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”シャッターを下ろした妻の心”はどうすれば開くのか?

「妻の心にシャッターが下りてしまい、何を言っても聞いてくれないんです」

過去に起こった出来事によって、妻は夫を心理的に拒否するようになり、心に硬く重いシャッターが下りてしまった。

もう、なにを言ってもどうにもならず、妻本人ですらそのシャッターの上げ方がわからない。

同じ家で暮らしながらも、ふたりの声はお互いに届かず、まるで別々の世界で暮らしているかのよう。

手を伸ばせば触れられる距離にいながら、ふたりの距離は果てしなく遠く感じる。

そんな経験はないでしょうか?

今回は”なぜ、妻は心を開いてくれないのか?”について、銀座にカウンセリングルームを構える臨床歴25年の臨床心理士、上遠文恵さんに伺った内容をまとめようと思います。

「妻が心を開いてくれなくて困っている」

「夫に心を閉じてしまい、自分でもどうしたらいいのかわからない」

そんな方の参考になれば幸いです。

なぜ、妻は心を閉ざすのか?

夫にとっては突然の出来事に思える、妻からの心理的拒否。

”もう口も聞きたくない”

”できるだけ同じ場所にいたくない”

そんな現象はなぜ起こるのか?

臨床心理士である上遠さんはこう言います。

女性にとって、心を閉じてしまいたくなる出来事があった。

大きなインパクトのある出来事が一回あっただけでも、もうダメだと心を閉ざすこともあります。

完全に心を閉ざすというのは、そういった出来事の積み重ねなんです。

夫にとってはなにげない一言であっても、妻にとっては深く傷つく言葉であることもある。

妻を思った発言であったとしても「普通はこんなことしないよ」「そんなんじゃダメだよ」といった言葉や解決策の提案が、妻にとっては”わたしの気持ちをわかってもらえてない”という寂しさにつながっていく。

上遠さんはそれを”自分の味方をしてくれない違和感”と呼ぶ。

もちろん男性もそうですが、女性は(この人、わたしの味方をしてくれてないな)と感じると、ある違和感を抱くんです。

”あれ?この人にとってわたしは一番大切で特別な存在なんじゃないの?”

”なんで、他人の視点を取り入れちゃうの?”

”わたしは辛いって言ってるんだよ?”

”見捨てられた”と感じる強烈な体験があると、妻は心を閉ざしてしまう。

特に、妊娠出産時のとても大変な時期にそばにいてくれなかった経験は、心を閉ざすきっかけになりやすいという。

妊娠出産は妻にとって大きな変化だが、男性がその変化についていけてないケースが多いのだ。

結婚して子どもが生まれるまでは、恋人気分でお互いだけを見ていられるけど、子供が生まれるとかなり関係性が変わりますよね。

そこでは様々な”傷つきの体験”が起こりやすくなります。

上遠さんのカウンセリングルームを訪れる女性には、”夫が当事者意識を持っていないこと”に不満を抱く方が多い。

子供が10ヶ月お腹の中にいて、大変な思いをして出産し育てますが、男性はいまいち実感が持てないというのがありますね。

生物学的な違いもあるので、ある程度しかたないと思いますが、だからこそ精神的に積極的に関わっていかないと、そこでの結びつきを作り損ねてしまうことがあるんです。

「手伝う」「言われればやる」と男性が言う時、女性の心にまず芽生える感情は怒りではなく、”違和感”なのだ。

「一緒に夫婦として生活しているパートナーのはずなのに、なんでこんなに自分だけが頑張っているように感じるの?」

ふたりの子ども、ふたりの家庭のはずなのに。

まるで、この世界で子どもとふたりっきりになってしまったような寂しさ。

圧倒的な精神的孤独。

その孤独感が家事育児の不満となって表面に現れ、怒りを伴うそのパターンが、ふたりのネガティブなコミュニケーションのパターンを回していく。

どこにもたどり着けず、追いつくことさえできない回転木馬のように、ふたりの会話は空回りし続け、いつしか妻は心を閉ざすようになる。

古びた回転木馬は動きを止め、どんなに油を差しても動かなくなる。

「この人になにをいってもしかたない」

「この人はわたしの気持ちをわかってくれないんだ」

その絶望感が妻の心を閉ざすのだ。

妻に萎縮する男

女性の精神的孤独感が怒りへと転換され、男性を萎縮させてしまうこともある。

「何を言っても妻に怒られる……。もう何も言わないでおこう」

男性は女性の怒りを恐れるあまり、コミュニケーションを避け、距離を取ろうとする。

上遠さんは、この現象を前回の記事に登場した”ネガティブサイクル”で説明できるという。

それは悪いコミュニケーションパターンである”ネガティブサイクル”が出ています。

夫が一緒に家事育児をしてくれないので、”怒り”の感情を強く出すことで気持ちを伝えようとしたり、わかってもらおうとしているんです。

怒りをぶつけられるのは相手にとって嫌なことですので、萎縮してしまい距離を取りたくなってしまうんです。

妻から怒りの感情を受け取った男性は萎縮し、妻から距離を取ろうとする。

しかし、妻としては”夫が自分から距離を取ること”は、到底受け入れられないものなのだ。

男性が距離を取れば取るほど、女性は(距離を取るなんて考えられない!わたしにはやるという選択肢しかないのに、なんであなたはやらないの?!)と感じ、怒りの感情をさらに出してしまう。

すると相手は余計逃げたくなり、そのループはエンドレスに回っていくんです。

妻から怒りの感情をぶつけられた男性が逃げようとする理由には、”安全性”の問題があると上遠さんは言う。

距離を置こうと思うのは、安全に感じられていないからです。

男性にとっても女性のパートナーはものすごく距離が近いし、大切な相手なんです。

「自分を認めて欲しい」
「ありのままの自分を受け入れて欲しいと思っている」


そんなパートナーから怒りをぶつけられたら安心できないですよね。

怒りをぶつけられた男性は、仕事に逃げたり口数を減らすなど、様々な方法で距離を取るようになる。

距離を取ることで男性は心の平穏を得ようとするのだ。

だが、距離を取られた女性は”分かってもらえない孤独感”や”見捨てられた寂しさ”を感じ、それならば心を閉じた方が安心だと判断し、心のシャッターを閉ざすようになる。

女性にとって心のシャッターを閉じておくことは、精神の安定を保つための”最善策”なのだ。

そして、男性もまた最善策を取っている。「お互いが自分を守るための最善策を取っているだけなのだ」と上遠さんは言う。

自分を守るために距離を取り、自分を守るためにシャッターを閉める。

自分を守るために相手を責め立てる。


そうすることで、相手を自分の近くに引き寄せようとする。

お互いにそういった行動に出る理由があるのだけど、やられた方にも理由があり次の行動に出てしまい、ネガティブサイクルが回り続けるのです。

”心からの共感”が妻の心のシャッターを開ける

自分を守るために閉じてしまった妻の心のシャッターを開けるには、まず妻の体験を受け止める必要がある。

ひとつの大きな糸口は、傷つけるつもりはなかったにしても、自分の言葉が妻を傷つけてしまったという”妻の体験”を受け止めることです。

妻が自分の言葉でそんなに傷ついてしまったんだということを受け入れるというか認めるというか、そういったところから始まるのだと思います。

妻の傷ついた気持ちに夫が共感できるようになると、少しずつ妻のシャッターが開くようになるが、共感というのはとても難しいものなのだそうだ。

”相手の痛みを聞いて、自分も痛みを感じる”

それが本当の共感の体験だと思いますね。

言葉では辛かったんだよね、傷ついちゃったね、ごめんねと言えるけど、それを本当にハートで感じているのか、それともただ言っているだけなのか、それはパートナーには確実にわかってしまうんです。

理論的に考えることが多い生活を送っていたり、自分の感情を切り離した生き方をしていると、誰もが本来持っているはずの共感能力は錆びついていく。

だが、映画を見て泣いたり、虐待のニュースを聞いて心を痛めることは多くの人に経験があるはずだ。

家庭でも同じように、妻が嫌な顔をしていれば嫌な気持ちになり、辛そうだったら辛い気持ちになった経験がきっとあるだろう。

そういった妻の体験を受け止めることができれば共感となるが、多くの場合、男性は妻の感情を避け、理論で解決しようとする。妻が辛い思いをしている姿を見ることが耐えられないのだ。

人は気持ちを受け止めてもらうことで精神が安定する。夫婦もまた、お互いに気持ちを受け止め合うことで心が落ち着き、精神的に安定した生活を送れるようになる。

上遠さんは、それを”サバイバル”という言葉で表現する。

人類の進化の過程を考えると、パートナー同士がもっとも最小の社会単位なので、お互いに協力することで子孫を残す可能性が高まり、敵から身を守ることもできるようになります。

ふたりが協力し合うことで、サバイバル(生き残り)の確率が高くなるのです。

これは現代のわたしたちにとっても同じですよね。

外の社会では色々なストレスがあるけれど、お互いがいれば気持ちが安定し、ストレスが緩和されて生きていける。

安定した愛着関係(夫婦関係)がある人たちには、心臓の疾患にかかるリスクが下がったり、痛みに関する感覚が和らぐといった現象が起こります。

夫婦関係というのは、心だけでなく体においても重要なんです。

パートナーとスキンシップを取ることで分泌されるオキシトシンが社会により適応しやすい行動を引き出すため、生き残る確率が上がるんです。

つまり、夫婦関係は生き残り(サバイバル)と直結しているのです。

私たちは普段そういったことを意識して暮らしていませんが、ひとたび夫婦関係が暗礁に乗り上げるとサバイバルモードになり、ふたりのバトルになってしまいます。

”お互いの生き残りをかけたはずの戦い”が、”お互いの個の安全性を確保する戦い”になってしまうのです。

敵は”お互いの存在”ではなく、”ふたりが直面しているネガティブなパターン”であること。

そこに気がつき、そのネガティブパターンにふたりが立ち向かえるようになると、関係性は変わってくる。

そして、最終的にはやはり”妻の体験に対する夫の心からの理解”が重要だと、上遠さんは言う。

腹落ちのような”体感をともなった理解”が共感なのです。妻の辛さを腹落ちさせるということです。

本当に「妻を傷つけてしまって申し訳なかった」と思っていることが妻に伝われば、少しはガードが緩んだりします。

ただ、それはスタートであり、その後の関係性の中で、いかに夫婦がお互いの気持ちに寄り添っていくかが大事なのです。そういった関係性を作れていくかということが。

妻にとっては今までの積み重ねの体験があるため、夫が真摯に謝っても特に何も感じないということにもなるんです。

でも、それを積み重ねていけば少しずつ変わっていく。

繰り返しでシャッターは閉まったので、シャッターを開けるのにも繰り返しが必要なんです。

妻が感じた孤独感を”体感を伴うレベル”で理解すること。

それを妻に伝えていくこと。

(この人はわたしのことを理解してくれている)という実感を、何度も何度も妻に感じてもらうこと。

その繰り返しの中で、妻の中に夫の愛情が蓄積され、閉ざされた妻の心のシャッターが徐々に上がっていく。

日々の生活の中でそれを忘れなければ、あなたの夫婦関係も変わっていくのかもしれません。

ポッドキャスト(アツの夫婦関係学ラジオ)では、実際に上遠さんにお話しいただいた内容を配信しております。下記リンクからご視聴ください。

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今回、インタビューを受けてくださった上遠さんのカウンセリングルームはこちらです。


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