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スターバックスでの悲劇

その日、わたしはスターバックスで作業をしていた。


ふと顔をあげると、お盆を持った若い女性の店員さんがお客さんの席に向かっていくのがみえた。

そしてそのお客さんの前で立ち止まると、こう言い放った。


「季節限定の瀬戸内レモンケーキフラペチーノの試食はいかがですかぁ^^」


うわ。ほ、ほしい。。。


レモンの酸味が効いており、甘すぎず、スッキリしたお味は夏にピッタリ。わたしの今いただいているコーヒーとも相性抜群。

瀬戸内レモンケーキフラペチーノ。響きだけでここまで豊かに想像力を掻き立ててくる。なんという甘美な響き、、、


店員さんのお盆を確認する。あくまで目線だけで。

「試食ほしいです〜!」と26歳男性がアピールなんてしていたら、目も当てられない。

お盆の上には2つ、試食用のちいさなカップに入った瀬戸内レモンケーキフラペチーノがあった。


店員さんは、キョロキョロと店内を見渡している。

残り2つの試食を誰に渡そうか考えているのだ。話しかけても大丈夫そうな、渡しやすい人を探しているのだろう。

そのことを確認したわたしは


スッと背筋を伸ばし、意味もなく微笑みを浮かべた。


今思えばこれは確実に失敗だったろう。

話しかけやすい雰囲気を意識したのだが、パソコンを目の前にした26歳男性が、いそいそタイピングしているかとおもいきや急に座高がミョンと伸び、微笑みだしたのだ。しかもわたしは顔が大きい。

店員さんにとってこれは話しかけやすい雰囲気どころか、むしろ恐怖を与えてしまった可能性が高い。


案の定、2個目の瀬戸内レモンケーキフラペチーノ(試食)は他の人の手に渡ってしまった。


残り1つ。


だが不幸中の幸い、店員さんはその2個目の瀬戸内レモンケーキフラペチーノ(試食)を、わたしのナナメ迎えのお客さんに渡した。先程に比べて、店員さんとわたしの距離は縮まった。


「もらった。」


わたし(26歳男性。顔大)は心のなかで小さくそうつぶやき、もう一度、「ニコッ」っと微笑みをうかべた。


すると、店員さんはわたしの方に向かって歩をすすめた。

横目でそのことを確認し、安堵した。


しかしわたしはプロだ。最後まで気を抜かない。

あくまで視線はパソコンに。口元には微笑みを。

瀬戸内レモンケーキフラペチーノ(試食)に対するいやらしさを感じさせず、しかも話しかけやすい雰囲気を最後までキープするのだ!!ふふ、わたしったら。抜かり無い。


そんなことを考えていると、店員さんはわたしの隣の隣あたりで歩みをとめた。

そしてそこに座っていたお客さんにこう言い放った。


「季節限定の瀬戸内レモンケーキフラペチーノの試食はいかがですかぁ^^」


な、なにぃ、、、、!!!!!!!!!


すでに話しかけられたときの、自然な受け答えのロールプレイングを頭の中で繰り広げていたのに。。。

その突然の裏切りに、わたしは動揺を禁じ得なかった


隣の隣で行われている一連の出来事を横目で確認し、再度お盆を目をやる。


お盆のうえにはもはや何もない。







ここでもう一度、強く強調しておきたい。わたしは動揺をしていたのだ。

動揺というのは、ときたま普段であれば起こし得ないようなミスを誘発する。

そう、わたしは動揺していたのだ。


お盆のうえに何もないことを確認したわたしは、目線をパソコンに戻した、、、、のではなく、そのままスゥーッと目線を上にあげていた。無意識のうちに。



店員さんと目があった。


すると店員さんはピン!と来た表情を浮かべ、カウンターの方へと小走りしていった。



し、し、しまったぁ、、、、、!!!!!!!!!


完全に油断していた。

あろうことか!26歳男が!イキってスタバで作業しているようなやつが!ちっちゃい試食のフラペチーノを!図らずとも催促するかたちになってしまったのだ!しかも横目で!

もちろん、目があってすぐわたしは自分の犯した過ちに気づき、瞬時に目をそらしたのだ。


しかし、相手もプロだった。


その一瞬のうちに、わたし(26歳。顔大。横目。物憂げ)の表情から、すべてを悟ってしまったのだ。

むしろこうなってくると目をすぐそらした行為も恥ずかしさを助長する。


ど、どうしよう。


その場から立ち去ることも考えた。

しかし、そのスタバは入口が1つしかなく、しかも入ってすぐにカウンターがあるというつくりだった。

全ての荷物をしまったあとに出ていくとなれば、出口にたどり着く前に準備を終えた店員さんとすれ違ってしまう可能性が高い。


わたしは永遠とも思われる逡巡を繰り広げていた。


すると、先ほどの店員さんがカウンターから出てきた。

手にはお盆。お盆のうえには瀬戸内レモンケーキフラペチーノ(試食)のカップがひとつ。

店員さんはまっすぐにわたしの席へと歩をすすめ、わたしの席で立ち止まった。


そして言い放った。


「季節限定の瀬戸内レモンケーキフラペチーノの試食はいかがですかぁ^^」


は、恥ずかしいっ!!!!!!!!!!!!


恥ずかしすぎる。

この瞬間、わたしは正式に、26歳という年齢で、スタバでイキって作業しているくせにフラペチーノを自分で買わず、その試食を年下の女の子に横目で催促する顔の大きい男性になったのだ。


思いっきり目があっていたため、ロープレのように「おっ。ほんとですか。ありがとうございます!」のような驚きと喜びを混ぜ合わせたような反応はできない。

「あ、はい、どうも、、、」などと、なんとも中途半端で歯切れのわるい感謝を告げた。

目を合わせずに。うつむきながら。


店員さんはわたしの机の上にコトっと瀬戸内レモンケーキフラペチーノの試食を置き、カウンターへの方と戻っていった。




もちろん、いまのわたしに、手持ちのコーヒー×瀬戸内レモンケーキフラペチーノのマリアージュをゆっくり楽しむような心の余裕はない。


ついてきたちっちゃなスプーンをおもむろにカップの下まで突き刺し、側面に沿わせて一周し、ケーキの下に滑り込ませ、一気に持ち上げ、一気に食べた。

そのまま荷物を片付け、うつむき加減のまま流れるように店をあとにした。


背後から「ありがとうございましたー!」と元気な声が聞こえる。

「恥ずかしいマネをして申し訳ありませんでした。」とわたしは心のなかでその声に応える。


その場から早く立ち去りたい気持ちが強すぎて、あれだけ楽しみにしていた瀬戸内レモンケーキフラペチーノの味は一切覚えていない。


また今度、次はちゃんと瀬戸内レモンケーキフラペチーノを注文して、ゆっくりと味を楽しむと同時に、地に堕ちた自己肯定感も取り戻しに行こう。

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