます」  出雲大社に集まった全国八百万の神々。様々な事柄が決定される大量の会議の中で、この議題は別の側面を持っていた。 「お手元の資料を元に進めていきたいと思います。えー、正直に申し上げますが……今年度は昨年に引き続き、かなりキツイ状態となっております」  議長の大国主大神の表情は険しい。自分の発した言葉に深い溜息を一つ、ついでにネクタイも緩めてしまう。 「基本的にはいつもと変わらず、依頼件数に合わせての縁結び及び縁切り

キャンプ・オブ・ザ・デッド

「火野、火出してくれ」 「あいよ」 水木の指示に応じて、毛羽立たせた薪に指先から火を灯してやる。 が、あっさりとは火がつかない。仕方無しに着火材の新聞紙に火をつけてから薪に移す。 「あいっかわらずの低火力だなー、ライターの方がまだ強いぜ」 「そういうお前だって霧吹きがわりがせいぜいじゃん」 「こっちはサボテンに水やれるし、サボテン持ってないけど」 「他に使いどころねーのかよ、おーい雨田ースマホ充電できた?」 暗雲たれ込むキャンプ場、そこに俺達は幼なじみグループでゆるくキ

大統領の世界みなごろし大作戦

 アメリカの大統領が世界各国のテレビ衛星をジャックして、生放送を始めた。 「国民、ひいては世界の皆様、お話があります」  中華街にあるラーメン屋、天井角に設えられた小さなテレビの中で、彼はそう言った。 「私は、もうこの世界に耐えられません」  届いたばかりの大盛りのラーメンから顔を上げ、そりゃそうだろうなと、おれは思った。 「ゆえに私、アメリカ合衆国大統領ハート・ミハルカは、死ぬことにしました」  勇気ある決断だ。店の外のサイレンが騒がしい。 「この世界は、私むけに作られてい

ファースター・ザン・リリィ!

 端的に、そして結論から言ってしまうと、人類は百合のせいで滅亡した。  そしてそのせいで、横浜フェアリス女学院二年一組出席番号12番永流水有理<とながみ・ゆうり>は今、銀河系中央、射手座A*近傍の第90526ワームホールジャンクションでヒッチハイクをしている。  始まりはY染色体消失による男性の絶滅だった。  男性消失社会は、IPS細胞等の技術の発達もあって子孫を残すことに支障はなかった。  唯一最大の問題、それは生殖から切り離された恋愛感情。当初は大多数だった異性愛者はや

リョコウバト殺すべし

 渡り鳥の群れが連れてきたものは、糞の山と疫病と、二十日経っても明けない夜だった。何万何億羽分の鳴き声と羽ばたきに、この島に暮らす人間の耳はあっという間に馬鹿になり、皆、怒鳴り声を上げて喋るようになった。奴らの羽根に陽光を遮られ、あらゆる農作物がやせ細った。死骸と糞のスープになった海には腐った魚があばたのように浮かんだ。しかし飢えることはなかった。空は肉で埋まっている。  最初に死んだのはミヨ婆さんだった。屋根の上に降り積もった糞で家が潰れ、窒息したのだ。二番目は川で水を飲

農家の朝は早い

農家の朝は早い。 日の出と共に起き畑作業を始める。 ざっくざっくと畑を耕し、ばっさばっさと邪魔な枝や草を切り落とす。 今は夏の始まり、まだ太陽が昇りきってない内に作業を終わらせなければいけない。 ターン…とどこからか試し撃ちの音が聞こえる。 音の位置からして三軒隣の山田さんだろう。 「成長が早いなあっちは…」 こっちの畑は水捌けも良いし、肥料もしっかりやってんのにな… 試しに適当に作物を一本引き抜き、空に向けて引き金を引いてみた。 ズガン!っという音と共に

余命6時間

時計の針が夕方6時を指した。 お疲れ様の声が職場にこだまする。 今日は金曜日。 早く帰って、愛犬のマー坊と遊ぶぞ。 そう思っていた矢先に電話が鳴った。 「はい。西横浜 法律事務所です」 …杉山です。出願を依頼していた発明を、急遽学会で発表する事になって... いつも穏やかな杉山さんとは違う。動揺した声だ。 「発表はいつですか?」 ...明日の午前9時です!だから、今日中の特許出願をお願いしたい!... 今日中!?マジかよ。 あと6時間しかない...! 杉山さ

不可視のバックドロップ!の巻

 プロレスでマイクアピールするのは重要な行為だった。  だが、マイクアピールだけで勝つレスラーが出てきたのは、誰にとっても予想外だった。 「ふざけんじゃねえぞコノヤロー!」  マスクド『ザ・ドミネイター』ギルガーンがマイクを握り、そう相手を恫喝した瞬間、相手であったチャンピオン、ゴージャス・メルが文字通りKOされた。まるでギルガーンの繰り出したバックドロップを食らったかのように、ひっくり返されてしまったのだ。  白目を剥き、泡まで噴いている。  ギルガーンはマイクを叩きつ

「よろず屋サカズキ」営業中

 ──この酒、味がしない。  それに気付いたのは、皿に零した酒を啜った時だった。  半年に渡る週7バイトと夕飯モヤシ生活を経てようやく購入した幻の酒、<龍の声>。芳醇な香りと裏腹に飲み口は軽やかで、後から健やかな甘みと爽やかな酸味、そして暴力的な旨味が押し寄せる、龍をも唸らす銘酒……の、はずなのだが。 「……?」  俺は手元の皿──酒浸しになったエイヒレの皿から、銘酒をもうひと啜り。  ……やはり味がない。水のほうがマシだ。 「いや、え、エイヒレのせいかも……」