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キツネ潰し

その昔,ヨーロッパに「キツネ潰し」というスポーツ(というか娯楽)があったのをご存じでしょうか。

今回は『キツネ潰し 誰も覚えていない、奇妙で残酷で間抜けなスポーツ』(エドワード・ブルック=ヒッチング著,日経ナショナル ジオグラフィック,2022年)という本からの紹介です。

できるだけ飛ばす

広い競技場に,男女が向かい合わせに立ちます。その間には細長い網か布が置かれていて,両端をその男女が持ちます。そうですね,着物の帯のような細長い布です。ペアになった2人が6メートルから7メートルの間隔をあけて立ち,布の真ん中をたわませて布の両端をしっかりと持つのです。そしてじっと待ちます。

すると,競技場にキツネが放たれます。怯えたキツネたちは競技場の中を走り回ります。そして,ちょうどたわんだ布の上にキツネが来た時,布の両端をもった男女が勢いよく布を引っ張ります。

すると,布の上に乗ったキツネは勢いよく宙に放り上げられます。男女が力いっぱい引っ張ると,キツネは7メートル以上空中に飛び上がることもあったとか。

空中に跳ね上げられたキツネたちは何とかしようと足をバタバタさせます。必死にもがくキツネたちの様子を眺めるのも,人々の楽しみだったそうです。

他の動物も

着地したキツネたちはもちろん瀕死の重傷を負います。中にはまた走り回るキツネもいますが,やはり何度も空中に放り上げられてしまいます。

そのうち疲れてきたキツネを元気つけるために,キツネの餌となる小動物が競技場に入れられることもあったそうです。するとまたキツネたちは走り回り,布を踏んで空中に飛ばされます……。

残酷?

残酷ですよね。しかし,どうも昔の人々というのは動物をなぶり殺すのを見て楽しむことが多かったようだということが,この本を読むとよくわかります。そもそも,キツネ潰しは王宮の中庭や庭園で高貴な人々の間で楽しまれていた娯楽でした。

 キツネ潰しは,たいてい王宮の中庭や庭園で開催されていたが,幕で囲った田舎の特設会場で開催されることもあった(囲いの中で行う狩り「シャス・オ・トワン」と同じ方法だ)。キツネ潰しの原形は,ザクセン選帝侯ヨハン・ゲオルク1世(在位1611~1656年)が好んだスポーツだ。ゲオルク1世は,ドレスデンの中央市場の闘技場で,大型動物同士を戦わせたことで知られている。そこでは,ウシの仲間のオーロックスや雄ジカ,オオカミ,クマ,イノシシなどが血みどろの戦いを繰り広げていた。戦いが収まると,ゲオルク1世は果敢にも競技場に足を踏み入れて,生き残った動物に槍でとどめを刺したという。

エドワード・ブルック=ヒッチング 片山美佳子(訳) (2022). キツネ潰し:誰も覚えていない,奇妙で残酷で間抜けなスポーツ 日経BPマーケティング pp. 134

「ちょっと考えられない」「想像できない」……そうかもしれません。でも,同じ人間がしたことですから,我々の中にもそういう要素がありえると思っておくのが良いかもしれません。

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