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諦められない、祈りの物語が好き(映画「すずめの戸締まり」感想)

見てから少し時間が経ってしまったのですが、すずめの戸締まり、面白かったです! ツイートもしたのですが改めてnoteにも記事を残しておこうと思います。
目次に分けるほどではないですが、新しいトピックを話し始めるときは該当箇所を太字にしてますので、何か特定の気になるトピックがある方はざーっとスクロールしてみてください。
そして感想とはタイトルに打ったものの、がっつり脱線している箇所があって、ちょっとエッセイ寄りかもしれないことを前置きとして書かせてください。

さて、新海誠作品ということで、私が期待していたのは音楽と映像でした。正直あまりストーリーには期待しておらず、でも映画館で体感できるならそのうちに、という気持ちで見たのですが、え〜、ストーリーが面白くて期待以上に楽しかった……!

明確なヒントとテンポいい進み方で観てる人を気持ちよく乗せてくれるタイプの話だったなと思いますし、期待していた音楽と映像は当たり前にきれいでした!
キャラクターの関係性も絶妙でよかった〜。
ところどころいきなりだな……と思う部分はありましたが(私はあまりダイジンの大臣っぽさを掴めず、左大臣もいきなりだなと思いました)、まあそのあたりへの深掘りはやめます。
とにかく全体としていい映画体験ができたな〜という感想でした。

私が見たのは1月に入ってからで、少しビビっていたのは震災の描写があると聞いてのことでした。シンプルにビビったり引っ張られたりしたら嫌だなというのと、描かれ方がどんなかなというのとで。
ただ実際見てみて、個人的には納得いくバランス感で扱われていたと思います。
東日本大震災の遺児が主人公ではありますが、物語の舞台が九州から四国、関西、東京、そして東北まで巡ったのは、色々な視聴者にとって縁のある映画になるなと思いました(私は東京で暮らしているので知ってるところいっぱい出てきました。そういう自分の知ってるところ・自分と関わりがあるところがどこかしらに出てきた人が多かったのでは、と)。
各地で地震を防ぐ=各地で地震が起こる可能性があるということを示す流れ、そして廃墟という既に人の営みが失われた土地で扉が発生するという仕掛けは、誰にとっても不意に喪失が訪れる可能性があるということを示唆していたと思います。自分事として感情移入できる作りになっていたと感じました。
(ちなみに各地のエピソードを挟んで作品に接するひとに自分事と認識させる作りは古事記みたいって思いました。「岩戸」鈴芽だし、関係あるのかしら)

そうして移動する物語、どこかに行って帰ってくる旅の物語としてもよかったな〜。きれいな終わり方だったと思います。
当たり前みたいな感想だけど、死んでもいいって躊躇なく答えてた鈴芽が未来を求めるようになるっていう変化、本当によかったです。

そうやって失いかけること、未来を求めるようになること、という喪失と希望を描きつつ、前提としてどうしようもなく取り返しのつかない喪失が描かれてることで綺麗事になってないのがいいなと思いました。
きっと震災のときにもたくさん飛び回っていた「どんな夜にも必ず朝は来る」的な言説が陳腐に聞こえてあんまり好きじゃないのですが、この作品の中でその言葉が使われたとき、ちゃんと説得力持って響いてるように聞こえました。
というか、どんな夜にも必ず朝は来てしまう、生きている限り(望まなくとも)希望と思える何かに出会ってしまう、ということが描かれているのが好きで、だから陳腐に響かなかったのだと思います。

あとは私にとってタイムリーなトピックとして、神様の概念がめちゃくちゃ日本的だったのも印象に残っています。
そうそう日本で言う神様ってこういう……気まぐれで身近で畏れられるもので……って思いながら見てました。
他もアニミズムとか地震とか土地との結びつきとか、日本ならではだな〜と思う要素が全体的に多くて面白かったです。

なぜ私にとってタイムリーなトピックかというと、最近Tandem(言語交換トークアプリ)でクリスチャンの子と友達になったのですが、落ち込むことがあって…という話を私がしたときに、I'll pray for you「あなたのために祈っておくね」とか「祈ったら知らせるね」とか「今朝祈ったよ!」みたいな言葉をもらって、全然馴染みのない感覚だな、面白いな、と思っており、「祈り」とか「神様」とかについて、自分たちはどう認識しているんだろう……ということに興味が湧いたタイミングだったからです。

例えば、日本語で日本人と「うまくいくよう祈ってるね」というやりとりが発生したら、もうそれはその時点で祈っているわけで、それに対してありがとうって返すだけで終わると思うのですが、でも彼女にとってはJesusに祈らないとJesusは動いてくれないから、ちゃんと伝えたからね、というコミュニケーションが発生するんですよね。
私は祈ってくれてありがとう(Thank you for praying)って伝えたけど、うまくいくように計らったのは私じゃないからこういうときの言葉はThank Godだよと言われて、な、なるほどー! と思いました。
(ちなみに祈ってくれてありがとう、を訂正されたのではなくて、その後別のタイミングで会ったときに話したら教えてくれたのです、念のため)

あとその子が日本人の友達と神社に行ったそうで、おみくじを引く前にその日本人の子が手を合わせていいやつ引けるよう祈ってたそうなんですが、それについて「何に対して祈ってるの?」って聞いたらわからないって答えられたそうで、それもすごく日本的だよなと……。笑

自分の話で言うと、先月友人たちと神社にお参りに行って(初詣ではなかったけど初詣シーズンのうちに)、強欲なお祈りをした友人に対して「こういうのは頑張るから見守っててください、くらいでいるのがいいんだよ」と言って別の友人がそうそう、と続いた場面がありました。
そうするとやっぱり、私が祈ってる相手は究極的には自分自身なのかもな〜と思ったりもします。少なくとも、まあ祈ってる対象は神様的なものだとしても、祈ることで力を発揮するのは自分だったりするよなと。力を発揮できますように。
そう、キリストを信じるようになってしんどい時期を乗り越えられたというクリスチャンの友人たちに対して、(誤解を恐れずに言うなら、)私はどうしても、私の感覚だと、それはでも頑張ったのはあなたじゃん、と思ったりしてしまいます。

逸れてきたので物語の話に戻すと、そういう最近の出会いと関心がなかったとしても、私は元々祈りの物語が好きなのです。

思い出したのは漫画ONE PIECEの空島編で、あれもエネルという雷の能力を持った奴が「我は神なり(我は雷)」つって恐怖政治的なことをやっていて、神とか祈りとかにまつわる言葉がいっぱい出てくるんですが、終盤で空島全体が危機に陥ったときの台詞に以下のようなものがあります。私ここのページの切実さがめちゃくちゃ好きなのです。

生死の淵に立たされた人間にできることなど
もう他に無いじゃないか!!!

祈る事しか…………
できないじゃないか!!!
ONE PIECE 第三十二巻 P.42
神様っているのかな
いたら……助けてくれるかな…
どうか…本当にいるのなら…
あの人達を守って!!! 神様ァ!!!!
ONE PIECE 第三十二巻 P.43
この部隊はエネルの(元?)部下で、エネルが支配していたスカイピアは自国を「神の国」と呼んでいました。

「祈る」を辞書で調べると、「神や仏に願う」が第1義で、「心から望む。願う」が第2義でした。
そう、だから、私が落ち込んでるとGodに祈ろうとしてくれる友達のことで言うと、だから神に祈ろうとしてくれた時点で祈りなんだ……。少なくとも私にとってはそうなんだよね。
神は不在でよくて、ただ誰かが何かを心から望む瞬間、しかも諦められないときに最後にせずにはいられないのがきっと「祈り」で、そこに込められているひたむきな願いが描かれているシーンが、私はきっと好きなんだと思います。

さて、「すずめの戸締まり」の話にまで戻すと、生きている限り生きていたいと思える何かに出会ってしまう、というのを描いているのが好きだった、と既に述べましたが、終盤の草太が唱えていた言葉が、やっぱりよくて……祈りの物語なんだなと……。

命がかりそめだとは知っています。
死は常に隣にあると分かっています。
それでも私たちは願ってしまう。
いま一年、いま一日、いまもう一時だけでも、私たちは永らえたい!

「それでも」という接続詞、好きですね。
この詠唱の言葉は、彼だって未来を望んでいなかった草太が、「君に会えたのに」という言葉が出てくるような出会いを経て未来を望むようになり、そこで唱える言葉だから余計説得力を持って響くのがまた良い……。

私が映画館に訪れたのは年始の頃で、環さんの特典小説が配られている頃でした。
本編ももちろんよかったんですが、とても腑に落ちてグッときたのは、あとがきの「諦めない。いつまでも覚えている。ずっと手を離さない。」っていう言葉でした。
諦めないって決めた、みたいな意志の力が作品全体を取り巻いてたんだなと思いました。自然・神様の気まぐれで理不尽な力はそれと対比になってたように思います。そして「それでも私たちは願ってしまう」。
絶望も希望も自分の意思に関わらず降りかかってくる理不尽な世界の中で、これが私の希望だ、って自分で決めて進むことの尊さ、を感じました。

今回の感想はこれくらいにしようと思います。
こうして感想書いてるともう一度見たくなってくるなあ……。
この記事ではあんまり登場人物や具体的な場面よりも作品全体の構造や描かれている概念の話に終始してしまったので、もう一度見て別の角度から感想書くのも楽しそう。
まあでもとりあえず今回感想まとめられてとても満足しています。楽しかったしやっぱりいい映画だったな。
ここまで読んでいただきありがとうございました。それでは。

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