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不可視のバックドロップ!の巻
プロレスでマイクアピールするのは重要な行為だった。
だが、マイクアピールだけで勝つレスラーが出てきたのは、誰にとっても予想外だった。
「ふざけんじゃねえぞコノヤロー!」
マスクド『ザ・ドミネイター』ギルガーンがマイクを握り、そう相手を恫喝した瞬間、相手であったチャンピオン、ゴージャス・メルが文字通りKOされた。まるでギルガーンの繰り出したバックドロップを食らったかのように、ひっくり返されてしまったのだ。
白目を剥き、泡まで噴いている。
ギルガーンはマイクを叩きつけ、むくつけき体に覆いかぶさり、フォールしにかかる。
即座にレフェリーが首を振り、ゴングが鳴る前に鳴らされてしまった。
「ああ~ッと! ゴージャス・メルなんとフォール負け! アメリカの誇るチャンピオンが、コトダマプロレスラーによって蹂躙された! ギルガーン、アメリカをドミネイトだーッ!」
ギルガーンは、もとはといえばどうということはない平凡なマスクマンだった。だが日本遠征で妙な気功術を学んできたとかで、帰国した瞬間『ザ・ドミネイター』を名乗り、マイクアピールだけで相手を蹂躙し始めたのだ。
最初のうちは面白がっていたプロモーターや他のレスラー達も、我が事になるとわかると、その恐ろしさに頭を抱えた。
何しろゴングが鳴る前の出来事だ。反則でないことはもちろん、マイクアピールによって繰り出される技は毎回異なり、防ぎようがない。運良くマイクアピールを耐えられても、彼はそもそも強すぎるのだ。
「ガッデム! これで奴さん、二つの王座の統一王者だぞ!」
「どうにかならんのか」
「一人いる。技もキレてマイクアピールをもろともせん男がな」
プロモーター達は顔を突き合わせて、胡乱なレスラーへの対策をどうにか決めることができた。
即ち、目も見えなければ耳も聞こえない──事故によって全盲となった悲劇のレスラー、ミスター・ゼロの起用である!
(続く)