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「みなさんこんにちわ!本日は今SNSで話題になっているフランス料理店、シャ・ソヴァージュさんに来ています!見てください!このビル丸々お店なんです!オーナーのリヨンさん、いったいどういうことなんでしょうか!?」 「当店での食事は1日がかりです。1日をかけて心身を整え、極上の食卓に身を委ねていただきます。さぁ、どうぞ。まず、1階でお召し物を預かります。食事に集中していただくためスマートフォンなどもすべて、責任を持ってお預かりいたします。2階はマッサージです。日頃の疲れを取ってい
「うるせえ! 自分の車に積み込めってほざいたのはてめぇだろ!」 俺が振るった金槌は、眼前のクレーマージジイが握る草刈り鎌より早く、ジジイの側頭部を打ち砕いた。ジジイは倒れ、そのまま動かなくなった。 「しまった……」 俺は青ざめた。今月の殺害許容数は5人まで。このジジイは6人目だ。本当に非正規は不利だ。殺していい数が正社員に比べて少なすぎる。 「やってしまったねえ、浅間くん。超過だよ」 粘ついた声音に振り向くと、東村店長が立っていた。最悪だ。ずっと見てやが
村のはじっこの森の中に、赤くて、丸くて、小さいだるまが住んでいました。 だるまは甘いものが大好き。 特にドーナツ!ドーナツの穴にはまりながら食べるのが大好き! 今日もドーナツをもらいに村までやってきました。 あれあれ、悲しい顔したおじいさん。どうしたのでしょう?「あまい?」 「ああ、だるまか、すまないドーナツはないんだ。兵隊がみんな持っていってしまった。金平糖なら…」「あまい!」 だるまは兵隊が好きではありません。硬くて甘くないからです。 だるまはコロコロ転がり兵隊のいる
ことの発端は、五百年ほど過去に遡る。日本人ならば誰もが知っている『本能寺の変』、その闇に隠された歴史の真相が、すべての始まりだった。 天下統一を目前にした英傑、織田信長に対して、家臣筆頭の明智光秀が謀反を起こし、殺害した。しかし、その仔細ははっきりとせず、諸説ある。 当然だ。南蛮から渡来した外法に手を染めた織田信長が、永遠の命を求めて吸血鬼と化すことを企み、それを明智光秀が阻止した……などという妄言、誰が信じようか。 本能寺において、織田信長の野望は頓挫した。主
「私は魔法使いではないよ」 終生、私が「先生」と呼ぶことになる人は、困り顔でそう告げた。 年若い私は、夜通し馬で駆けてきた疲労で朦朧としながら、両の手をついてこう繰り返したのだという。 「大賢者アーヴィエリ様、どうか名高い魔法のお力をお貸しください。どうか、どうか」 目を覚ましたのは広間の長椅子だった。夜は明け、朝霧の美しい気配が窓から立ち込めてくるようだった。側には帳面を手にした先生がいた。 私が何か言いかけると、先生は手で制して言った。 「魔法をお目にかけよう」 先
「それでは、今年度の縁結び・縁切り合同会議を始めます」 出雲大社に集まった全国八百万の神々。様々な事柄が決定される大量の会議の中で、この議題は別の側面を持っていた。 「お手元の資料を元に進めていきたいと思います。えー、正直に申し上げますが……今年度は昨年に引き続き、かなりキツイ状態となっております」 議長の大国主大神の表情は険しい。自分の発した言葉に深い溜息を一つ、ついでにネクタイも緩めてしまう。 「基本的にはいつもと変わらず、依頼件数に合わせての縁結び及び縁切り
「火野、火出してくれ」 「あいよ」 水木の指示に応じて、毛羽立たせた薪に指先から火を灯してやる。 が、あっさりとは火がつかない。仕方無しに着火材の新聞紙に火をつけてから薪に移す。 「あいっかわらずの低火力だなー、ライターの方がまだ強いぜ」 「そういうお前だって霧吹きがわりがせいぜいじゃん」 「こっちはサボテンに水やれるし、サボテン持ってないけど」 「他に使いどころねーのかよ、おーい雨田ースマホ充電できた?」 暗雲たれ込むキャンプ場、そこに俺達は幼なじみグループでゆるくキ
アメリカの大統領が世界各国のテレビ衛星をジャックして、生放送を始めた。 「国民、ひいては世界の皆様、お話があります」 中華街にあるラーメン屋、天井角に設えられた小さなテレビの中で、彼はそう言った。 「私は、もうこの世界に耐えられません」 届いたばかりの大盛りのラーメンから顔を上げ、そりゃそうだろうなと、おれは思った。 「ゆえに私、アメリカ合衆国大統領ハート・ミハルカは、死ぬことにしました」 勇気ある決断だ。店の外のサイレンが騒がしい。 「この世界は、私むけに作られてい
端的に、そして結論から言ってしまうと、人類は百合のせいで滅亡した。 そしてそのせいで、横浜フェアリス女学院二年一組出席番号12番永流水有理<とながみ・ゆうり>は今、銀河系中央、射手座A*近傍の第90526ワームホールジャンクションでヒッチハイクをしている。 始まりはY染色体消失による男性の絶滅だった。 男性消失社会は、IPS細胞等の技術の発達もあって子孫を残すことに支障はなかった。 唯一最大の問題、それは生殖から切り離された恋愛感情。当初は大多数だった異性愛者はや
渡り鳥の群れが連れてきたものは、糞の山と疫病と、二十日経っても明けない夜だった。何万何億羽分の鳴き声と羽ばたきに、この島に暮らす人間の耳はあっという間に馬鹿になり、皆、怒鳴り声を上げて喋るようになった。奴らの羽根に陽光を遮られ、あらゆる農作物がやせ細った。死骸と糞のスープになった海には腐った魚があばたのように浮かんだ。しかし飢えることはなかった。空は肉で埋まっている。 最初に死んだのはミヨ婆さんだった。屋根の上に降り積もった糞で家が潰れ、窒息したのだ。二番目は川で水を飲
農家の朝は早い。 日の出と共に起き畑作業を始める。 ざっくざっくと畑を耕し、ばっさばっさと邪魔な枝や草を切り落とす。 今は夏の始まり、まだ太陽が昇りきってない内に作業を終わらせなければいけない。 ターン…とどこからか試し撃ちの音が聞こえる。 音の位置からして三軒隣の山田さんだろう。 「成長が早いなあっちは…」 こっちの畑は水捌けも良いし、肥料もしっかりやってんのにな… 試しに適当に作物を一本引き抜き、空に向けて引き金を引いてみた。 ズガン!っという音と共に
時計の針が夕方6時を指した。 お疲れ様の声が職場にこだまする。 今日は金曜日。 早く帰って、愛犬のマー坊と遊ぶぞ。 そう思っていた矢先に電話が鳴った。 「はい。西横浜 法律事務所です」 …杉山です。出願を依頼していた発明を、急遽学会で発表する事になって... いつも穏やかな杉山さんとは違う。動揺した声だ。 「発表はいつですか?」 ...明日の午前9時です!だから、今日中の特許出願をお願いしたい!... 今日中!?マジかよ。 あと6時間しかない...! 杉山さ
プロレスでマイクアピールするのは重要な行為だった。 だが、マイクアピールだけで勝つレスラーが出てきたのは、誰にとっても予想外だった。 「ふざけんじゃねえぞコノヤロー!」 マスクド『ザ・ドミネイター』ギルガーンがマイクを握り、そう相手を恫喝した瞬間、相手であったチャンピオン、ゴージャス・メルが文字通りKOされた。まるでギルガーンの繰り出したバックドロップを食らったかのように、ひっくり返されてしまったのだ。 白目を剥き、泡まで噴いている。 ギルガーンはマイクを叩きつ
──この酒、味がしない。 それに気付いたのは、皿に零した酒を啜った時だった。 半年に渡る週7バイトと夕飯モヤシ生活を経てようやく購入した幻の酒、<龍の声>。芳醇な香りと裏腹に飲み口は軽やかで、後から健やかな甘みと爽やかな酸味、そして暴力的な旨味が押し寄せる、龍をも唸らす銘酒……の、はずなのだが。 「……?」 俺は手元の皿──酒浸しになったエイヒレの皿から、銘酒をもうひと啜り。 ……やはり味がない。水のほうがマシだ。 「いや、え、エイヒレのせいかも……」