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『天使の翼』第12章(6)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 他に人工物、人影は見当たらない。空を見渡す。何も飛んでない……
 わたしは、もうしばらく待ってから、矢も楯もたまらず、エアカーに向かって走り出していた。わたしは、狭まった視界の中で、全身、自分自身の荒い息遣いと地面を蹴る靴音に包まれた。
 わたしは、どうかしていた。死を連想させる不安がパニックを起こしたのか……。わたしがシャルルに助けられたのだとしたら、あの沈みかけたエアカーにシャルルが乗ってるはずもなく、ローラだってわたし同様に岸まで助けられているに違いないのだから。
 海のように波の打ち寄せる湖岸に達した後も、わたしは、何のためらいもなく、せっかく乾きだしている服がまた濡れてしまうのもお構いなく、湖水に突進した。おぼろげに、この水のせいでわたしの体は湿っていたのだと思ったが、その矛盾には全く気付かなかった。

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