うなじの記憶
顎の下で切り揃えた髪が気づけば肩をくすぐるようになり。
書いたり描いたりしているとなんだか鬱陶しい。
えほんを3冊創ったら美容室に行く、という自分へのささやかなご褒美にはあとまだ1冊描かねばならない。
(今度は木村佳乃みたいなショートにしたい気分。)
そんな訳で、恒例のひっつめ髪。
色鉛筆のシッポで頭を掻く。
後れ毛を毛束に埋める。
網戸から入る風が首筋をゆく。
ーそうか、あれは恋を失ったからじゃなかったんだ。
蘇る20年以上前の記憶。
遠足の砂浜。
ショートにしたアノコ。
好きな男な子に別な好きな子がいると知ったという打ち明け話。
多分、初恋。
潮風に青白いうなじが戸惑っているように見えた。
「別に失恋したからとかじゃなくて」
毛先をつまんで彼女はそう言った。
「記念。」
「記念?」
私はよくわからなかった。
そして、同い年の彼女のアンニュイな笑顔がすごく大人びて見えてやはり戸惑った。
ー恋をした記念だったんだ。
彼女はきっと、うなじに潮風を受けるたびに大切な初恋を思うのだろう。
それはきっと、悲しい思い出としてではなく、炭酸水の爽やかな後味のようなものとして。
湿気を含んだ梅雨の風が、私のうなじにあの日の答えを囁いた。
ーヤラレタ。ロマンチックだな。
コンビニで、三ツ矢サイダーでも買ってこよう。
アノコの初恋に、今更乾杯。
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