見出し画像

精神年齢の謎

「精神年齢」と聞いて,何を思い浮かべるでしょうか。Googleの検索窓に「精神年齢」と入力して検索してみると,ヒットしてくるのは……

・精神年齢測定
・精神年齢診断
・精神年齢鑑定

などなど,「あなたの精神年齢を測定します」というサイトばかりです。
では,国語辞典で「精神年齢」という言葉を調べたことはあるでしょうか。
たとえば私のパソコンの国語辞典では,次のような文章が出てきます。

むむ……なんだか,Googleでヒットする内容と辞書とはずいぶん違っているようです。これはどういうことなのでしょうか。

目次

・知能検査の作成
・知能検査の特徴
・精神年齢とは
・精神年齢の意味の移り変わり

知能検査の作成

今から100年以上前の20世紀に入った頃,フランスで世界最初の知能検査が作られました。作ったのはアルフレッド・ビネテオドール・シモンという二人の研究者でした。

当時,フランスでは義務教育の制度が始まり(1881年),多くの子どもたちが学校に通うようになっていました。その中で,どうしても学校の教育についていくことができない子どもたちが問題となっていました。

そこでフランスの教育省はこの問題に対処するための委員会をつくり,専門家を招集します。そのなかにビネも招かれていました。

そしてビネとシモンはこの問題に対処するための検査を1905年に作成します。それが,世界で最初の知能検査でした。

知能検査とは,学校に入学する前に子どもたちに対して検査を行い,学校の教育についていけないであろう子どもを選ぶための検査でした。
そして,そこで使われたのが精神年齢(mental age)という指標だったのです。

知能検査の特徴

知能検査が作られる前にも,人間の能力を何らかの形で測定しようとする試みは行われていました。
たとえばジェームズ・キャッテルはメンタル・テスト(mental test)という言葉をつくり,人間の能力や個人差の測定を推し進めていきます(ちなみにこの「メンタル・テスト」も,Googleで検索すると,キャッテルの言葉からはかけ離れた結果がずらっと出てきます……)。
しかし,反応時間や連想時間,視力や触覚など,さまざまなことを測定しますが,「これが人間の知的能力だ!」という多くの研究者が納得できる検査はなかなか作ることができない状況でした。

そこに登場したのが,ビネとシモンの知能検査です。

知能検査の特徴は,次のようなものです。

・とにかくさまざまな検査を寄せ集める
・寄せ集めた検査を難易度順に並べる

「え?それだけ?」と思うかもしれません。ええ,それだけなのです。しかし,これがとても画期的だったのです。
とにかくいろいろな検査を集めました。たとえば,「マッチを擦って目の前にかざし,目で追うかどうかを確認する」「手の届く範囲にものを置き,手を伸ばして取るかどうかを観察する」「命令通りの行動ができるかどうかを確認する」……というものから,「3つの数字を復唱する」「15語の文章を復唱する」果ては「2つの抽象語の違いを答える(尊敬と友情は何が違うか)」というものまで含まれていました。

これが「知能検査」なのか?と思うかもしれません。しかし,これが当時としては革命的な検査方法だったのです。

ビネは,複数の異なるテストを組み合わせるテスト・バッテリーという考え方をとり,知能を傾向の束として捉えようと試みました。
これは,誰もが受ける学力試験とよく似ています。それは,数学の試験の中に計算問題,図形の問題,関数の問題,証明の問題など雑多な種類の問題が含まれており,全体として数学の学力を測定するようなものなのです。我々が当たり前のように受けている学力試験も,元をたどればこういう思想が受け継がれたものなのかもしれません。

精神年齢とは

さて,ビネとシモンは1908年に知能検査を改訂します。そして,ここでやっと精神年齢が登場します。

雑多な問題を難易度順に並べ,それを年齢に結びつけたもの。それが本来の意味の精神年齢です。

ここから先は

1,189字

【最初の月は無料です】心理学を中心とする有料noteを全て読むことができます。過去の有料記事も順次読めるようにしていく予定です。

日々是好日・心理学ノート

¥450 / 月 初月無料

【最初の月は無料です】毎日更新予定の有料記事を全て読むことができます。このマガジン購入者を対象に順次,過去の有料記事を読むことができるよう…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?