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執行機能の強化について~CGSガイドライン、「経営戦略としての取締役・執行役員改革」~

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「経営チームをどう定義するか」や「役職ごとの権限定義をどう考えるか」「会議体の設計等、リーダーシップチームをどう運営するか」などはコーポレートガバナンスに関する重要アジェンダであると思うが、まだ十分な議論の蓄積がないところであるように思われる。

そのような中、経産省のCGSガイドライン(2022年7月改訂版)や、書籍「経営戦略としての取締役・執行役員改革」に、思考を整理する上で参考となる記述があったため、要点を整理する。

CGSガイドラインにおける「執行機能の強化」

CGS研究会(第3期)の議論をまとめたCGSガイドライン(2022年7月改訂版)では、執行機能の強化についても盛り込まれている。

CGSガイドラインは、「攻めのガバナンス」について、企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図るところにあるとする。

また、「コーポレートガバナンス改革が会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上へと寄与する経路」の中で、最初のステップとして、優れた社長・CEOを選ぶことなどにより、経営陣自体の強化を図ること(で、中長期的な企業価値の向上を図ること)を挙げている。

そのうえで、執行側(経営陣)と監督側(取締役会)は相互に共同して経営戦略を作り上げる関係にあり、取締役会を核とする監督機能と執行側(経営陣によるマネジメント)の機能の双方を相乗的に推し進めていく意識が重要であるとして、執行機能の強化の必要性について言及する。

そして、大胆な経営改革は、トップがリーダーシップを発揮して行うほかなく、これを支える執行側のしくみとして、①トップマネジメントチームの組成と権限の委譲、②経営戦略等の策定・実行における工夫、③経営・執行の機能強化のための委員会の活用、④幹部候補人材の育成・エンゲージメント向上、⑤相談役・顧問の在り方などについて取り上げる。

上記①(トップマネジメントチームの組成と権限の委譲)に関しては、大要、以下のような内容が示されている。

  • 社長・CEOを中心としたトップマネジメントチームにて各業務執行役員の責任・権限を明確にし、その内容に応じた権限移譲を進めることが有効

  • 機能毎の最高責任者(CXO)の設置も有効

  • イノベーション創出のため、トップマネジメントチームのダイバーシティ確保は重要

これらの内容は特段真新しいものではないが、個社の事情を踏まえた設計が必要となる以上、抽象度の高い記載にとどまるのはやむを得ないであろう。
それよりも、「攻めのガバナンス」のためには執行機能の強化が重要であるという正当な問題意識を示し、関連する内容を相当量盛り込んだこと自体に意義があるように思える。

トップマネジメントチームにおける責任・権限の明確化

上記1点目の指摘は、先日のnoteで言及した「ミッションベースの組織設計の大切さ」とも密接に関連する。

トップマネジメントチームは業務執行の責任者から構成され、ミッションをカスケードダウンする起点である。
ここでミッションが不明確になると、全社的に期待役割や目指す成果が不明確になると懸念され、経営アジェンダに基づきミッションを構造化し、その構造に沿ったチームアップを実践する必要性が高い。

また、トップマネジメントチームのメンバーには役職が付されることが通常であるが、役職ごとの権限定義の明確化も必要となる。
さまざまな事情から上位者の役職は複雑化しやすいように思うが、権限定義を意識することは、むやみな役職の複雑化を避けることにもつながるように思う。

センシティブな人事マターであり、関係者の思惑や見栄、忖度などの割り切れなさを伴うアジェンダではあるが、極力ミッションベースで、また、シンプルな設計を意識することが、「攻めのガバナンス」を実現する執行機能の強化にとって重要であると思う。

「経営戦略としての取締役・執行役員改革」

トップマネジメントチームに関しては、コーン・フェリー・ジャパンの中の方々の書かれた「経営戦略としての取締役・執行役員改革」という本が参考になった。

  • 現状の執行役員改革には、①曖昧な執行役員の責任・権限②肥大化した執行役員ポスト③屋上屋を架す執行役員の重層構造という課題がある。

  • 監督と執行の分離、意思決定・業務執行の迅速化などの執行役員制度の目的は、運用の中で、人起点で処遇ポストとして執行役員ポストを用いた結果、上記のような課題を生じさせた。

  • 経営の効率化、意思決定・業務執行の迅速化のため、執行役員制度改革を行う動きも広がっている。

  • 例えば、取締役会のスリム化、意思決定階層の削減、役職・役位の整理・統廃合、執行役員のスリム化などの一連の改革が進められ、責任・権限・役割の明確化が図られた大企業の事例がある。

  • 「人」「役位」起点で執行役員を処遇している会社は、「役割」「機能」起点での設計に転換する(戦略を実現するための組織設計、役員ポストを設計し、機動性を重視する)ことが重要。

  • さらに発展すると、「適所適材」の実現全社的な変革や経営リソースの配分を大局的に判断・執行できる執行体制の再構築と高度化していく。

  • 事業ポートフォリオの変革が求められる企業では、事業オーナーへの大幅な権限移譲を行いつつ、CXO制を導入し、各機能領域の責任者に全社最適に向けた変革を期待する動きも広がっている(ただし、理想と実態に乖離が存在する場合も少なくない)。

などの内容が書かれているが、事例も豊富であるし、解説もわかりやすい。
あまり類書がないようにも思うし(※)、貴重な示唆を得られる書籍としてオススメである。

※むしろ、類書があればぜひ知りたいので、お心当たりがあれば、コメント欄に参考情報をご記載いただけると大変ありがたいです。

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