AIの時代とは何なのか

 この2本の記事「AIは人を幸せにするか」と「経済学の視点でみたAIの実力は」は、示唆に富んだAI本質論で、大変読み応えがありました。特に前者の記事では、産業革命の一つの解釈として思考方法の革命とでも呼ぶべきものが対置されており、人間の判断プロセスの変化を追うことが、AI時代の本質に迫る道筋になる、と気付かされたのです。そこでまず、『産業革命』、『思考革命』、そして『判断プロセス』の3つの要素を2つの表に整理してみました。

(産業革命と思考革命)

【産業革命】・・・・・・・・・【汎用技術GPT】・・・・・・・・・・・・・【思考革命】                      ルネサンス以前・・・・非科学的推論                       ルネサンス・・・・・・・科学的推論第1次産業革命・・・・・・・・・・・蒸気第2次産業革命・・・・・・・・・・・電気第3次産業革命・・コンピューター・インターネット・・コンピューター革命・・計算の機械化第4次産業革命・・・・・・・・・・・・AI・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・AI革命・・・・・・・推論の機械化

(思考革命と判断プロセス)

【思考革命】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・【判断プロセス】ルネサンス以前・・・データ⇒経験・迷信・啓示など(非科学的推論)⇒予測⇒意思決定ルネサンス・・・・・・・データ⇒収集⇒⇒⇒分析⇒⇒⇒算法⇒⇒⇒計算⇒予測⇒意思決定                   (科学的推論)コンピューター革命・・・データ⇒収集⇒分析⇒算法⇒計算の機械化⇒予測⇒意思決定AI革命・・・・・・・・・・・・・・・データ⇒IoT⇒⇒⇒⇒⇒⇒推論の機械化⇒⇒⇒⇒⇒⇒意思決定          (データ収集の自動化) 

データ(情報)から始まって意思決定に至る人間の判断プロセスは、人間が中心となって世界を観察する科学的思考が開花したルネサンス以降、データ収集⇒データ分析(パターンの発見)⇒算法(アルゴリズム)⇒計算⇒予測という科学的推論を思考エンジンとして磨きあげてきました。

そして、第3次産業革命の時代になって、コンピューターという地球レベルであらゆるものを変えていく力を持った汎用技術GPTが登場すると、判断プロセスの中の『計算』が機械化され、複雑・膨大な問題に高速で解を得られるようになります。この現象を別の言葉で表現するなら、人間は、コンピューターを自身のスキルの拡張機能として使うことによって、『思考』を高速化したのだと言えます。思考が高速化することによって、文明の進化のスピード、社会の変化のスピードが速まったのは言うまでもありません。

さらに、第4次産業革命の時代となると、今度はAIという人類史上最強の汎用技術GPTが登場します。AIは、機械学習(ディープラーニングを含む)をするため、データを反復学習してパターンを見付け、自律的にアルゴリズムを構築して、予測までこなします。つまり、それまで人間が行っていた判断プロセスのうち、IoTと組み合わせることによって、データ収集から予測までの全過程を、『推論』そのものを機械化してしまったのです。もちろん、あらゆる分野の全ての課題をAIに委ねる訳ではありませんが、人間は、AIを自身の拡張機能として駆使することによって、『今まで扱う事の出来なかった』IoT経由の膨大なデータから、『今まで見えていなかった』課題(パターン)を見い出して、課題解決までもっていけるようになったのです。

 このようにAIの存在を分析してみると、AIの時代とはどの様な時代なのか、AIは我々人類に何をもたらしてくれるのか、自ずと見えてくるように思えます。

① AIによって、人間は、生身の人間では扱いきれない膨大なデータ、あらゆるモノ(=自然現象・人間の行動・機械・物理的な物など)の変動がデータとして扱えるようになる。⇒あらゆる課題にチャレンジできるようになる。⇒SFの世界の話だと思っていたようなことが、夢のような事が、実現できるようになる。② AIによって、人間は、生身の人間では量が膨大過ぎてパターンを見い出せないようなデータの集合から、課題解決の糸口を見付けられるようになる。⇒今まで解決の糸口が見い出せなかったような課題にもチャレンジできるようになる。⇒あきらめかけていた社会課題が、解決へと前進できるかも知れない。③ ①②によって、技術・経済・社会・政治などあらゆるレイヤーで革新的なイノベーションが起き、人類の文明そのもののパラダイムシフトが起こる。⇒私達の生活のありようが大きく変化する。変化のスピードは速い。⇒人類の幸福を考え、AIの活用の仕方、方向性、目的を設定することが人間の大きな仕事となる。

その一方で、物事には必ずプラス面とマイナス面があるように、AIにも留意しなくてはならない点があります。

(1) IoTによるあらゆるモノの見える化の中で、個人のプライバシー、データの保護がないがしろにされては、AIによる人類の幸福な未来の追求どころではなくなる。過不足のない規制が必要である。(2) AIは決して神ではない。機械なのであって、AI特有の限界がある事を忘れてはならない。 ① AIは、間違えることがある。 ② AIの出した予測が、完全にどんな場合でも成立するかは、立証できない。 ③ AIは、人間の意思決定を反映しているデータによって汚染され、バイアスがかかることがある。 ④ AIがブラックボックスの場合は、判断の根拠が不明である。

故に、我々人間は、思考の判断プロセスの推論までは、予測まではAIに委ねても、最後の意思決定の手綱は、決して離してはいけないということです。AIの出した予測を、AIの限界に基づいて評価し、人間の価値基準でふるいにかけることが大切だと思います。AIの生成した斬新なアイデアを人間の常識でボツにしてしまっては元も子もありませんが、無条件に信じるのもリスクです。

最後に忘れてはならないのは、AIはデータを学習して予測する機械だということです。データとは無関係に想像を膨らませる人間の真似はできません。空想するAIなんてないのです。私は、AIと人間の知的能力は別種のもので、決して人間がAIに凌駕されてしまうような事態にはならない、と信じています。

               

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO30169230X00C18A5TCR000/

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO30156790X00C18A5KE8000/

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