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強盗未遂事件の顛末

一昨年度、私はマンション管理組合の理事長だった。
そのとき起こった事件の話。

墓じまいをする前、片道3時間かけて墓参に行っていた。
戻ってくると
「ああ、理事長、いいところに帰ってきた。」
エントランスで、ほかの階の理事さんに呼び止められた。
留守中に何度も電話をくれたり、玄関のピンポンを押したりしたらしい。

手に「不審者情報」の張り紙を持っていた。
私と連絡が取れないので、とりあえず独自に注意を促す紙を作って、いましがた掲示し、各理事への回覧を依頼して回っているところだという。

昨夜、複数の男女が「水道業者」を名乗り、各戸のピンポンを次々と押したらしい。
どのくらいの人が在宅していて、うちどのくらいの人が反応したかわからない。
理事に報告があったのは2軒。

Aさんは、インターフォンでセールスだと思い「いまは必要ない」と応えたが、相手は「玄関先までお願いします」と言ってきかない。
「パンフレットなら郵便ポストに突っ込んでおいてください」と言っても、「パンフレットはない。とにかく出てきて」の一点張り。
気持ち悪いので、Aさんはもう応えるのをやめた。
すると、玄関のドアレバーをガシャガシャやっている気配があった。
「強引に開けようとしている!」

しかし、数年前、うちのマンションは全戸一括で玄関ドアを新しくして、その際に強固な鍵に取り換えている。
相手が開錠に手間取っているあいだ、Aさんは、玄関の内側で、大きな声でスマホで110番した。
相手はそれを聞いて引き下がったようである。

Bさんは、インターフォンで「水道業者」だというので、「なんのことか?」とドアを開けてしまったらしい。
すると、強引に男女が押し入ってきた。
Bさんも、手にしていたスマホですぐに110番。
女はすぐに逃げた。
男のほうはなんとトイレに立て籠もった。
そやつもトイレから誰かに電話をかけていた。
指示役に指示をあおいでいたのだろう。
そして、Bさんの隙をついて、トイレを出て逃亡した。

Aさんのお宅は、インターフォンが鳴ったときだけでなく、なんの動きもないときでも24時間玄関先を録画していた。
それで、「犯人」の映像があったので、警察に届けた。

私のうちのは、ピンポン押したときにしか録画していない。
帰宅して確認したら、うちのインターフォンには危機を知らせに来た理事さんの履歴画像しかなかった。
逃げやすいように、下の階のエントランス近くの家から順に回ったのかもしれない。
うちに到達する前に、マンション自体から逃亡したものだろう。

築38年のマンションの住民は、多くが高齢者となっている。
結婚と同時に入居した私は、当時最年少だったが、住民の入れ替わりが少ないため、この年になっても「若手」である。
ほとんどが子育てを終えられているが、お子さんたちの同居はなく、高齢者夫婦だけか、または単身世帯。
狙うには絶好なのだろう。

被害がなかったのは幸いだが、応対した住民、特に押し入られたかたの恐怖はトラウマになったかもしれない。
警察にパトロール強化を依頼し、警告のステッカーを購入した。
居住者にはあらためて掲示と回覧で注意を促した。

そこでは管理組合として断言している。
管理組合の許可及び契約なしの業者の個宅訪問はありえない。
そして、これらの許可や契約に基づいての訪問は、必ず「事前通知」をしている。
回覧も掲示も案内配布もないのに、突然訪問してくるやつは悪徳業者か業者を装った強盗犯である可能性が高い。
けしてドアを開けないこと。
「とりあえず出てきて」と言われても、出てはいけない。
不審な気配があれば、迷わず警察に通報すること。

昔は、空き巣を防ぐために鍵をかけた。
いまは、在宅こそ危ない。
留守中なら金品を盗まれるだけだが、在宅で押し入られれば命も奪われることがある。
連中は、高齢者や女性や子供など、力で封じ込められる相手が単独で在宅のときを狙って押し入る。
痛めつけて金品の在り処を言わせたり、キャッシュカードの暗証番号を聞き出したほうが手っ取り早いからだ。
だから、いまは留守の戸締りだけではなく、在宅しているときの訪問者にも万全の注意が求められる。

単身かご夫婦だけになった高齢の親御さんと離れて暮らしているかた、よく言い聞かせてほしい。
アポ電があっても、こちらから依頼したもの以外の訪問を許可してはいけない。

日本はもう治安のいい国ではないということを自覚する必要がある。
大きな災害や戦争などになれば、助け合う一方で、商店や倉庫や豪邸などで略奪が起こるかもししれない。
性善説に頼る時代ではなくなったのだ。
先進国でもない。
G7とか片腹痛い。
国民が生活に苦しんでいる中、他国のために金を出したり武器を買うしか能がない。

いまは「後進国」や「途上国」という言葉は使わず、「新興国」と呼ぶらしいが、新興でもなく、昔は栄えていたのに政治や経済が衰えて治安が悪化した日本をどう呼べばいいのだろうか。
「没落国」とか?
そして、こういう衰えた政治のもとでは、国民の質も比例して低下するような気がしている。

3年半前までは、「交通事故」は、ニュースの中にあった。
事故に遭う可能性は誰にもある、こちらが注意していても事故は起こるということを理論上はわかっていたけれど、実感としては距離があった。
しかし、自分自身が青信号の横断歩道で車に突っ込まれて以来、人生は何が起こってもおかしくないということを実感するに至った。

それまで「怖い」とか「嫌な世の中になったものだ」という気持ちはありながら、やはりそれはどこか「ニュースの出来事」だった。
でも、いまは違う。
すぐそこに強盗犯が潜んでいたり、情報がだだもれしていて、悪党が自分の財産や命を狙っているという実体のある恐怖がある。

私の友人・知人の多くは、一戸建てに住んでいる。
友人は、親を看取って相続した古い戸建ての家に単身で暮らしているが、窓や出入口が複数あり、家にいるときは施錠もしないという。
私は、口を酸っぱくして「鍵をかけろ」と言っているが、「家にいるのに」と彼女は言う。
自分の習慣はなかなか変えられないのかもしれないが、時代のほうは確実に変化している。
「けして戦争をしないと誓った国」が、いつのまにか「先に他国に攻撃ができる国」になろうとしているように。

私は、以前からずっとそうだが、いつどんなときでもスマホを手放さない。
トイレにも持って入る。
トイレにいるときに大地震が起こったり、心臓や卒中の発作が起こったりしたときに、スマホを探すひまはないからだ。
ゴミ出しなどのちょっとした外出でも施錠するし、スマホも持って出る。

今回、不審者に対応した2人の人は、どっちもスマホを携帯していた。
110番通報をリアルに彼らに聞かせた。
元締めは、どんな大胆な指示もできるが、実行犯のほうはやはり捕まりたくないだろう。
対面したら力では敵わない。
だから、対面せずにとりあえずの危機から逃れる。
犯人を捕まえるのは警察にお願いするしかない。

私は、自分が依頼したネットスーパーや宅配便の相手には、必ずスマホを持って出る。
依頼していない配達には出ない。
だから、保険証の更新とかの書留がいきなり届くと、出るのが嫌になる。
郵便局ですと名乗っている相手が本当にそうかわからない。

外の玄関に台を置いてある。
もともとは、母や兄がちょっと腰掛けられるようにという椅子だが、いまは「置き配」に使っている。
インターフォンで対応し、そこの台に置くことを指示して、のぞき窓からしばらく様子を見て相手が立ち去ってから取りに出ている。
まったく留守のときに置き配を頼むことはしないが、在宅でサインなしでの置き配が可能になったことは歓迎している。

何年もかけて年賀状だけでなく中元・歳暮もなくしてきた。
何かものを送ったときは、必ず連絡してほしいと思っているし、私も連絡している。
でないと、配達の人が来ても出ない。
もうサプライズでの贈り物配達とか要らない。


読んでいただきありがとうございますm(__)m