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ともに今季6勝ずつ挙げた、ゴルフ男女世界No.1の上半期振り返り

 トラベラーズ選手権でスコッティ・シェフラーがプレーオフを制し、PGAツアーで今季6勝目を挙げました。
 USLPGAツアーもネリー・コルダが今季6勝を挙げ、今年の勝ち星上では2人とも並んでいます。
 世界ランクNo.1に君臨する2人の上半期を振り返ってみます。


スコッティ・シェフラー

〇開幕時はパットで大苦戦

 もともとショットには定評があるものの、シェフラーはパッティングに難がある選手の代表格でした。
 昨年のヒーローワールドで優勝し、その時使用していたパターで臨んだ今シーズンですが、ショートパットを何度も外すシーンが見られそれが優勝を逃す原因にもなっていました。

〇”敵に塩を送る”アドバイスがターニングポイントに

 2月のジェネシスインビテーショナルで、見るに見かねたロリー・マキロイがシェフラーにアドバイス。
 従来使用しているピン型のパターを、マレット型のパターに変更すればパッティングが安定するのではと助言しました。
 するとこれが効果覿面、3月のアーノルド・パーマーインビテーショナルではパットに苦戦するシェフラーの姿を見ることはなく、”普通のレベル”までパッティングが改善され、見事今季初優勝を挙げました。

 そして翌週のプレーヤーズ選手権、最終日猛チャージでウィンダム・クラークとザンダー・シャフリーを捉えると一気に加速。
 あれよあれよという間の2週連続優勝、そして大会初の連覇達成者となりました。

〇盤石なマスターズの戦い、そしてまた連勝

 そして迎えた今年のメジャー第1戦・マスターズ。
 強い風が吹く中での序盤戦も2年前に優勝した経験、そして絶対の信頼を持つ相棒のキャディ、テッド・スコットの貴重なアドバイスなどもあり終始安定したプレーぶりで”定位置”の首位に立ちます。
 3日目を終えコリン・モリカワに1打差をつけて首位で迎えた最終日。
 これまでの強風がなくなり、いつものオーガスタに戻りました。
 すると最終組のモリカワ、1組前のマックス・ホマとルドビグ・オーベリがチャージを仕掛け一時首位に並ばれることもありましたが、そこは慌てることなく冷静に対処し、終わってみれば2位オーベリに4打差をつけ、2年ぶり2度目のマスターズ制覇となりました。

 このころメレディス夫人の出産が気になっていたシェフラーですが、出産が当初より遅れることがわかり、次戦のRBCヘリテージも出場。
 雨によるコースコンディション不良の影響もあり、月曜決着となった大会でしたが全く影響なし。
 今季2度目の2週連続優勝を達成しました。

〇何かと騒がしかった5月

 今年の5月は、シェフラーにとって激動の1か月になったことでしょう。
 ウェルズ・ファーゴ選手権に出産予定が重なるということで欠場を表明。無事メレディス夫人が男児を出産し、ベネット君と命名しました。
 そして迎えた全米プロ、メレディス夫人は同伴せず大会に臨み初日好発進だったシェフラー。
 しかし2日目の早朝、ファンやマスコミを震撼させる事件が起きました。

 早朝に起きた交通事故により交通規制がしかれ、警察の誘導を振り切ってしまい一時署まで同行され、警察のご厄介になったシェフラー。
 2日目スタート前に釈放されたものの、通常の精神状態ではありません。
 それでも2日目を終わり4位につけ、優勝を十分狙える位置にいます。
 しかし今度は以前から約束していた娘の高校卒業式に参列するため、スコットが3日目コースにいないことになりました。
 補充のキャディで臨みましたが、昨年8月以来マークしたことがないオーバーパーを記録。優勝へ厳しくなりました。
 スコットが戻った最終日はいつものシェフラーに戻りましたが首位には届かず、全米プロ優勝は翌年以降持ち越しとなりました。
 そしてこの一件は検察が罪状を取り消しとし、無罪になり晴れて自由の身となりました。

〇精神的に落ち着いた6月、シグネチャーイベントの”鬼”

 愛息ベネット君も試合会場に連れて行く姿がだんだん板に付いてきたシェフラー。勿論”本業”の方も忘れてはいません。
 シグネチャーイベント第7戦のメモリアルトーナメント、PGAツアーでも難関コースの一つであるミュアフィールドビレッジ。
 今までのような圧倒劇ではなくても抜群のショットと改善させたパッティング。そしてここ一番での勝負所を弁えたプレーで追いすがるモリカワを追い払い今季5勝目。
 一足早い父の日を先に祝い、トーナメントのホストであるジャック・ニクラウスとの固い握手を交わすシーンは印象的でした。
 またベネット君もバーバラ夫人にお披露目し、ほっこりするシーンとなりました。

 全米オープンでは本来の実力を発揮せず、自身初めて全てのラウンドがオーバーパーで終了。しかも26Hでバーディーがなかったというこれまでのシェフラーならあり得ないことばかりでしたが、翌週には改善してくるあたりが世界No.1という所以なのでしょうか。
 ミュアフィールドビレッジ、パインハーストと続いたタフなコースでの連戦から、全長がPGAツアーの中でも短い部類に入るTPCリバーハイランズで行われたシグネチャーイベント最終第8戦のトラベラーズ選手権。
 いつも通りベビーカーを押しながら試合会場に入りました。
 ハイスコア合戦になった大会、奇しくも大会2日目が誕生日というトム・キムとの優勝争いはプレーオフに突入。
 トム・キムがプレーオフでボギーを叩いたのに対しシェフラーは確実にパーセーブし、タイガー・ウッズ以来の年間6勝目を達成しました。
 また6月までに6勝を挙げたのは、アーノルド・パーマー以来60年以上ぶりの快挙です。
 これから試合は欧州を回り、再来月末には年間王者が誕生するシーズンに入ります。
 いったいシェフラーは、さらに勝ち星を積み上げることができるかが注目される今後の展開です。

ネリー・コルダ

〇アスリート一家の元で生まれた才能

 両親が元テニスプレーヤー、姉ジェシカもプロゴルファーとして活躍しているネリー・コルダ。
 2021年の全米女子プロゴルフ選手権でメジャー初優勝を挙げ、初めて世界ランク1位に躍り出ると、順延になった東京五輪ゴルフ競技で金メダルを獲得しました。
 身体能力が高いネリーの再現性が高いスイングは、ジュニアゴルファーならずとも憧れの対象です。
 2022年には鎖骨静脈の血栓の手術を受けて長期離脱をしたものの、復帰して11月のペリカン選手権で復活優勝し、大会連覇を達成しました。

〇痺れるような試合内容だった、地元での復活優勝

 開幕第2戦、地元フロリダで行われたLPGAドライブオン選手権。
 開幕戦を制し2戦連続優勝を目指したリディア・コに、終盤残りの2Hで3打差を追いつかなければプレーオフに持ち込めないネリー。
 しかし残り2Hをイーグル、バーディーで締めコとのプレーオフに持ち込んだコルダは、プレーオフでコを下し1年2か月ぶりの優勝を挙げました。

 復活優勝が良薬になったのか、ここからネリーの快進撃が始まります。

〇シェフラーも凌駕する、怒涛の出場試合連続優勝

 アジアシリーズが終了し、戦いの舞台がアメリカ本土に戻ってきた春。
 アジアの試合をスキップし自身の調整を行ってきたネリーは、カリフォルニアで行われたファーヒルズ・朴セリ選手権でライアン・オトールとのプレーオフを制し、自身の2連勝を節目のツアー10勝目で飾りました。
 そして再び世界ランク1位に返り咲きました。

 翌週アリゾナで行われたフォード選手権は首位に立つキム・ヒョージュ、サラ・シュメルツェル、カルロタ・シガンダを2打差で追いかける展開に。
 最終日に風雨が強まるコンディションにも関わらず、7バーディーノーボギーの7アンダーをマークし逆転。
 2位ヒラ・ナビードに2打差をつけ、自身3連勝を達成しました。
 丁度同じ週に開催されたPGAツアーでは、こちらもシェフラーが出場3試合連続優勝がかかっていましたが達成できず、”ネリー時代”を告げる連勝となりました。

 快進撃はこれで終わりではありません。
 更に翌週のTモバイルマッチプレー選手権、今年から試合形式が変わり前半はマッチプレー出場者を決める3ラウンドのストロークプレーを行って、上位8選手が決勝のマッチプレーに進出することになりました。
 ネリーはストロークプレーで6位に入りマッチプレートーナメントに進出し、エンジェル・インとアン・ナリンをリードを許すことなく2人を下して決勝進出。
 決勝もレオナ・マクワイアにリードを全く許さず完勝で下し、ロレーナ・オチョア16年ぶりの出場4試合連続優勝を挙げました。

〇大記録達成はメジャーで、出場5試合連続優勝

 ファンの期待が高まる中で開幕した、今年の女子ゴルフメジャー第1戦・シェブロン選手権。
 3ラウンドを終了しユ・ヘランを1打差で追いかけるネリー。
 最終ラウンドは強風の中で行われ、前半に勝負を仕掛けてユを逆転。後半はタフなコースを無難に対処しマジャ・スタークに2打差をつけ優勝。
 ナンシー・ロペス、アニカ・ソレンスタムに並ぶ出場5試合連続優勝の金字塔を打ち立てました。
 優勝後、スタッフ達と大会恒例の池へダイブする姿も印象的です。

〇目指した6連勝は出来なくとも、すぐさま翌週優勝

 これまで出場6試合連続優勝を達成した女性選手はいません。
 ファンの期待が否が応でも大きくなる中、当初予定していたJMイーグルLA選手権の出場を取り止め、再び調整に充てていました。
 そして迎えたコグニザント・ファウンダースカップ、前半2日間で首位に4打差の3位につけ、残り2日間で逆転する公算でした。
 ところが残りの2日間はネリーにしては”まさか”の展開、連日1つずつスコアを落としてしまい、終わってみたら優勝したローズ・チャンに17打差をつけられ、前人未踏の記録への挑戦は終わりました。

 しかし、そこから学んだことをすぐさま実践できるのが世界No.1である所以の一つです。
 翌週のみずほアメリカズオープンでは3日目首位に立つと、最終日も危なげのない内容でスコアをまとめ、ハナ・グリーンに1打差をつけ今季6勝目をあげました。

 シーズン6勝は2013年の朴仁妃(パク・インビ)以来、米国人選手となれば1990年のベス・ダニエル以来の快挙です。
 今後はまだメジャーが4戦残り、五輪も控えている。ネリーはこれからも勝ち続けていくだろう。そんなファンの気持ちがこのとき溢れていました。

〇まさかまさかの大事件から連続カットの憂き目に

 オープンウィークを挟み、状態を万全にして迎えたメジャー第2戦・全米女子オープンが開幕しました。勿論ネリーは優勝候補筆頭中の筆頭です。
 誰もが最終日優勝カップを掲げるネリーの姿があると、誰もが疑いのなく頭の中にあったことでした。
 
 ところがあるホールを境に、状況が180度回転します。
 ランカスターCCの12H(Par3)、手前にクリークが流れグリーンもクリークに向かって傾斜がある、ピンの位置によっては最難関のホールになり得ます。
 ネリーは初日、ティーショットが奥のバンカーに捕まりました。そこからの第2打をクリークに打ち込み、対岸のドロップゾーンから第4打を打ちましたが、ここで”まさか”が起きました。
 何と第4打も再びクリークに打ち込みもう一度打ち直し。そして第6打もこんなことはこれまでのネリーだったら絶対にあり得ない、第4打のリプレーかと思わせるような、再度クリークへのアプローチ。
 結局第8打をグリーンに乗せて2パットの「10」、つい最近5連勝をした選手とは思えない内容でした。
 結局これが大きく試合に響き、2日間でコースを去ることになりました。
 気丈にもインタビューに答えるネリーの姿には、どこか寂しそうなものがありました。

 1週オープンウィークを挟み、全米女子オープンの厄を振り払いたいネリーはマイヤーLPGAクラシックに出場。
 しかし初日に大きく出遅れてしまい、2日目挽回はしたものの1打足りず2試合連続で週末に予定が空いてしまうという、寂しい結果となりました。

〇アンビリバボー!メジャー2試合連続、そして出場試合3試合連続カット

 これまでの5連勝が打ち消されるような2試合連続カット。何とかして状況を打破したいと臨んだメジャー第3戦・全米女子プロゴルフ選手権。
 初日は午前スタートで3アンダーをマークし、首位に1打差の2位からスタート。これまで2試合連続でカットの憂き目から何とか脱却し、3年ぶりのタイトル獲得を望むファンの声が聞こえてきそうでした。
 しかし2日目は状況が一変し、スタートから4連続ボギーという不穏な立ち上がりになり、ファンもやきもきする展開に。
 後半も立ち直るきっかけが掴めず、結局1打差でまたしても週末に進むことができなくなったネリー。
 全米女子オープンに続くメジャー2大会連続、そして自身の出場3試合連続でカットになるという、この間の無双状態とは対極の6月となりました。

〇マキロイ同様”心のケア”が必要に

 つい先日マキロイが、短いパットを最終日に2回外し全米オープンのタイトルをブライソン・デシャンボーに渡したことが大きな話題となりました。
 マキロイ同様、心外な3試合連続カットのネリーに”心のケア”を施してあげ、欧州が戦いの舞台になる今後の活躍を願うばかりです。

 世界No.1に君臨する2人、いいときも悪いときもある上半期でした。

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