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コートを羽織って万年筆を愛でろ  もりたからす

ブランドに疎い。
本当のことを言えば「ブランド」が厳密に何を示す言葉なのかよく分かっていない。辞書で調べても「商標、銘柄」とそっけない説明が返ってくるだけだ。

なんとなく「めちゃくちゃ高いやつがブランド」という認識でこの歳まで生きてしまった。

例えば「日向坂46の金村美玖」という逸品があった場合、「日向坂46」部分がブランド、という考え方も合っているのかイマイチ自信が持てない。

ごく稀に、ファッションにまつわる謎の克己心、あるいは虚栄心に突き動かされ、銀座の店をはしごして革財布を探したり、デパートで腕時計なぞ眺めることがある。
しかし結局、モンベルのジップワレットとカシオのG-SHOCKが便利すぎて買い替える気が一向に起きない。

一応スーツ出勤が求められる職種なので、年齢相応にきちんとした格好をしたい気もするが、私の中のギャル一休さんが「フォーマルな小物買ったって結局ランニング用に別のやつも必要になるやん。
逆にプライベートで使うラフな装備でしれっと出社して怒られなければコスパ最強でアゲっしょ!」と囁いてやまない。

そんな私でも、自宅を探せばブランドの一つや二つはもちろん見つかる。本当に一つか二つしかなかったのが誠に遺憾だが、今回はそれらの紹介でお茶を濁す。

(1)バーバリーのコート

これは誰がなんと言おうとブランドである。ヴィトンのアレやグッチのソレがブランドであるように、バーバリーといえばコートだ。

これは中2の秋、「学校に着ていくジャンパー的なものが欲しい」と希望を伝えたところ、父がデパートで買ってきてしまったものだ。いまだに愛用しているのだから、我ながら物持ちが良い。

一般に、14歳の子に10万円を超える値段のコートを与えることは奨励されない。この観点から私の育った家庭が非常に裕福であった可能性が想定されるが、実際はパチンコに勝った父親が調子に乗った結果であったため、平均的世帯年収で日々のやりくりをする母親は激怒し、その年の私のクリスマスプレゼントは相殺されてしまった。

そのせいかどうか、このコートを着ると哀愁が漂うともっぱらの評判である。年季が入って随分くたびれてもきたが、私にとってコートのアイコンはピーター・フォークなので、古びるほどにそれっぽさが増してなかなか手放せない。

(2)モンブランのマイスターシュテュック149

THE・万年筆。初めて見た時からこのデザインの虜だ。

本格万年筆というやつはいざ使ってみると、その金ペン由来の書き味やらインク選択肢の豊富さから第一線の実用品だと理解できるが、手に取るまで、愛用に至るまでにある種のハードルがある。

私にとってそんな初心者のためらいから一歩踏み出す大いなるきっかけとなったのが「149カッコ良すぎる」という感情だった。

149は素晴らしい。これ以上のデザインを万年筆に求めることは無理なんじゃないかと常々思っている。私だけでなく、万年筆各メーカーもそう考えているような節があるというか、149リスペクトを他社製品に感じることもあるようなないような。

私の用途ではより細く正確な線が出る万年筆の方が適しているし、軸素材や純正インクコストの関係もあって、現在では我がレギュラー万年筆はパイロット、プラチナ、セーラーの国産3大メーカーのローテーションとなっている。

しかし至高は至高であり、149の価値はいささかも減ずるところがない。ずっと眺めていたい万年筆ランキングおよび撫で回してニヤニヤしたい万年筆ランキングでは149が常に優勝である。

ところで近頃インクが高い。モンブランのインクなど恐ろしくて触れることもできぬ。パイロットのインクが一番安い上に性能も文句なしの世界に生まれて本当に良かった。プラチナの古典BBも好き。



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