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最初の本を出版したときの話

高校生のとき,「いつか自分の名前が表紙に書かれた本を出版したい」と思っていました。小説なのか,詩集なのか,ノンフィクションなのか,いったいどんなジャンルの本になるのかは,高校生の自分自身にはまったく予想がつきませんでしたが。それは当時の自分にはいつかそうなったらいいな,というあこがれのようなものでした。

いくら「本を出したい」と思っても,最初から出版社に知り合いがいるわけではありません。

いまなら,ネットに書いた文章から出版へとつながる,ということもあると思いますが,そうそううまくつながりができるわけでもありませんよね。私が最初の本を出したいと思ったときも,「どうしたらよいのだろう」と途方に暮れるような状態でした。


自分の名前が残る

先日も学生と話をしていて,「履歴書に何を書いたらよいのか」という話題になりました。資格を取ったり,自己PRを書いたり,部活やサークル,ゼミの活動,志望動機を書いたりするのでしょうか。

大学院生になって研究活動を始めると,自分の名前がついた業績が増えていくことになります。論文であったり,学会発表であったり。それを積み重ねていくと,履歴書(研究業績書として別に提出することが多い)が埋まっていきます。また,どこかで教える機会があって,そこで教材を作ったり教える工夫をしたり(web教材を作る,ディベートを取り入れる,アクティブラーニングを取り入れるなど)すれば,教育業績としてそれを書く欄が用意されている場合もあります。

論文でも書籍でも,自分の名前のついた何かが世の中に残っていくというのは,この仕事のひとつの特徴だと言えます。どうですか,大学院に進学してみませんか?やたらと誘うのもどうかと思いますし,大変な業界なのはそうですが,どの世界でも簡単ではないことにかわりはないと思います。

結果的にいまのところ,ありがたいことに自分の名前が表紙に書かれた本は20冊以上になっています。表紙ではなく執筆者のひとりとして本の中に書かれているものは数えたことがないのですが,30冊くらいでしょうか。

紹介

最初に出版したいと思った本のことを思い出してみると,それは博士論文を出版するという試みでした。

どうしても博士論文をベースにした研究書としての書籍を出版したかったので,まずは原稿を一通りそろえることをしました。とはいえ博論そのものではなく,博論の後に出た論文もまとめて,結論を変える形で原稿を作りました。

そして,出版社につてがある知り合いの研究者に,出版社を紹介してもらうようにお願いしました。その研究者に原稿を渡し,出版社との打ち合わせのついでに持っていってもらったのです。

出版助成

出版社の条件は,出版助成がとれるのであれば出版はOK,というものでした。

そのとき私が目指した出版助成は,日本学術振興会の研究成果公開促進費です。この助成費は現在,幅広い研究成果の公開に使うことができますが,当時は学術図書の出版助成が主なものでした。

ここで出版助成をとることができれば,出版にこぎ着けることができるのですから,気合いを入れて申請書を書いた覚えがあります。ここでこの本を出しておくことが,日本でのこの分野の研究を促進するためには重要なのだということを強調しました。

結果的に無事出版助成を得ることができ,自分の本を出版する話が一気に進んでいきました。

表紙の色

本を出版するときには,原稿を提出してから出版社とのやりとりをしていきます。原稿の内容のチェックや修正,印刷された原稿を見ての校正などですが,出版社によって(編集者によって)内容のチェックの細かさにはずいぶん差があるように思います。そこでどうしても相性の合う合わないということは出てくるかもしれません。

出版社とのやり取りの中で,表紙のデザインも決めていきます。たいていはデザイナーさんがいくつか案を出して,その中で意見を出しながら決めていきます。

この本の場合,全体的に青色のトーンの案が出てきました。「青年」なので青色の案です。下にリンクがあって,amazonで表紙のデザインを見ることができます。人間が映っていますが,その表面に何かデザインが見えますよね。これは「波」なのです。青色であれば,波であることがよくわかります。

ところが当時の私はそれが気に入らず,「もっと派手な色にしてください」「青年期よりも自己愛がメインなので,赤色とかそういう色で」という意見を出してしまいました。「本当にいいのですか?」と念を押された記憶があります……。

結果的に赤いトーンの表紙になり,デザインの「波」が波にみえないという事態を招いてしまいました。

できた本

このようにして出版された本が,『自己愛の青年心理学』です。

当時の日本国内の自己愛の本というのは,理論的な話か臨床的な話ばかりでした。調査研究がベースの自己愛傾向の研究書としては,これが最初のものだったと思います。

おかげさまで印刷された分はすべて売り切れました。現在は絶版です。

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