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笹の葉ラプソディ  叶

ただの人間にも興味はあります。
当方も、ただの人間です。
もしこのタイトルに釣られた方がいるなら、
どうぞこの記事を読んでいってください。


七夕はロマンチックなものだと思う。
織姫と彦星にとっての年に一度の逢瀬、
嬉しくて楽しくてデートの帰りにコンビニで募金しちゃうゾ〜
そんな感じで人々のお願いとやらを叶えてくれる、
そのような心境なんだろう。
彼らに人の願いなんていう漠然とした大きなものをそれも複数個叶える力があるかどうかは疑問の余地はあるが、
きっと彼らなりにできうる限り努力してくれているのだろうと信じる。


さて、みなさんは笹の葉に短冊をぶらさげてお願い事を書いた経験はあるだろうか。
わたしはある。
内容は様々だが、二十歳を超えてからはもっぱら健康祈願をしている。身体が痛い、老いがつらい。


では織姫と彦星に最初にしたお願い事を覚えてる方はいるだろうか。
わたしははっきりと覚えている。

『きょにゅうに なれますように』

当時5歳だった。
どうやって『きょにゅう』なる単語を知ったのか覚えていないが、
その頃わたしの語彙係を務めていた母あたりが犯人の可能性が極めて高い。

さてさて、わたしは『きょにゅう』という覚えたての単語を使いたくて短冊に書いたわけではない。
5歳のわたしは『きょにゅうになる』こと夢見て願い、それを織姫と彦星に叶えてもらおうとしていたのである。
ある意味、幼児特有の無邪気さで許されたであろう時期でよかった。
例えば好きな人が推しているグラビアアイドルを知った女子高生がこの願いを持ったならば、あまりに生々しい。

ではなぜそのような願いをしたのか、答えは簡単だ。
昔からわたしはおそらくそのへんの幼児よりも、
女性らしい身体的特徴に憧れていた。
その最たるものが巨乳である。
『セーラームーンになりたい』『アイドルになりたい』と『巨乳になりたい』はわたしにとって同列なだったのだ。
この三つの中だと比較的叶うのでは?と書きながら思った。

そんなこんなで巨乳になりたかった5歳のわたし は、
短冊に願いを込めついでに相応のイラストも描き足し笹の葉にぶら下げた。
実家は住宅街で、お隣さんとも近い。真横。
お子さんたちはわたしより少し年上のお兄さんたち。
現物を見たわけではないがきっとお隣さんの家の短冊には『サッカー選手になりたい』のようなことが書かれていたのだろうと想像する。

現在も実家の場所は当時と変わらず、
両親とお隣さんとのご近所付き合いは続いている。
わたしがいま祈っているのは、どうかあの短冊がお隣さんの目に入っていませんように。
あるいは目に入っていたとしても忘れてくれていますように、だ。

ちなみにこの前、はじめてお隣さんのお孫さんに遭遇した。
おそらく年齢は3歳くらいだろう。かわいらしい女の子だった。
実家の玄関から出てきたわたしを指差し「なんか出てきた!!」と叫んだ。
突然の出来事と幼児の持つかわいらしさを前にわたしは「ンッフ(笑)ンフフフフ(笑)」と更に自身の妖怪感を増す言動をとってしまい、
非常に申し訳なく思っている。
お隣さんの温情で通報されなかったのが有難い。
このときわたしはシャボン玉の当て逃げ事故にも遭ったが実に些細な問題である。



最後に、この中にかつて短冊に書いたお願い事が叶ったという人はいるのだろうか。
当時5歳だったわたしの切実な願いの結果は、
おおよそおそらくあなた方の結果と同じものであろう。


それではまた。



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