【社会学】君は文化差別主義者か

Charp.9 移民「21 Lessons」(ユヴァル・ノア・ハラリ)について

もうちょっと感想・意見めいたことも書く

 人種差別から文化差別へ

つい100年前まで白人は有色人種より遺伝的に優れていると、生物学の理論に根ざして「証明」されてきた。人種に優劣があったのだ。言うまでもなく今は科学的・道徳的に完全に間違った見方となっている。遺伝的にも各人種の生物学的差異は殆どない。(7.5万年前に現生人類が激減して遺伝的多様性は失われたボトルネック効果と関係あるか。)

ところが人類学・社会学・歴史学・行動経済学・脳科学の見地からすると、人間には文化的差異が存在するという豊富なデータがある。(当たり前だ、アイヌ民族と声優オタクに文化的差異が無いなら、アイヌ文化を研究するために声優オタクを観察しても良いことになる。)

ではその文化に優劣はあるのか?

文化に優劣はあるか

結論として、文化には優劣がある。

いや文化は皆平等で、全て尊重されるべきだ。(どっちやねん。)SF文化が、ヤンキー文化に劣ると言われたらキレる。

だが、奴隷制度や女性蔑視や学校の髪型規定なんかも尊重すべきで、アメリカ的な自由資本主義の侵略から守られるべき文化と考える人は殆どいない。

もっとリアルに考える。日本の寺と中国の寺を比べると、一般的に後者のほうが色鮮やかだ。建造物は色鮮やかな方が良いと考える人にとっては、寺に関して日本の文化より、中国の文化のほうが優れていることになる。

つまりは、主観がどの価値観に根ざしているかで、文化の優劣が決まるということだ。

コールディア人とウォームランド人

ある国での適切な文化や価値観は、別の国ではうまくいない事がある。ハラリの面白い例え話を紹介する。コールディア(Coldia)とウォームランド(Warmland)という架空の国の人の人間関係を想像する。

・コールディア人(Coldian)ー感情は抑えるのが良いと幼少期から教わる。他者との問題の発生時は、落ち着き、接触を避け、状況が落ち着くのを待つ。接触が避けられないときでも、礼儀正しく、微妙な問題は避ける。

・ウォームランド人(Warmlanders)ー対立は表に出すのが良いと幼少期から教わる。他者と衝突したら何一つ抑え込まず公然と感情を爆発させるのが、すぐに物事を解決し、誰もがスッキリする唯一の方法である。

せっかくハラリが架空の国を用意したのにもう具体的な国を想像していませんか。さてこの2つの方法はどちらも甲乙つけがたい。

だが、もしウォームランド人がコールディアの企業に就職したらどうなるか。おそらく出世できないだろう。なぜならコールディアの企業の上司は「あのウォームランド人は短気で周囲との人間関係が悪く、社風に合わない」と評価するだろうから。そして、ウォームランド人を顧客との接触やチームワークには雇わないだろう。ウォームランド人は出世できないので、企業風土を変えるのは難しい。

逆に、ウォームランドに移民したコールディア人がどうなるか。想像できると思う。

彼らは人種差別主義者か

コールディア人の上司は一見、人種差別主義者(racist)のように思えるがそうではない。人種差別の定義は次の通り。

人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先(略)  ー人種差別撤廃条約

コールディア人上司は、ウォームランド人従業員のDNAに問題があるとか血統が劣るとかで差別しているのではない。彼らの「文化」に問題があるから差別する。世界にはこのような「文化差別主義者」が満ち溢れている。

文化差別主義とは

根拠のないヘイトスピーチや、生物学的な侮辱を伴う人種差別と異なる。文化差別主義は、社会学的な考え方である。

例えば日本の企業がインド人技術者の肌の色をとやかく言うことはできないが、彼が日本企業文化の規範や価値観(たとえば時間を守るとか)を守らないことを非難するようなことだ。日本企業にとって、自分たちの文化的遺産(時間を守るとか)は極めて重要だ。日本企業が彼を採用しないのを非倫理的とは言えない。

文化差別主義の誤謬

文化差別主義の考えは一見正当性があるように思えるが、次の3つの欠点を持つ。

・局地的な優越性ーある文化が優れているのはある地域の範囲内(局地的)

・主張が漠然としているーある文化の範囲や具体的な定義が難しい

・文化の特徴を安易に個人に適用させるーある文化の特徴が、その文化圏の個人の特徴と完全に一致することはまれ

文化差別主義は悪か

文化差別主義には欠点があるとはいえ、その主張には妥当であることが多い。では移民に対する差別をむりやり是正させる為の法律を作るべきなのか。それとも移民はもっと一生懸命に同化する努力をするべきなのか。

世界はさらなるグローバリゼーションが加速している。いま移民問題の最前線にいるヨーロッパが、移民政策の試みに成功したならば、自由と寛容の価値観を信奉することが世界の文化的対立を解決する、という証明になるのではないか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?