弦理論入門-1

書いている事

ここでは、素粒子物理学の大学院程度の知識を前提として、重力の量子論である「弦理論」についての入門的な勉強(ネットで拾った資料とB・ツヴィーバッハ著の「初級講座 弦理論 基礎編」)に関する記録をします。
(ただし、私自身は現象論が専門で、しかも実験とデータ解析に近いところの研究をしているただの学生なので理論的な部分に関して「大学院程度」でもすらないことがたぶんにありますが、ご了承願いたいです。)

解説や要約もしますが、勉強途中のみなので私の疑問や理解できない事を書く事あるかと思いますし、間違いもあるでしょうが、どうぞよしなに。

知りたいこと

  • 時空の量子的なダイナミクスとは何か?(正直、これで時空の起源が分かるのかが分からない。だって既に時空を考えてしまっているじゃないか!)

  • 弦理論の記述する世界観は時空の従来の価値観(一般相対論的)とは異なるものなのか?(それともただ弦の存在を仮定して、それの曲がる時空上でのダイナミクスを記述するだけなのか)

ざっと勉強した感じ

基本的に以下ような感じで理論を考えていました。

  1. 「時空」に弦の世界線(弦なので世界面)を考える。

  2. 世界面を測る座標を(局所的に)張る。

  3. 世界面の面積で作用(理論)を作る。

  4. 2の座標系の冗長性(局所変換における理論の不変性)を考える。

  5. 冗長性(普通はゲージ対称性と呼ぶ)をなくすために(つまりゲージ固定するために)拘束条件を課す。

  6. 境界条件などを課す。

といった感じ。一次元の「弦」というオブジェクトに関して扱っていますが、この手法自体は何次元のオブジェクトでも適用可能なように見えます。D-ブレーンはまだ出てきてないです。

時空がどこから来たのかが知りたいのであって、正直弦の量子論そのものには興味がない気がしてきました。あと、振動数から色々粒子のスピンの解釈ができるのでしょうが、ここからどうやって重力子とかって断定したりするのかはわからなかったです。

そもそもの不満として、次の仮定が気に入らない。
時空があるものとする
時間が進むものとする
ローレンツ対称性とかはもちろんあるけれど、、、
ちゃんと読んだらわかるのかな。
「ホログラフィック原理」と「時空の原子」がなんなのかが気になっているから、早くそこを勉強したい。

それと。

非相対論的な点粒子の古典力学を作用原理から定式化すると、ラグランジアンの時間の積分を考えていました。そしてラグランジアンは点粒子のある時刻の座標で書かれていました。これに対して相対論的な時は、時空ごと考えるので、ローレンツ不変なものとして一番ナイーブな世界線を考えて、それをラグランジアンとする、または、次元をもつ補助場を導入して、速度の二乗の項を考えることにしています。なんだか余計なパラメターを導入している感じが気に入りません。それで説明できるならいいのか。。。?

とりあえず、基礎の基礎からまとめます。

ボゾン的弦理論

トイモデルとして一番簡単な「ボゾン的弦理論」から始めます。タキオンの存在など、欠陥があるほか、現実的ではないがまずは肩慣らし。

弦の量子化方法について

しばらく第一量子化で考えます。第一量子化でも実は粒子の生成消滅を扱うことが可能らしいです(特殊相対論と量子論を考えると自然に粒子の生成消滅という描像が出てくるがこれには第二量子化(場の量子化)を行うことで対応していた。)。実際、『ミチオ・カク、超弦理論』では第一量子化と第二量子化の等価性を、それぞれの形式における完全系を用いて変換することで、示されていました。

粒子の量子化では、第一量子化の問題点として、
相互作用の種類と粒子の種類を導入する原理がわからない
摂動論しか扱えない
というデメリットがあるようです。

弦の第一量子化では、自然に相互作用と粒子が入って来るとのこと(おそらく、弦のモード(離散的な振動数)によって粒子の種類が定義されることと関連していると予想。)。
しかし、摂動論しか扱えないのは同じらしいです(確か、行列模型は非摂動的な定式化のはず。これと第二量子化との関係性はなんだろうか。行列模型はいきなり行列で表されるオブジェクトを考える。その行列の脚から時空の概念が出てきて、場になってはず。この意味で第二量子化と等価か?こっちは時空からスタートしてないので雰囲気的に私の興味に近そうな気がする。。。)。

相対論的弦の力学(世界面の面素)

相対論的弦に関する基本的な力学から考えます。設定は「時空」という舞台を考えて、弦の時空の「軌跡」(世界線ならぬ世界面)を考えることからスタートします。

まずは時空(ミンコフスキー空間)における世界面の面素$${\text{d}S}$$を考えたいです。世界面(つまり弦の軌跡全体)で作るローレンツ不変な作用を作りたいからです。これが一番ナイーブな作用の作り方です。他にも方法はあるでしょうが、厳密な数学的な証明があるかは知りません。

さて、

世界面は高次元(ミンコフスキー)空間に埋め込まれた曲がった(2次元の)部分空間になります。そこで世界面に局所座標系を張ります。普通、$${\sigma_\alpha,\ \alpha=0,1}$$で表される2次元の座標系です。当然ですが、これは世界面上の座標なので、弦の配位を直接的に表すものではありません。時空上の弦の配位はd+1次元のベクトル$${X^\mu(\sigma),\ \mu=0,1,2,3…}$$で表されます。これは世界面上を指しているベクトルです。この時、世界面の面素$${\text{d}S}$$は

$$
\text{d}S
=
\text{d}^2\sigma \sqrt{-G},\\
G
:=
\text{det}G_{\alpha\beta},\\
G_{\alpha\beta}
:=
\partial_\alpha X^\mu(\sigma) \partial_\beta X^\nu(\sigma) \eta_{\mu\nu},
$$

となります。これは空間(ユークリッド空間)の面積素の一般化と解釈しました。

久しぶりにこの手の計算をしました。完全に忘れていて刺激的でした。学部の早々にやったのになぁ…。ちょっと記録がてら復習しておくと、まず、$${\partial_\alpha X(\sigma)\text{d}\sigma_\alpha}$$は$${\alpha}$$方向の微小な変化ベクトルです。つまり、弦の面素の$${\alpha}$$方向の辺の長さを持ち、$${\alpha}$$方向に向きを持つベクトルです。ベクトル$${\vec{a}_0, \vec{a}_1}$$で張られた平行四辺形の面積の定義は(底辺$${\times}$$高さを難しく、というより一般化して書くと)$${\vec{a}_0\times\vec{a}_1=\sqrt{\vec{a}_0^2\vec{a}_1^2}\sin\theta= \sqrt{\vec{a}_0^2\vec{a}_1^2(1-\cos^2\theta)} = \sqrt{(\vec{a}_0^2\vec{a}_1^2-(\vec{a}_0\cdot\vec{a}_1)^2)} = \sqrt{\text{det}[[\vec{a}_0^2,\vec{a}_0\cdot\vec{a}_1],[\vec{a}_0\cdot\vec{a}_1,\vec{a}_1^2]]} = \sqrt{\text{det}(\vec{a}_\alpha\cdot\vec{a}_\beta)}}$$です。今の場合$${\vec{a}_\alpha \Leftrightarrow\partial_\alpha X(\sigma)\text{d}\sigma_\alpha}$$と対応するので、上記の式が導かれます。負号はミンコフスキー空間の計量からきています。$${\eta_{\mu\nu}=\text{diag}[-1,1,1,1,…]}$$としているので、行列式は負になります。)

面素がわかったので、作用を作ると

$$
S=-\frac{1}{2\pi\alpha^\prime}
\int\text{d}^2\sigma \sqrt{-G},
$$

が一番ナイーブなもので考えられます。これを南部-後藤作用と呼びます。ここで係数は慣習的なものですが、張力と解釈できるものなようです。

ここで$${G_{\alpha\beta}}$$は誘導計量と呼ばれる量ですが、世界面の計量とは異なります。世界面の計量は独立に$${h_{\alpha\beta}(\sigma)}$$で定義されます。

(計量は『内積』を定義するものですが、上記の説明からわかる通り、誘導計量は『外積(ウェッジ積?)』から出てきていました。しかし、一般相対論の時はそのまま$${g_{\mu\nu}}$$でラグランジアンも定義していて、同じだったよなぁ…。ここの違いは、時空に埋め込まれているもの(世界面)を考えているのと、より高次元のものに埋め込められるとは限らない時空自体を考えているかどうかの違いから来ているのかな?リーマン幾何学を勉強したら分かりそう…。)

さて、この世界面の計量を導入すると、少し違う(けどまだナイーブな)作用も考えられます。それが、

$$
S=-\frac{1}{4\pi\alpha^\prime}
\int\text{d}^2\sigma
\sqrt{-h}
h^{\alpha\beta}G_{\alpha\beta},\\
h
:=
\text{det}h_{\alpha\beta}.
$$

これをPolyakov作用と呼びます。これは世界面の面積からの着想ではありません。これは、ある種、場の理論的な構築方法だと考えます。つまり次のような発想手順と考えます。まず、最低限の次数や微分の階数で、作用を構成する最小限の要素を考えると、弦の位置座標の一階微分$${\partial_\alpha X^\mu(\sigma)}$$と世界面の計量$${h_{\alpha\beta}}$$と時空の計量$${\eta_{\mu\nu}}$$が考えられます。これらで局所座標の局所変換とローレンツ変換の下で不変な項を考えると、時空と局所座標の脚を潰せばいいので、

$$
h_{\alpha\beta}\eta_{\mu\nu}
\partial_\alpha X^\mu(\sigma)
\partial_\beta X^\nu(\sigma)
$$

が考えられます。そして、局所座標の局所変換の下で不変な世界面の面素は、世界面の計量を使って、$${\text{d}^2\sigma\sqrt{-h}}$$となります。

(世界面の局所変換なので、面素と世界面の計量の行列式はそれぞれ、

$$
\text{d}^2\sigma
\rightarrow
\text{d}^2\sigma^\prime
=
\text{d}^2\sigma
\text{det}\Bigl(
\frac
{\partial \sigma^{\prime\alpha}}
{\partial \sigma^\beta}
\Bigr)\\
h
\rightarrow
h^\prime
=
\text{det}
h^\prime_{\alpha\beta}
=
\text{det}\Bigl(
h_{\alpha^\prime\beta^\prime}
\frac
{\partial \sigma^{\alpha^\prime}}
{\partial \sigma^{\prime\alpha}}
\frac
{\partial \sigma^{\beta^\prime}}
{\partial \sigma^{\prime\beta}}
\Bigr)
=
h
\text{det}\Bigl(
\frac
{\partial \sigma^{\alpha^\prime}}
{\partial \sigma^{\prime\alpha}}
\Bigr)^2
$$

と変換されます。よって、

$$
\text{d}^2\sigma \sqrt{-h}
\rightarrow
\text{d}^2\sigma^\prime\sqrt{-h^\prime}
=
\text{d}^2\sigma\sqrt{-h}
\text{det}\Bigl(
\frac
{\partial \sigma^{\prime\alpha}}
{\partial \sigma^\beta}
\Bigr)
\text{det}\Bigl(
\frac
{\partial \sigma^{\beta}}
{\partial \sigma^{\prime\alpha}}
\Bigr)
=
\text{d}^2\sigma\sqrt{-h}
$$

となり、不変になります。)

これらの材料から作用を作ると、

$$
\int\text{d}^2\sigma
\sqrt{-h}
h^{\alpha\beta}G_{\alpha\beta},
$$

となり、Polyakov作用になります。

次回では、南部-後藤作用とPolyakov作用からみちびかれる運動方程式や、これらの等価性などについて論じていきます。


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