夢を共通言語化するSFの意外な効果

 この記事【アニメが育む技術革新】は、人間の願望、夢が、最終的な技術革新へと結実していく過程に関するユニークなリポートになっています。そこでは、SF小説やSFアニメといった『SFという文化のジャンル』が意外な役割を果たしている事が浮き彫りになります。

 この印象的な記事を読んで、改めて、人間の願望が実現していく過程というものを考えてみました――

▶人間の願望が実現していくプロセス

①『課題・障害』・・・「~できない」・・・その課題や障害を乗り越えていくテクノロジーが存在しない状態。⇓②『願望』・・・「~したい」・・・人間は、『課題・障害』があると、それを諦めるのではなく、それを乗り越えたいと思う。⇓③『空想』・・・「~があったら~できる」・・・【願望の言語化】人間は、『願望』を達成するための手段をあれこれ空想する。⇓④『想像』・・・「~があったら~できるよね」・・・【空想の共通言語化】一人の『空想』であったものが、多くの人に共有された想像になる。⇓⑤『イメージの強化』・・・「いつか達成できそうだ」・・・【想像の映像化】共通言語化されたイメージは映像化によってさらに強化される。⇓⑥『研究』・・・「本当に実現しよう」・・・【イメージの具象化】願望を実現するための具体的な行動が起こされる。⇓⑦『技術革新』・・・「~できた」・・・「できなかった」事が「できる」ようになる、【イノベーション】が起きる。

このプロセスを、例えば『宇宙旅行』で辿ってみると――

▶宇宙旅行が実現していくプロセス

①『課題・障害』・・・「光速は超えられない」⇓②『願望』・・・「天の川銀河を一周したい」⇓③『空想』・・・「ワープ航法装置があれば宇宙旅行できる」⇓④『想像』・・・宇宙冒険するSF小説⇓⑤『イメージの強化』・・・宇宙旅行のSF映画⇓⑥『研究』・・・ワームホールの実用化の研究⇓⑦『技術革新』・・・ワープ航法の確立?

 人間という生き物の最大の特質は、「できない」事を実現しようとする力があることで、夢を見る、『願望』を抱く能力がその出発点にある、と考えられます。そして、その『願望』は、心の中の『想念』から、言語化された『空想』へ、さらに、多くの人に共有される共通言語化された『想像』へと進化していきます。この言語化のフェーズが映像化のフェーズへと進むと、願望のイメージは著しく強化され、いつか実現するに違いない、という共通基盤が人類に出来上がる。この謂わば『願望のコミュニティ』に育まれて実際の研究が各所でスタートするのです。

 このように考えると、人間の抱く願望を人類共通のイメージ、夢へと昇華させる装置としてのSF文化は、意外にも単なる娯楽の域を遥かに超えた重要な役割を担っていることが分かります。SF文化は、イノベーションの加速器と言っても過言ではないと思います。

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO34151230U8A810C1XY0000/

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