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収入が自尊感情を高めるのか自尊感情が収入を高めるのか

割引あり

「自己肯定感が高いと,収入が増える」,と言われると,どう思うでしょうか?

「やっぱり,ポジティブ・シンキングをした方が,仕事もうまくいって収入も増えるのではないか」と考えてしまう気持ちもよくわかります。

「いや,因果関係は逆じゃないの?収入が増えるから,自己肯定感が高まるのでは?」という意見もありそうですし,これはなかなか説得力のありそうな意見です。


自尊感情

心理学の研究の中では,一般的に言われる自己肯定感とほぼ同じ概念のことを,自尊感情(自尊心,セルフ・エスティーム)といいます。もちろん,self-esteemの日本語訳です。

自尊感情は,自分自身を評価の対象とした際に,肯定的な感情を抱く程度のことを指します。ですから,自己肯定感に近いですよね。


自尊感情と所得

自尊感情と所得との間の関連は,実はよくわかっていないようです。これまでの研究では,所得が高い人ほど自尊感情のレベルは高い傾向が見られることが報告されています。しかし,縦断的な研究の中で,所得の「変動」と自尊感情の「変動」が連動するかどうかについては,十分に検討されていません。

自尊感情を,所得に関連するものとして,所得じ先行して予測するものとして,そして所得とは本質異的に無関連なものとして考える立場があります。


関連の背景

自尊感情が社会的な地位に連動して反応するような,メーターのようなものなのであれば,所得と自尊感情は連動することが予想されます。所得が上昇すれば地位が上昇し,所得が減少すれば地位が低下します。それに連動して,自尊感情も上下するという考え方です。

次に,自尊感情の高さが社会的な活動を予測する可能性です。自尊感情が高い人は,自分に合った賃金の高い仕事を求めがちで,現状に不満があればさらに高い収入の仕事を求めていく可能性があるという考え方です。この考え方に基づけば,ある時点で自尊感情が高い人は,後により収入の高い仕事へと動機づけられていくことになります。

もう一つは,実際に所得と自尊感情はそれほど大きな関連を示すわけではありませんので,実は関連がないという可能性です。人は収入が多く手も少なくても,自分よりも収入が低い人と比較すれば自尊感情は上がりますし,自分よりも収入が高い人と比較すれば自尊感情は下がるはずです。

では,実際に収入と自尊感情との間には,どのような関係があるのでしょうか。こちらの論文を見てみましょう(Self-Esteem and Income Over Time)。

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