戦争にまつわる心理学用語の歴史
今回も,GoogleのNgram Viewerで遊んでみようと思います。これまでにも何度か書いていますので,過去の記事も是非ご覧ください。
今回は,戦争にも関連する心理学用語についてです。
使うときのコツ
さて,以前にも書いたと思うのですが,Ngram Viewerをうまく使うポイントは,単語を比較することじゃないかと思います。というのも,グラフの縦軸は出現頻度によって自動的に調整されます。ということは,ものすごく出現頻度が少ない単語でも,とても多いように見えてしまうことがあるのです。
たとえば,私の名前「Oshio」で検索してみましょう。
グラフの形だけをみると,どんどん本の中に登場してきているように思えます。もし自分のことだったら嬉しいことではありますが,いやそんなことはまずありません。実際には,本の中に登場する頻度自体がとても少ないのです。
それは,他の名前と比較してみるとよくわかります。「Oshio」「Suzuki」「Jack」(たまたま見ていた番組の登場人物だったので入力してみました)と並べてみると,下のようなグラフになります。さっきの「Oshio」だけのグラフが,とても少ない頻度を拡大して表示していることがよくわかりますよね。
ですので,このシステムをうまく使うコツのひとつは,いくつかの単語を比較しながら,そこから解釈を考えていくことだと思うのです。
PTSD
では次に,心理学でも日常でもよく登場する「PTSD」を検索してみましょう。一緒に検索する単語は,歴史的に使われてきた「shell shock」「war neurosis」にしてみます。
◎PTSD......Post Traumatic Stress Disorder(心的外傷後ストレス障害)。安全が脅かされるような経験をすることで苦痛や障害が生じることを指す。
◎shell shock......シェルショック。戦闘によるストレス障害を,殻の中に閉じこもるように反応が少なくなる現象から,このように呼んでいた。
◎war neurosis......戦争神経症。シェルショックがこのように呼び方が変わったとされることば。
そして,これらはそれぞれ,時代背景が違っています。
PTSDはベトナム戦争の時に話題になった症状で,シェルショックは第一次世界大戦の時に話題になりました。ということは,Ngram Viewerのグラフにもその時代が反映するはずですよね。
ではやってみましょう。
やはりシェルショックが話題になるのは1920年前後,第一次世界大戦の後のように見えますね。そしてこの言葉が本当はwar neurosisに置き換わっていくと言われているはずなのですが,その移行はグラフを見るかぎりあまりうまくいっていないように見えます。
そしてベトナム戦争後の1980年前後から,一気にPTSDが使われていく様子がよくわかります。ものすごいグラフの伸びです。
Posttraumatic
実はこれに関連して,もう一つ気になっていたことがあるのですよね。それは,この2つについてです。
◎posttraumatic
◎post traumatic
Postとtraumaticの間に,スペースがある書き方とない書き方があって,「スペースなし」のバージョンを論文でも本でもよく見かけるのです。ところが,パソコンでもスマホでも,入力すると「スペースあり」に訂正されることが多いのですよね。
ということで,PTSDと一緒に「posttraumatic stress disorder」(スペースなし)と,「post traumatic stress disorder」 (スペースあり)をNgram Viewerで検索してみました。
やっぱり,スペースなしの方がよく使われるんだ,ということがわかったグラフでした。パソコンでもスマホでも,スペースなしで入力すると「スペースあり」に訂正されてしまうのに(今もこの記事を書いている最中に「スペルミス」として“posttraumatic”の下に下線が引かれてしまいます),これがよく使われる傾向にあるというのは面白い現象です。
ということで,モヤモヤしていたことが少しだけスッキリしたお話でした。
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