世界からドバトを消したなら もりたからす
当noteの記事ごとのテーマは、共同執筆者の叶氏の考案による。今回のお題は「もしも世界から一つだけ消せるとしたら」とのことだ。
私の場合、真っ先に「鳩」が思い浮かぶ。
理屈もへったくれもなく、物心付いた時からこの世で唯一、生理的に無理な生き物が鳩だ。
なぜ自分はこんなにも鳩が嫌いなのか。それが気になるあまり鳥類図鑑を読み漁り、気付いたらバードウォッチングが趣味になっていた。
双眼鏡を持ってせっせと鳥を探す日々を経て、ペンネームを「からす」にし、ちょっと羽毛が生えてきた気がする現在でも、相変わらず鳩だけは苦手である。
それゆえ私は、世界から鳩を消そうと思う。
世間にはシルクハットから鳩を出現させる人間もいると聞くが、私は断固、鳩を消失させる。
特定の鳥類を地域から消滅させるとどうなるか。これは既に毛沢東がスズメで実験している。結果は散々なものだったらしい。
鳩の場合は、どうなるか。
ドバトならば外来種だし、ちょっと絶滅させても良いのではないか。都市部に進出した猛禽の主食になっているという話もあるが、まあ物は試しだから消してしまおう。
キジバトはこの際、不問とする。あいつらは大抵つがいで木にとまり、デーデーポッポー鳴いてるだけだ。
シラコバトも見逃す。金村美玖さんの出身地、埼玉県の県鳥であり、めちゃかわご当地ゆるキャラ「コバトン」のモデルでもあるからだ。
ちなみに当note執筆陣における金村美玖推し率は驚異の50%を誇る。
さて、いよいよ私は世界からドバトを消滅させた。
これに伴い、私は外をまっすぐ歩き、最短経路で目的地に到着することが可能となる。
情けない話だが、私はこれまで鳩を恐れるあまり、進行方向に鳩を確認すると、右折左折はもちろん、場合によってはUターンも辞さない生き方を貫いてきた。
「直線上で生理的に無理な相手と出会った時の行動ランキング」があるとすれば、
過激部門1位が「吉良上野介に斬りかかる浅野内匠頭」であり、
へなちょこ部門1位が「鳩を避けて遠回りをする私」である。
ドバトがいなければ、私は迂回なしでどこへでも向かえる。
そして驚くべきことに、どれほど考えても、これ以上の利点が思いつかないのだ。
鳩だらけでお馴染みのスポットには「お寺」がある。
そこにも気楽に行けるようになる、というメリットはあるが、喘息持ちの私はそもそも線香が焚いてある境内には近寄れない。
現状、各地の寺社が鳩と線香で結界を張っているとすれば、見事に近付けない私こそが仏敵である。
ドバトを消滅させたとしても、どうやらそれほど私のQOLは上昇しないらしい。
「もしも世界から鳩を消したら、いつもの書店に数分早く着くかもしれない」
これがようやっとひねくり出した今回の思考実験の結論である。悔しい。もっと鮮やかな消失から美しい結果を引き出したかった。
そういえば近頃、境内で鳩の餌を売るおばあさんを見かけなくなった。
長期的な視点でドバトの個体数を減少させるため、誰かが世界から豆売りのおばあさんを消してしまったのかもしれない。
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