「感情に触れることへの恐れ」が夫婦に与える影響
「こわい」「不安」「寂しい」、そういった感情を普段の生活のなかでさらけ出すことってあまりないですよね。
会社で「こわいんです」とか「寂しいんです」なんて言っても、まわりの人はどうしたらいいのかわからなくなってしまうだけですから。
恐怖や痛みを「自分から切り離して」生きている人って多いと思うんです。
ぼくも仕事を前に進めるためや、家庭生活を進めるために自分が感じる「不安」や「心の痛み」を見なかったことにすることがありました。
子どもの頃は、学校生活に馴染むために「恐怖」や「不安」を忘れようとしていたような気がします。
だけど、自分のなかにある「あってあたりまえの不快感」を受け止められないと、大人になってから直面する課題を乗り越える際に大きな問題になると、東京学芸大学の元教授であり、臨床心理士であり、「ちゃんと泣ける子に育てよう」の著者である大河原美以さんは著書のなかで書かれています。
ぼくらって、理性的とされることが良しとされる社会で生きていますよね。
感情的に振る舞うことは、家庭や学校や会社といった社会の中では、歓迎されないですよね。
感情に流されず理知的に行動するのが大人であって、ネガティブな感情は生きていくのにジャマだと思う人さえいます。
だけど、夫婦という親密な関係においては、「理性」ではなく「感情」が主役になるんだと思うんです。
妻や夫から、自分の気持ちを無視されたり、なかったことにされるととても辛いですよね。
その辛さを無視して生きていけるほど、人って強くないと思うんです。
親密な関係である夫婦のつながりにおいて、本当は感情を大切にすべきなのに、逆に論理や理性を求めるから関係がこじれていくんです。
夫婦にとって大切にして欲しいと感じるのは、理性ではなく、身体や感情のつながりなんです。
これは、夫婦における身体的な問題にも関わっていると大河原美以さんはおっしゃいます。
人間の脳をシャケおにぎりに例えると、具のシャケが「脳幹部」という脳の奥にあり、生命維持をつかさどる部位にあたります。
次に白いご飯の部分が「辺縁系」と呼ばれる部位で、感情をつかさどっています。
これらふたつは人が意識して動かせるものではなくて、無意識に動いている本能的なものです。
次に、白いご飯をぐるっとおおっている海苔が「皮質」と呼ばれる部位で、理性と認知をつかさどっています。
人はこの皮質(理性と認知)だけは意識して動かすことができるんです。
人が抱えているネガティブな感情は、理性ではなく、無意識に生まれるものなので、シャケの「脳幹部」と白いご飯の「辺縁系」と強く結びついています。
一方で、夫婦の身体的な接触も感情と強く結びついていると大河原美以さんは言います。
身体の関係とは、理性ではなく、感情の関係なのだと。
相手の体に触れたり、触れられたりする行為は、理性で行う行為ではないし、理性で感じる行為でもないですよね。
触れたり触れられたりするとき、人は感情を強く喚起させられますよね。
つまり、夫婦の身体的な接触は、心とダイレクトにつながっているんです。
心というのは本能ですので、シャケの「脳幹部」と白いご飯の「辺縁系」とつながっているんです。
「ネガティブな感情」も「身体的な接触」も、どちらも脳のなかの同じ部位(脳幹部と辺縁系)に関わっているんです。
相手の身体に触れるということは、相手の心に触れるということでもあるんです。
だから、「自分の心に触れたくない、触れてほしくない」「相手の心にも触れたくない」と思っている人は、身体の関係も持ちたくないと思ってしまうんです。
そのふたつはつながっていますから。
この「相手の感情に触れることを怖がること」は、Affect Phobia(アフェクトフォビア)と呼ばれていて、世代を超えて連鎖するとも言われています。
育ってきた家庭環境のなかで、それを獲得してしまっているケースがあるということです。
「相手の感情に触れることを恐れている」と、ネガテイブな感情がわきおこる場面で困ったことになりやすいです。
それは例えば、子どもが泣き叫ぶときであったり、出産後の大変な子育てであったり、夫婦での意見の食い違いであったり、夫婦間の性的な問題であったり。
今回のアツの夫婦関係学ラジオでは、Affect Phobiaが夫婦の身体的な問題に与える影響についてお話をします。
夫婦関係では、理性ではなく「感情」や「身体」が主役であるとはどういうことか?
なぜ、「感情」や「身体」が主役となるのか?
Affect Phobiaとはなんなのか?
夫婦間の身体的な問題はどうやって解決されればいいのか?
ぜひ、お聴きください。
■アツの夫婦関係学ラジオ
#437 アフェクトフォビアの世代間連鎖から考えるセックスレスの根本的原因
※「アツの夫婦関係学ラジオ」は毎週月曜木曜の朝5時配信です。
参考文献:子どもの感情コントロールと心理療法
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