トツキトオカがつながって
「ママ、赤ちゃんができたみたい」
なっちゃん(次女)からLINE。
あつこ「えっ!本当に?」
なっちゃん「妊娠検査薬で反応が出てるから」
あつこ「じゃあ、ちゃんとお医者さん行ったほうがいいね」
なっちゃんがお腹の中にいたときを思い出す。
あつこは妊婦検診を4回しか受けていない。
これはかなり少ない。
妊婦検診が少なかった理由。
はるちゃん(長女)が病気になって、入院したからだ。
はるちゃんは1人で入院するには小さすぎて、親がついている必要があった。
夫は会社だから、妊娠中のあつこが付き添うしかなかった。
(そのころの病院はそうだった、今は違うはず)
ばん!
なっちゃんはお腹をよく蹴った。
「絶対男の子だ」と思っていた。
ばん!……ぼん!
はるちゃんの病室で
「よしよし」とお腹をなでて、まだ見ぬ赤ちゃんをなだめた。
(その頃は名前はまだついてなかったから)
自分の体の中なのに、私の意思に関係なく、動いている別の命がある。
不思議な感覚。でも嫌いじゃなかった。
ーーー
4回目の入院。
いろいろなことが重なって、はるちゃんは危険な状態になった。
夜にもかかわらず、小児専門病院への転院が決まった。
夜10時過ぎだった。オットは出張中。
実家のおじいちゃんおばあちゃんは、来られるのは急いでも翌朝。
自分でもわかるほど、呼吸が浅くなった。
何もかもがバタバタだった。
たった一人で対処せねばならず、最初のうちはめそめそ泣いていたけど、そのうち涙も出なくなった。
転院する私たちを、暗い中、そっと見つめる他の付き添い親たち。
救急車が呼ばれて、私も一緒に乗って。
救急車のサイレンがずっと響いて。
車内で聞くと大音響だ。
いつもみたいに、この音は遠くに離れていかない。
現実じゃないみたいな。
気が遠くなりそうな。
窓の外は暗くて
信号の色に関係なく、突っ走って。
はるちゃん。
はるちゃん。
その時だった。
お腹が伸びた。
左の下の方から中心に向かって。
うにゅーーーん。
ゆっくりとなでられた。
もう一度、
うにょーーーーん。
やや、中心寄りに。
やさしく。
そろそろとお腹がのびた。
はっ、とした。
わたし、励まされてる?
……。
ゆっくり、やさしい動き。
……。
わかりました、赤ちゃん。
お腹をそおっと撫でて、答えを送る。
今日は蹴らないんだね。
軽く頭を振って、深呼吸して、気持ちをもどす。
よし!
小児専門病院に着いた。
ドクターと看護師さんが待っていてくれた。
夜中の1時過ぎだった。
看護師さんに事情を説明して、
事務処理もできる範囲でこなして
ドクターとも話をして。
新しい朝が来た。
そのまま2日間が過ぎて
はるちゃんの命はつながった。
ーーー
あつこのお腹はどんどん大きくなった。
小児専門病院の入り口の前で撮った写真。
9ヶ月の大きなお腹のあつこ。
下腹部を軽く押さえて、少しだけ微笑んでる。
そして
なっちゃんは無事に生まれた。
健康な子で、ほとんど病気もしなかった。
すごく親孝行だったのだ。
はるちゃんの入院があったのでなおさらだった。
ーーー
妊娠期間は十月十日と呼ばれる。
おなかに新しい命を抱えて
泣いたり笑ったり。
そして赤ちゃんに励まされたり。
いとおしい時間。
あのトツキトオカに胸いっぱいの感謝の思いを。
(はるちゃんは、小学校に上がる頃には元気になった)
なっちゃんは産婦人科へ。
小さな心拍が確認できた。
なっちゃん、おめでとう!
どんなトツキトオカを過ごすのか。
期間限定だから、いつくしんで、大事に過ごしてね。
あつこ「あのとき
励ましてくれて
ほんとうにありがとう」
なっちゃんにそう言ったら
なっちゃん「覚えていないけど、どういたしまして」
軽くおなかに手を当てながら、ふわっとほほ笑まれた。