見出し画像

本の中に書かれたMBTI

一時期に比べると,日本でもMBTI(Myers–Briggs Type Indicator)が話題になることが多くなった印象です。この名前よりも,無料でネットで受けることができる心理検査のほうが知られているかもしれません(なお,ネットで無料で受けることができる心理検査をMBTIの本家は認めていないのではないかと思うのですけれども……)。

授業の質問でも学生からMBTIの質問がよく出される傾向があります。

MBTIは1960年代に作成された心理検査で,特にアメリカ合衆国では根強いファンがいることでも知られています。近年の日本での流行は,ネット上で受けることができるサイトの普及と,韓国アイドルがMBTIを受けた動画がYouTubeで流れたから……かもしれません。なんだか血液型性格判断から部分的に置き換わっているような印象もあるのですが。

今回は,心理学者が書いた2冊の本の中に登場したMBTIについて見ていきましょう。

MBTI

もともとは,カール・グスタフ・ユングが提唱した性格類型論に基づいています。

ユングの基本的な態度は「外向型」か「内向型」かというものです。これに加えて,4つの機能「思考」「感情」「感覚」「直観」という4つの機能が設定されていました。この2×4の組み合わせによって,8つの類型(タイプ)を導くというのがユングの理論です。

一方で,MBTIは「外向型」「内向型」はそのままなのですが,思考と感情をペア,感覚と直観をペアにして,さらに「判断—知覚」という独自のペアを用意することで2×2×2×2=16類型(タイプ)を導きます。ユング理論では4つの機能は並列なのですが,そこに対立軸を設定しているのがMBTIの内容です。

本の中のMBTI

MBTIについては,以前読んだ本の中にも一節が書かれていました。リリエンフェルドの『臨床心理学における科学と疑似科学』の中では,次のように説明されています。

マイヤーズ・ブリッグズのタイプ指標(MBTI; Myers & McCaulley, 1985)は,ユングのパーソナリティ理論に基づく自己記述式テストである。ユングの理論であるパーソナリティの類型は,パーソナリティ機能の包括的評価で表わされ,4つの基本的パーソナリティを推測する。それらは,対極の連続体構成概念としてMBTIで操作的に定義され,外向―内向(自己の外側を志向するか,内側を志向するか),感覚―直観(知覚による情報に依存するか直観に依存するか),思考―感情(論理的な分析に基づいて判断を下す傾向にあるか,個人的価値に基づいて判断を下す傾向にあるか),判断―知覚(外界とかかわるとき,思考―感情プロセスを使用する志向を有しているか,感覚―直観プロセスを使用する志向を有しているか)から成り立つ。受検者は,これらの4つの次元で得られた得点に基づいて,設定されたカットオフスコアによって得られる16の異なるパーソナリティ類型のどれかのカテゴリーに割り当てられる(たとえば,外向―感覚―思考―判断)。

S.O.リリエンフェルド,S.J.リン,J.M.ロー 厳島行雄・横田正夫・齋藤雅英(訳) (2007). 臨床心理学における科学と疑似科学 北大路書房 pp.54

これらの16のカテゴリー使用は,賛否両論を引き起こしてきた。なぜならこれらカテゴリーは,ユング理論ともMBTIから収集されたデータとも一致しないからである(Barbuto, 1997; Garden, 1991; Girelli & Stake, 1993; Pittenger, 1993)。

S.O.リリエンフェルド,S.J.リン,J.M.ロー 厳島行雄・横田正夫・齋藤雅英(訳) (2007). 臨床心理学における科学と疑似科学 北大路書房 pp.54

批判

MBTIは心理学者が書いた本の中では批判的に取り上げられることが多い検査です。どうしてMBTIは批判されることが多いのでしょうか。ひとつの理由は,さまざまな関連が検討されてはいるのですが,あまりそれらしい結果が得られていない点にあります。

 全体的なパーソナリティの測度として,MBTIは,よく確立された他の職業測度やパーソナリティ測度と関連が認められないと批判されてきた。検査手引きに一連の併存的妥当性データが含まれていることに対する検査開発者の努力は,賞賛に値するものであるが,4つのパーソナリティ指向が,他の測度によって査定された類似の構成概念と関係することを示す一貫した事実に乏しい。発表された研究によれば,MBTIは職業指向と職業業績の測度とほとんど対応しない(たとえばApostal & Marks, 1990; Furnham & Stringfield, 1993)。加えて,全体的なパーソナリティの測度として,MBTIは,最も一般的な人格構造の2つの科学的モデルであるアイゼンクの3因子モデルと5因子モデルのどちらにもあまり一致しない(Furnham, 1996; McCrae & Costa, 1989; Saggino & Kline, 1996; Zumbo & Taylor, 1993; しかしMacDonald et al., 1994を参照)。このようにMBTIは,現代のパーソナリティ測度として不十分と結論できる。

S.O.リリエンフェルド,S.J.リン,J.M.ロー 厳島行雄・横田正夫・齋藤雅英(訳) (2007). 臨床心理学における科学と疑似科学 北大路書房 pp.56

ほかの本

ほかにもアメリカのパーソナリティ心理学者が書いた本にMBTIは登場するのですが,おおよそ批判的に書かれていることが多い印象です。こちらは北米の大御所のパーソナリティ心理学者,ブライアン・リトル先生の本の中に登場するMBTIです。

リトル先生とはずいぶん前にお会いしたことがあるのですが,MBTIについて次のように書いています。

 MBTIテストは,20世紀の偉大な心理学者カール・グスタフ・ユングの理論に基づいて,キャサリン・クック・ブリッグスとイザベル・ブリッグス・マイヤーズという実の母娘でもある研究者が開発した,パーソナリティを理解するためのテストです。
 現行の標準的なMBTIでは,93項目の質問に答えることで,4つの対立する指標である「外向―内向」「感覚―直観」「思考―感情」「判断―知覚」のいずれかを組み合わせた16のタイプ(アルファベット4つで表現)で,個人のパーソナリティの傾向を表します。
 アメリカでとても人気が高く,毎年250万人以上が検査を受けているこのテストは,有料テストや研修プログラムも豊富で,多数の書籍やDVDが販売されています。16タイプを表す4つのアルファベットの組み合わせがプリントされたTシャツもあちこちで見かけます。

ブライアン・R・リトル 児島 修(訳) (2016). 自分の価値を最大にするハーバードの心理学講義 大和書房 pp.51-52

 なぜ,MBTIはこれほどまでに人気があるのでしょう?(そして,私はなぜ,彼女のTシャツを見たときに,心の中で「やれやれ」とつぶやいたのでしょう?)
 おそらく,それはMBTIの信頼性や妥当性が高いからではありません。
 まず,信頼性の面では,4つのアルファベットの組み合わせからなる16種類のタイプが,毎回同じものになるとは限らないことがわかっています(つまり,あの女性も再度検査したら,別のTシャツを買わなくてはならなくなります)。また,他のパーソナリティ検査と違って,大規模な研究基盤があるわけでもありません。

ブライアン・R・リトル 児島 修(訳) (2016). 自分の価値を最大にするハーバードの心理学講義 大和書房 pp.52

どうして人気があるのか

リトル先生は著書の中で引き続いて,どうしてMBTIが人気があるのかを説明しています。

 第一に,簡単に楽しく検査ができることです。企業内で行われるMBTIのワークショップは,参加者にとって楽しいものであり,チームビルディングにも効力を発揮します。
 ある企業向けトレーナーの女性は,会社が「MBTIタイプ」に浮かれていることを心配しています。この組織で今流行っているのは,ランチ休憩中のMBTIテストです。彼女曰く,「みんなで星占いしているようなもの」だそうです。つまりそれくらいにMBTIは気軽に行えるのです。「まるで,30分以内に届くピザの宅配みたいに,すぐに結果がわかります」――私たち心理学者が,思わず眉をひそめたくなるような話であることはおわかりでしょう。このような検査は,人間のパーソナリティを理解するのに必要な,繊細かつ詳細な分析とは正反対なものに見えます。にもかかわらず,多くの人が飛びついているのです。
 二番目の理由は,商業的なアピール度が高いことです。
 三番目の理由は,互いのMBTIタイプを比較することが(非科学的な占いとは違って),パーソナリティについての意義ある会話のきっかけになり得ることです。
 四番目の理由は,人は簡単にこの種の検査結果を自分の特徴だと見なすという点です。多くの人は,結果を自分の「アイデンティティ」の一部として,容易に受け入れます。件のTシャツの女性も,MBTIタイプによって表されたパーソナリティを,自らのアイデンティティの一部として誇らしげに示しているように見えます。
 五番目の理由は,MBTIに限ったものではありません。それは,パーソナリティ検査の質問に答えているときには懐疑的でも,いざ結果を見せられると「これはまさに私のことだ!」と魔法にかけられたかのように,信じてしまう私たちの心理です。

ブライアン・R・リトル 児島 修(訳) (2016). 自分の価値を最大にするハーバードの心理学講義 大和書房 pp.52-53

心理検査が世の中に広まるなかで,それを気軽に受けることやそれで自分は何者かを判断していくことが何をもたらすのか。これは今に始まったことではなく,これまでにも何度も繰り返されてきたことです。

ここから先は

0字
【最初の月は無料です】心理学を中心とする有料noteを全て読むことができます。過去の有料記事も順次読めるようにしていく予定です。

日々是好日・心理学ノート

¥450 / 月 初月無料

【最初の月は無料です】毎日更新予定の有料記事を全て読むことができます。このマガジン購入者を対象に順次,過去の有料記事を読むことができるよう…

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?