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イメージと現実とのギャップ

アメリカ合衆国というと,どのような国のイメージを抱くでしょうか。

「自由の国」「アメリカンドリーム」「フレンドリー」「銃社会」……日本人にとっては,比較的ポジティブなイメージを抱く人も多いように思います。

今回は,『11の国のアメリカ史―分断と相克の400年』(岩波書店)という本の中から一節を紹介したいと思います。

アメリカの歴史を考えるときに,いくつかの地域から考えていくと理解が進むようです。この本ではタイトルのように,11の地域からアメリカの歴史を説明していきます。内容は分かりやすく,知らないことばかりなので勉強になりました。

そういえば特別研究期間中にアメリカに滞在していたとき,子どもたちはアメリカの歴史を習っていました。一通り勉強してから読むと,また違った印象になりそうです。

バージニア州

バージニア州はアメリカ合衆国東部,大西洋に面した地域にあります。この地域は16世紀にイギリスの植民地となり,入植が進んでいきます。とはいえ,地道に農業をしていくというよりは,現地の人々を奴隷(小作人)として働かせて搾取していくような運営の仕方がとられていたようです。

紳士と揉め事を起こすな

面白いと思ったのは,1700年頃に,この地域の紳士と揉め事を起こすとどんなことが待ち構えていたかについて書かれていた一節です。

 タイドウォーターの紳士と揉め事を起こすことは,危険な事であった。17世紀末と18世紀初頭にこの植民地を訪れた者は,紳士たちの傲慢なまでの自尊心と,ほんの少しでも侮辱されると怒り狂う様に,常に言及していた。

p.87

傲慢で自尊心が高く,少しでも侮辱されると怒り狂う,という「紳士」の様子というのは,物語の中では見たことがありますが,あまり直接接したくない人物像です。

争いの解決方法

やはりこういう時代の揉め事の解決方法というのは,今の私たちからはなかなか想像するのも難しそうです。というのも,一般の人々の様子も次のようなものだったからです。

一般民衆もまた同様にプライドが高かった。酒場での口論は険悪な争いへと進み,そこでは蹴ったり,かみついたり,首を絞めたり,目をえぐり出したり,相手の性器をむしり取ることまで認められていた。

p.87

それにしても,酒場で口論にはなりたくないものです。

地位がすべて

現代の物語の中では,地位が低い人物が高い人物をやり込める場面というのはあまり珍しいものではなく,現実の世界の中でも,地位が高い人物が何かをきっかけにして転落していくというのも,ないわけではありません。

そことが当時は,地位がすべてでした。

地位の低い者が決して高位者に刃向かう事はなかったのは残酷な報復を恐れてのことであり,たとえ微罪であっても,社会的地位の低い者の場合,貴族が鞭打ちの目に合わせることがありえたからである。ある平民が思い切って総督に反駁したとき,裁判所の裁定は,この男に40人による容赦ない鞭打ちを与え,200ポンドの罰金を科し(この額は小作人にとって10年分の収入にあたる),舌に穴を開け,その後ヴァージニアから永久に追放すべし,といったものであった。実際,裁判所に持ち込まれる案件は,紳士階級の判事により判決が下されたが,その際の彼らの裁定は,法律書にある前例によるのではなく,むしろ彼ら自身の正義観に基づいていたのである。これは生死にかかわる案件でさえ同じであった。裁判記録は一つの明らかな傾向を示している。すなわち,主人や男性には寛大で,奉公人や女性には厳しい判決が下されていた。本格的な奴隷制が拡大する以前でさえすでに,タイドウォーターの階層社会は,暴力の威嚇によって維持されていたのである。

p.87-88

「反駁した」つまり何かの意見に対して「言い返した」だけで,この仕打ちです。そしてこれが当然とされていたのです。しかも,奴隷制度が広まる前の時代の話です。

ただしこのような様子は,世界中で見られたことでもあります。歴史ドラマや映画の中の様子とも違いますし,やはり現在の感覚で当時を捉えるのはやめておいた方がよさそうです。

このように見てくると,社会の変化の大きさを感じることができるのではないでしょうか。

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