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2015年8月のキルメン・ウリベ氏トーク会のこと。

大好きな作家、スペイン、バスクのキルメン・ウリベ氏が来日。
(2015年8月) 
トーク会、下北沢の本屋B&Bにて。

秋に出た新作「ムシェ 小さな英雄の物語」
執筆にまつわる話、作家としての思い、バスク語についての話、彼の詩。

内気だったという彼の子供時代が推し量られるやわらかなスペイン語。
愛情たっぷりに暗唱した、彼の妻に贈ったとても美しい詩の朗読。

とても楽しく、あっという間に過ぎた時間でした。

ウリベの手法は実在の人物・歴史にまつわる資料を集め
話を聞き
美しいコラージュのように紡ぎだす、
歴史小説とも違うフィクションとも違う
曖昧な境界線が心地よい、「市井のひとのものがたり」を書き出すというもの。

「ムシェ」はスペイン内戦下にバスクから疎開した少女を引き取ったベルギーのロベール・ムシェの人生を描いています。

スペイン内戦、ナチスによる迫害、人道支援をしたはずの英国軍が
ミスにより大量のナチス囚人を殺してしまうという事故。
あらゆる暴力によりただ失われていくままにしておくのではなく、
淡々と記憶を掘り起こし、はりつけていく。

それはウリベ自身の使うバスク語がかつては失われかけたものであったり
口承的に伝わる言葉ゆえに文学としての歴史が浅かったり
彼自身がとてもちいさな、消えそうなもので成り立っているから、
集めたロベールの情報に自分自身が入り込んで物語が作り出せるのでしょう。

またここで書かれている登場人物には、
ウリベが「こうあってほしい」と思うヨーロッパ人の姿があるそうです。
それは
「多様性を認め、外からの人々を受け入れる成熟した、そして誠実なヨーロッパ」
ということ。

今年のシリア難民受け入れやテロ後の色々な意見を通して
日本人ではナチュラルに持てない価値観があるとすれば、
そういうヨーロッパであるかもしれません。
もちろん現実はとても厳しいけれど理想とするものがなければ。

今回のトーク会は東京外国語大学の今福龍太先生と
訳者金子奈美さんが進め、
今福先生の多方向からの解説にじわじわと考えが深まったり
前作から訳のすばらしさに感激したことを金子さんにお伝えすることができたり
本当に参加できてラッキーでした。

ウリベのサインもいただきました。

来日旅行記も書いてくれないかなぁ・・・

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