会社のあり方~UXデザインの重要性~

 この記事【「レール外れた」楽天マン 楽しく価値生む働き方とは】、何気なく読み始めたのですが、次に挙げるくだりで視線が釘付けとなりました。少し前に注目した記事【働くなんて「余暇活動」でいい ボーナスは同じ】(本稿末尾に添付)と異口同音、同じ趣旨だと思ったのです――

●楽天大学学長・仲山考材代表取締役 仲山進也氏「夢中で遊ぶように仕事をしていると、新しい価値や魅力が生まれて自然に人が集まってくる」●スタートトゥデイ社長 前沢友作氏「みんなが好きなことをやってうまくいく会社が、僕の理想です」……「どうせ買うなら、誰だって、楽しそうな人から買いたいでしょう。はやっている店ほど、働いている人も楽しそうだと思いませんか?」

今の時代、現在進行形の第4次産業革命の時代の『会社のあり方』とはどのようなものなのか、後者の事例などからは、次のようなことが読み取れました――

(1)今の時代の消費者の特徴①『情報発信』・・・消費者は、企業より先に行動して、自ら情報発信し、共感した人のコミュニティーが市場を作る。②『コト消費』・・・消費者は、『モノ』そのものではなく、そのモノによって得られる体験=『コト』の方を重視する。(2)第4次産業革命の時代の産業の特徴 コモディティ化するモノと、IoTとそれを制御するAIを活用したサービスをパッケージにして供給する、『コトづくり』が産業のあり方となる、製造業のサービス化が進行する時代。●プロダクトアウト=UX(ユーザーエクスペリエンス)と直結しない・・・従来の『モノづくり』 『モノづくり』=メカニクス+エレクトロニクス+ソフト●ユーザー参加型=UXと直結・・・『コトづくり』のビジネスモデル 『コトづくり』=メカニクス+エレクトロニクス+ソフト+IoT+AI              =モノ+サービス(モノとサービスの融合)(3)UXデザインの重要性 今の時代のユーザーは、『モノ』そのものではなく、そのモノによって得られる体験=『コト』の方を重視しますから、どのようなUXをデザインするか、という事がその商品(モノ・サービス)の質、つまり売れ行きに直結すると言えます。(4)『好きなコトで楽しく働く』ことの意義 UXを最大化するような事を思い付くには、働く者自身が、そのモノ・コトが好きで、好きなモノ・コトをトコトン突き詰めることが肝心なのです。働く人が心から楽しんでなくて、本当にユーザーを感動させる体験を提供出来るはずがない……働く人がユーザーと同じ夢を、ユーザーの期待以上の夢を見ることが、会社というものの本来のあり方。

――(1)今の時代の『会社のあり方』は、『情報発信』と『コト消費』を特徴とする消費者に対応したものでなくてはならない。(2)この『コト消費』に対応するには、第4次産業革命の時代のテクノロジーであるIoTやAIなども活用して、(3)UXデザインに力を入れなくてはならない。(4)このUXを最大化するには、何よりも働く者自身が、そのモノ・コトが好きで、楽しんで働くことが肝心である。――という事を、スタートトゥデイの事例は教えてくれたように思います。

 つまり、好きなことをするために会社に入り、『楽しみながら働く』、というのが本来の『会社のあり方』である、という考え方なのです。

今回の記事、楽天大学学長・仲山考材代表取締役 仲山進也氏のお話は、私には、同じ趣旨の事を、仲山氏自身の言葉で力強く語っているように思えます。改めて、『楽しみながら働く』『夢中で遊ぶように仕事をする』ことの重要性、働く者にとっても、企業にとっても、ユーザーにとっても重要であることを再確認した思いですが、今回の記事からは、さらに2つの重要な指摘を引き出せるように思います――

【1】大企業組織の弊害~『楽しみながら働く』こととの大きな隔たり~

記事中に、大企業の組織というものが持つ構造的な弊害が、さりげなく2点指摘されているのですが、とても鋭い指摘ではないでしょうか――

①『組織の網からモレる重要事』・・・仲山氏「組織が大きくなって機能分化していくと、その境目から漏れ落ちてしまう仕事が出てきます。誰の担当でもないけれど大事な仕事が、会社のあちこちに落ちている」②『売上・利益重視』・・・仲山氏「組織が大きくなると、やっぱり『直接の貢献』以外は評価されにくくなると思う……」

――大企業の組織が、仕事に『漏れ』があったり、特定の仕事=売上・利益に直接結びつく仕事に『偏り』をもったりしていては、企業としてのバランスの取れた継続的な成長が危ぶまれます。

この文脈に、先の『楽しみながら働く』という考え方を当てはめると、まず、『楽しみながら働く』とは、好きなモノ・コトをトコトン突き詰めることですから、そもそも、タテ割りの機能分化した組織は不適切です。案件、プロジェクトごとのチームでオープン、スピーディーかつダイバーシティに取り組むことが重要ではないでしょうか。タテ割りの機能分化した組織が、UXの最大化を図れるとは思えないのです。

 顧客の求める価値が多様化していく時代には、組織の力ではなく、個人の力が発揮できる仕組みが求められると思います。

 また、売上・利益重視の仕事の仕方も、『楽しみながら働く』という考え方からすると、本末転倒です。本来『売上』『利益』『稼ぐ』ということは二義的なもので、一義的には、『人のために役に立つ』『人を喜ばせる』ことがあるべき姿です。『人のために役に立つ』『人を喜ばせる』とは、『UXの最大化』に他ならず、UXをトコトン追求した結果として売上・利益がついてくるのです。

【2】企業が必要とするもの~社会資本・心理資本の充実~

記事中、予防医学研究者 石川善樹氏による次の指摘も重要だと思います――

……経営学者のピーター・ドラッカーは主に大企業を念頭に置いて、組織に対する貢献には3つの種類があると説いています。1つは直接的な貢献、これは売り上げや利益ですね。2つ目が人材の育成。そして3つ目が価値への貢献だと。仲山さんの仕事は、この3番目なんだと思います。その企業しか提供できない価値をつくる。そうすれば、キャッシュは後から付いてくる。

――組織に対する3つの貢献とは、逆に捉えると、組織には育てなくてはならない分野が3つあるということです。①直接の貢献(売上・利益)・②人材育成・③企業の提供する価値、この3つの文脈に『楽しみながら働く』という考え方を当てはめると、直ちに分かる事は、3つともUXデザインと関連しているという点です――

①直接の貢献(売上・利益)・・・UXの最大化の結果として業績が向上する。②人材育成・・・人材は、座学ではなく、現場、実地での体験を通して育つ。その意味で、個人の力が発揮できる(失敗も経験できるという事)、好きなモノ・コトをトコトン突き詰めるUXデザインの現場は、最良の人材教育の場である。③企業の提供する価値・・・UXデザインを突き詰める事が、企業の提供する価値を高める事。

――企業として育てなくてはならない3つの重要分野という観点からも、UXデザインの考え方、ひいては『楽しみながら働く』ということが重要な意義を持っていることが確認できます。そして、『楽しみながら働く』ため、『楽しみながら働ける』ためには、企業として、社会資本・心理資本の充実を図ることが、ともすれば見過ごされがちな社会資本・心理資本に目を向けることが大切ではないでしょうか――

●財務資本Financial Capital・・・いわゆる資本。資本主義社会における投資。●人的資本Human Capital・・・財務資本を生み出す人の能力。●社会資本Social Capital・・・人が学習し、その人を支援する場としての、社会的ネットワークにおける人間関係。人的資本を生み出す人間関係。●心理資本Psychological Capital(PsyCap)・・・変転する環境の中で、ポジティブな心理状態を持続可能とする要素。財務資本・人的資本・社会資本など、全てを生み出す源。個人にとっては、自身の生き方、生きがいに向かって前進するため、自分の能力を最大限に発揮するために必要な心理状態。企業にとっては、競争力を最大化するために、どうやってそのような心理状態を引き出すかという課題。

 今回の記事を通して、UXの最大化と密接に結びついた『楽しみながら働く』という考え方が、①第4次産業革命の時代の『会社のあり方』としても、②大企業組織の弊害を乗り越えるためにも、③企業として育てなくてはならない3つの重要分野という観点からも、その優位性が確認できました。これからも、このような考え方で経営を進める企業の動向に目を配っていこうと思います。

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO32592290U8A700C1000000?channel=DF040420183720

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO99044530Q6A330C1000000?channel=DF180320167075

https://comemo.io/entries/8718

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