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好きな本レビュー第7回目『重松清/きみの友だち』

完全な偏見で、読書が好きな人っていうのはどこか「暗さ」を持った人が多いと思っている。
ものすごく生意気なことを書くが、大人になってからは、読書は「良いことだ」「心を豊かにするものだ」という理性のようなものが身につくと思うので、子どもの頃嫌いだった食べ物が「体に良いから」食べられるようになるように、興味のなかった読書をできるようになれる人はいると思う。あるいは、だから自分の子どもには教育上やるべきこととして身に付けさせようとする人もいると思う。


活字を追い始めた瞬間に、その場にいながらにして本の中の世界へトリップする。
物語の中へ、知識の中へ、物語を通じて向き合う自分の中へ。
自ら望んでそんなことを行うのだから、自分の中に静かな部分を持った人が多いというか、やはり、「ちょっと暗い」部分を持ち合わせた人が多いのではないかと思っている。
そうでなければ好んで読書なんかしない。
根っから明るい人はこんなに長い時間じっとしないし黙ってない。人としゃべってるしじっとしていられず外の世界へ常に出て誰かと繋がり活動している。(超偏見)


そんなことを思ったのは、これに出会った頃の自分がやはり悩んでいたと思い出したからだと思う。
常に悩みが絶えなかった学校生活で何らかの答え、癒し、同じことで悩む話を欲していたしその中に救いを求めていたのだろうと思う。

外の世界ではなく本の中へ救いを求めるような、私はそういう暗く自分が出せないような少女だったのである。



『重松清/きみの友だち』


わたしは「みんな」を信じない。だからあんたと一緒にいるーー。足の不自由な恵美ちゃんと病気がちな由香ちゃんは、ある事件がきっかけでクラスのだれとも付き合わなくなった。学校の人気者、ブンちゃんは、デキる転校生、モト君のことがなんとなく面白くない・・・。
優等生にひねた奴、弱虫に八方美人。それぞれの物語がちりばめられた「友だち」のほんとうの意味をさがす連作長編。


これに注目して買った時、中学生。
人間関係に毎日悩んでいて、ビクビクして胃を痛くし、人の顔色をうかがい友だちの意味もよくわからなかった頃で、わかりやすくタイトルを目にして手に取った、のだと思う。うろ覚え。

これも気に入っていて定期的に読み返している本で、その都度、何らかの考え方のヒントをくれる本だ。

重松清さんといえば、最近では「とんび」が映画化され、何年か前にはテレビでもドラマ化されていて有名だと思う。「流星ワゴン」も西島秀俊、香川照之の主演でドラマ化されていた。NHKで「きよしこ」もドラマとなっていた。

まず何が好きって、重松清さんの書く文章が好き。
文章の書き方を勉強したような身でもないので分析はできないが、読んでいてリズムというのか、ポンポンと、スルスルと、なめらかに流れるように心地よい。
詩的な表現に重点が置かれるあまりグダグダと長いようなことがなく、ちょうどいいところで途切れるように句読点が打たれるところもいい。


この物語の主人公・恵美ちゃんは足を悪くしたことによってクラスのみんなとは付き合わなくなる。
恵美ちゃんの友だちとなる由香ちゃんも、病気がちであまり学校に来られず性格や言動もトロいために結果的にクラスのみんなとうまく付き合えない。

この恵美ちゃんと由香ちゃんを中心として、2人と関わった「友だち」達の、「友だち」の物語。
この友だち達の視点でそれぞれのストーリー、それぞれの「友だち」のあり方、捉え方もみんな違う。思うことも。その人の持つ葛藤も。
様々な視点で、関わる世界の数だけ人間関係と悩みがある。
その人その人が、色々な立場で悩む「友だち」との関わり方に、“変わってる”“なんか閉じてる”、恵美ちゃんと由香ちゃんがヒントをくれる。

クラスに必ずいたようなイジワルな子の描き方、「みんな」の圧力によって変化していく「みんな」の様子や空気はリアルで手にとるようにわかる。

誰かに名前を呼ばれることは、とてもうれしい。誰かに「欲しい」と思われることは、とても気分がいい。
だから、嫌な子は、そこを狙ってくる。名前を呼ばないことで、その子のことを消し去ってしまう。「あんたは、いらない」と指でピンと遠くにはじくことで、居場所を無くしてしまう。そして、そういう子はいつだって「みんな」の中に隠れて、にやにや笑っているのだ。

「花いちもんめ」



この2人が友だちとなったのは、松葉杖の恵美ちゃんと体力がなくトロい由香ちゃんでは歩く速度が同じだったからだ。
みんなみたいに早くない。合わせて早くなれることもない。

いろいろな「友だち」の作り方があっていいと思うし、色々なタイプの友だちがいていいと思うが、一番大事にした方がいいのは結局のところ自分なりの歩く速度だったり、自分の思う気持ちだったり、するのだと思う。

ここに描かれたような「友だち」達やこの人たちのような弱い部分はみんな持っていて、大人になればそれを誤魔化したりうやむやにして忘れるのが上手になっていくだけで、本当はずうっと悩むこと、それが「友だち」のこと、人との関わり方なのではないかと思った。

小学生〜中学生の頃くらいに起こる変化、いつまでも残るような心のいちばんやわらかい部分を、人物たちの物語、それを語る言葉を通してとても丁寧に描かれていて、やっぱり大好きな本だなと思った。


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