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どんでん返しはラストシーンで

illustrated by スミタ2022 @good_god_gold

 何とも奇妙な映画だった。
 始まって三十分が過ぎてもまだ登場人物についての全貌はわからず、何がしたいのかもわからないままだった。
 クリスマスイブに起きたビルの占拠事件に巻き込まれた刑事は、宇宙から届いたメッセージ映像を見て王女を救おうと決意し、友人に代わって彼女への恋文を書き始める。その恋文をボトルに入れて海に流したところで、ビルの外を自転車に乗ったまま少年が飛んでいるのが目に入った。しかたなく夕日を見ながらインターンの写真を眺めていると、突然、ドアが破られ、サメが飛び込んでくるのだ。拘束されている天才的な連続殺人犯と面会したファッション誌の大物編集長は、どうやらこのあと古代遺跡を探す旅に出るらしい。
 感想の持ちようもなく、比嘉はスクリーンに映し出される映像をただ呆然と見ているしかなかった。ときおりコメディ風の軽いやりとりはありつつも、その瀟洒な台詞回しは逆効果で、笑いが起きるどころか興ざめするばかりだ。だったら眠ってしまえばいいのだろうが、なぜか眠ることはできなかった。
 なぜこれが話題作になってこんなに客が入っているのか、比嘉にはさっぱりわからない。
 激しい爆発が起きた。子供たちがヘリコプターから機関銃をぶっ放すと、真っ白な鳩たちがスローモーションで飛び立っていく。
 ふう。比嘉は椅子に深く座り直してから、そっと視線を落として腕時計を見た。これがまだあと一時間以上も続くのか。
 友人の甲斐寺からは、とんでもないどんでん返しがあるぞと聞かされていたが、話がまるで理解できないのだから、これではどんでん返しのしようがない。
 物語の中に深く入り込んだ上で、それまで観てきた映像の意味がガラリと変わるからこそ、なるほどそうだったのかと観客は唸るのだ。わけのわからない状態では映像の意味が変わることもない。
 長々としたベッドシーンのあと、無意味な殴り合いが延々と続き、主人公がスクーターに乗ってローマの街を走り始めた。
 音楽の盛り上がり具合から、どうやらいよいよラストシーンに突入するらしい。比嘉は小さく欠伸をした。目の端に涙が溜まって視界が歪んだ。結局、どこがどんでん返しだったのかはわからなかった。甲斐寺が興奮して電話をかけてきたのはいったい何だったのか。

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