代理人
illustrated by スミタ2022 @good_god_gold
しばらく問診票を見つめてから丸古医師は顔を上げた。よれよれの白衣はところどころに染みがついている。
「おならが止まらない?」
「はい」飯尾は疲れ切った顔で答えた。ぷぷっ。おならといえども、あまりにも回数が多ければ、さすがに疲れが溜まってくるし、何よりも周囲に対する気遣いで、もうヘトヘトなのだ。
「それは、いつからです?」
ぷう。また出た。腹の中は空っぽなのに、それでもおならは出続ける。
「昨日の夕方からです」ぷっ。ぷっ。
「ふうむ。昨日は何か変わったものを食べませんでしたか?」
「変わったものですか。特に思い当たるものは」飯尾は首を傾げる。
丸古は指を折って数え始めた。
「そうだなあ。豆、こんにゃく、ごぼう、あとは芋だね、芋類」
「ううん、芋ですか。芋でしたら、お昼に頂き物の五郎芋を三切れほど食べましたけど」ぷううう。
飯尾の言葉を聞いて、丸古はニヤリとした。
「ああ、五郎芋か。ほら、それですよ。五郎芋は癖が強いですからね。三切れも食べれば、そりゃおならも出ますよ。何も心配はいりません」
そう言われたものの、飯尾は納得できず静かにかぶりを振った。
「でも、食べたのはオレじゃなくて妻なんです」
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