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日乾し

illustrated by スミタ2022 @good_god_gold

 耳のすぐそばで誰かがコソコソ話をしているような気がして飯尾は飛び起きた。向かいのビルにある歯科医院の看板の明かりが部屋の中をぼうっと照らしている。
 ベッドの上で半身を起こした状態でじっと耳を澄ましながら、薄暗い明かりの中で隅々まで見る。床のあたりから、カサカサッと枯れ葉の中を虫が這うような微かな音が聞こえて、それっきり何の音もしなくなった。
 起き上がってベッドの下をのぞき込むものの、あまり着ることのない服を投げ込んだ収納ボックスがいくつかあるだけで、もちろん枯れ葉などない。
 もう一度ベッドに体を横たえると、またどこからか誰かの話す声が聞こえたように感じた。がばと起き上がり、シーツを剥ぎ取るとむき出しのマットレスを持ち上げた。ベッドの木枠があるだけで、音の出そうなものはない。
 むうと妙なうめき声を上げて飯尾はマットレスをベッドに戻すと、じかに耳を当てた。ここだ。マットレスの中でカサコソと音が鳴っている。人の言葉のようだが、いくつもの音が重なっているせいか、枯れ葉を踏むような乾いた音質のせいか、とにかく何と言っているかは聞き取れない。
 しばらくの間、なんとか聞き取ろうと懸命に耳をそばだてたが、やがて訪れた睡魔には逆らえず、窓下を行き交う車のクラクションに起こされるまで、ぐっすりと寝込んだのだった。

「ちゃんとしてるのか?」
 飯尾の話を聞いた同僚の木寺は肩をすくめた。
「乾してるよ。しょっちゅうじゃないけど、天気のいい日にはたまに乾してる。あと叩いてる、布団たたきで」

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