見出し画像

物語ドロップス ―無意識革命―

あれ?スマホがない。
ついさっきまで手に持っていたのに。
台所に置いてしまっただろうか。
それともトイレに持ち込んだまま置いてきたか。
あるいは......

1分後、スマホは僕の左ポケットから発見された。
こんなにも近くにあったとは、灯台下暗しとはまさにこのことだ。
無意識のうちにスマホをポケットに滑り込ませていたのだろう。
こういうことはよくある。
物を失くすときはだいたい気づかぬうちにどこかに置いて行ってしまうものだし、癖なんかもその類に入ると思う。

僕は整理整頓が好きで、半ば癖みたいになっている。
ぼーっとしたりしていると机の上のものをきれいに並べたりしだすのだ。
この前会社でも部長にどう謝ろうか必死に考えているときに、無意識に近くにあった課長のデスクをきれいにしていた。
人のデスクの物を勝手に触るなんてマナー違反だろうけど、課長が優しい人でとても褒められたよ。
その後、一緒に謝ってくれたのはありがたかったな。

こっちとしては癖でやってしまったことで得をしたんだからラッキーな話だ。
いや、待てよ。
これを単なるラッキーな話で終わらせていいのか。
癖を、いや、無意識をもっと活用できないだろうか。
うまく活用できれば、自分が気づかぬうちにあれこれできるようになっているかもしれない。

___________

まずは寝起きから見直すことにした。
私は目覚めが悪い方なのだが、これを無意識の力を使ってどうにかしたい。
まずベッドから離れた場所に目覚ましを置く。鳴り響く音を止めるためにベッドから出るためだ。
そしてそのままカーテンを開ける。
まずはここから、ここから始めよう。

しばらく続けていると、朝の寝ぼけた頭でも目覚まし時計が鳴ったら立ち上がり、カーテンを開くところまでを無意識で行えるようになった。
習慣化させれば無意識に刷り込むことができるのは間違いなさそうだ。

思えば、今は当たり前のようにできる「歩く」という行為だって、赤ん坊のころは一歩一歩細心の注意を払って行っていたのだ。
この調子で無意識な行動をうまく活用していこう。

そこからの僕は努力して無意識の行動を進化させ続けた。
カーテンを開けたら洗面台に向かう。
洗顔や歯磨きを済ませ、着替えるためにクローゼットへ向かう。
シャツを装着した後は、コーヒーとパンを用意し飲む食べる。
最後にジャケットを羽織って、革靴を履いた足で駅まで向かう。

よし、かなりの行動を無意識に行えるようになってきた。
気が付いたら電車の中、なんて日もでてきたぞ。
気づかぬうちに色々と物事が進んでいるのは少し怖い感じもするけど、効率の良さが段違いだ。
時間に追われてバタバタと動き出す朝はもうおさらばだ。
これからもこのまま無意識の活用を進めていこう。

__________________

......っていうのがもう5年前の話。
え?今はどうしたのかって?
もちろんあれからずっと無意識の活用を続けてきたよ。
最初は朝の時間帯だけだったけど、そのうち仕事も無意識のうちに進められるようになってきてさ。
あれ、気が付いたら家に帰ってきてる、なんてことも2年前くらいから増え始めたかな。

ある日気が付いたら指輪をしててさ、なんだこれはって思ってたら家に女の人がいてさ。そう、無意識のうちに結婚までしてたんだよね。

これにもう感動しちゃってさ。
僕はもう無意識のうちにもうなんでもできるな、って確信したんだよね。

え、今?
えーと、今言った通り無意識の活用を続けてるよ、って話なんだけど......
ああ、今君と会話している僕は無意識かどうかってこと?
そりゃもちろん無意識にこんな話せるわけないよ。

……って返すところまで無意識に出るようになってるんだよね。


*この文章は創作小説です。


text : paul
鳥と幾何学模様が好き。


この記事が参加している募集

つくってみた

SF小説が好き

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?