読書日記「タトゥーママ」

「タトゥーママ」

ジャクリーン・ウィルソン作 小竹由美子・訳 ニック・シャラット絵


「これがあると、自分が特別に思えるの。」と言って、全身にタトゥーをいれまくっている、かなりクレイジーなママを持つ娘ドルフィンの成長物語。

そうか、世界に一つしかないタトゥーをいれることが、この母親のアイデンティティの根幹なのかと驚いていると、内容はどんどん、ズシリと重くなっていく。この作品は、ユーモアを持って描かれているものの、ネグレクトやヤングケアラーといった題材を扱ったものだからだ。

タトゥーママでシングルマザーのマリーゴールドは、劇中ずっと情緒不安定で、姉スターと妹ドルフィンの娘二人を振り回す毎日。食事はあまり作らず、生活保護のお金のほとんどを自分のウォッカに使ってしまう。姉妹の父親は、それぞれ別で、娘二人は自分の父親に会ったこともない。

マリーゴールドの突飛な行動は、これでもかこれでもかと容赦なく続き、子ども向けの児童文学で、こんなにしんどい描写が続いて大丈夫かと思いつつ、ページをめくる手が止まらない。それは、マリーゴールドがどんなにしょうもない人物として描かれていても、その人物描写の精緻さが、心が壊れてしまう境遇を、読者に理解させ共感させてしまうのだ。突飛な行動は、全てが普通には生きられない人間の魂の叫びなのだと。

それにもまして、小学生の娘ドルフィンが、他の大人たちが母をどんなに悪く言おうと、ダメな母を見捨てず、愛し続ける。その姿が、読者の胸を打つ。

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