フロアを沸かすのはいつだって



私の恋人はDJだ。白く綺麗な指先でコンロに火をつけ、鍋をグツグツとさせながら徐々に会場のボルテージをあげていく。そして、ヒリヒリとしてたまらない熱気があがったと同時に、観客と言う名のうどん達を沸かして、もうそれはコシのある動きで周りは踊り狂うのだ。私も一緒に腰をくねらすと、彼は危ないからさがりなさいと一言。ああ、そうか、彼はこのフロアの中心に立つ者であるから、私如きが茶々を入れたらいけないのね、とそそくさとその場を離れ、狭いキッチンを見守る。さながら関係者席で優雅に見届ける親しい人たちの気持ちだ。出汁ができあった、そうスモークがたかれたのだ。会場は煙にまかれて観客たちの熱も、もうこれ以上はあがらないだろうというところでおしまいの合図、最後の曲が蛇口から流れた。彼は華麗に観客たちをしんみりとさせ、それでいて活き活きとさせて、みんないい顔になってザルの中へ帰っていったのであった。ちらほら人気がなくなるみたいに、みんなが器に移されていく。私は待ちきれずに彼のところへ駆け寄ると「さあ、晩御飯だよ」と優しい笑みで私を迎えてくれた。なんて美味しそうなんだ!いただきまーす。

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