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ごめんね、木綿のハンカチーフ

先に深く深く謝っておく。
きっと私が好きな人に不快な思いをさせると思う。
ごめんなさい。

でも書いてしまう。
それは常々、いつかここに置こうと思っていたことで、いくらなんでもこのタイミングで書くのはひどいよなとわかってはいるけれど、このタイミングでないと、もう書けないという気持ちもある。
「木綿のハンカチーフ」はファンの多い曲だから、いちゃもんをつけるには勇気がいるので。

純白と漆黒のあいだには無数のグレーゾーンがあって、立場や環境やそのときの心のありようによって、果てしなく白に近く見えることも、ほとんど黒にしか見えないこともある。

以下は、私の意地悪全開パターン。
この年齢になったから感じるというおばさんのたわごとであり、以前、男友達と飲む際に「歌謡曲いちゃもんシリーズ」として挙げた話題のひとつ。

その土台として、ある作家さんの「木綿のハンカチーフ」に対する一文がある。
以下、一部をお借りする。

澄んだ歌声を聴きながら、何てひどい男だろうと憤り、娘の悲恋に心を寄せた。
 だが、大人になってからこの歌を思うと、青年のほうにも同情が浮かんできた。
 きっと志を持って上京し、就職したはずである。仕事を頑張り、給料を貯めて、さっそく恋人に指環も買った。ところが恋人は喜んでくれず、ひたすら寂しがるばかり。
自分が青年の立場だったら、これはやるせない。志が高ければ高いほど、仕事に打ち込む自分を恋人に認めてほしいはずだ。ところが恋人は仕事に理解がなく、辞めて帰ってきてと切なく訴えるばかり-
 僕は都会に染まってしまったと別れを切り出す青年の手紙は、変化を拒む恋人への最後の思いやりではなかったか。
 どうして都会で頑張っている僕を認めてくれないんだ。君がそんなだから気持ちが冷めるんだ。そんなふうに詰(なじ)る言葉をのみ込んで、ペンを走らせたのかもしれない。あの人は都会に染まってしまったから仕方ないと、彼女が静かに別れを受け入れられるように。

木綿のハンカチーフ…大人になって気づく「心変わり」の意味」有川浩


私は、この方のように優しい人間じゃない。

恋に憧れる若い頃は、同情と共感を感じたこの歌のヒロインの想いに、大人になるにつれて、私は違和感を持つようになっていた。

それは、このヒロインの感覚に、田舎が善で都会イコール悪だというイメージを感じるから。
だから「悪に染まらないで帰って」と彼女は訴える。

いや、田舎VS都会の図式じゃない。
彼女は、自分がいるところが善で、自分の目が届かないところが悪だと思っているように感じてしまうのだ。

愛しい男にとって、都会の情報や刺激や仕事の成功より、たとえそういうものがなくても、自分が傍にいて愛を注ぐことが何よりプラスと考えているところ。

そして、彼が自分を選択しないということを知ると、わざわざ「木綿」の「ハンカチーフ」をねだる。

言われた男、木綿のハンカチなんか贈れるか?
男は、女との約束を違えたことで、悪かったとは感じているだろう。
ようやくケリをつけられてホッとしたという気持ちはあるにせよ、一度は愛した女を悲しませるのはわかっているのだから、自責の念はあると思う。

男にしてみれば「なによ、この裏切り者!」と罵倒され、「そんな男、こっちから願い下げよ!」と言われたほうが、むしろラクなのではないか。
私が男ならそうだと思うし、このヒロインの立場ならそうする。
好きであればあるほどね。

私なら「一途な自分を裏切ったあなたはひどい男だ」なんて、愛する男に感じさせたりしない。(むしろ相手が嫌いなら、うんと罪の意識を感じさせてやろうと目論む)
実は私も別れたかったのよ、だからなんでもないわ、ってのが私の愛(とプライド)だ。

純粋な男なら申し訳ないと思い、そうでない男なら「だってしょうがないじゃん」と開き直る。

いずれにしても、絹ではない木綿の、しかもハンカチである。
贈れない。
贈れないとわかっていて、女は乞うている。

そこに、健気さを纏った未練を示すことで、男の心を取り戻せるかもしれない、という計算を感じてしまう。
自分の知らない世界にいる、自分とは対極なものと勝負して勝つには、その差をこそ際立たせたアピールがをするのが効果的ではないか。

だから、木綿。
ダイヤモンドをねだったらなんのアピールにもならないし、そもそも歌にはならない。

この執着は、生霊となる「六条御息所」を連想させる。
こういう女が結婚すると「Yシャツ女」になるのだと思う。
これは、「歌謡曲いちゃもんシリーズ」に続く。

男性の書く歌詞だよな、と思う。
男はこういう女が好きなんだろうなと思う。
そして、私もまたなんだかんだ言いながら、この作詞家である松本隆氏のファンなのである。
ゆるされたし。

太田裕美×松本隆の曲では「九月の雨」が好き。

読んでいただきありがとうございますm(__)m