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最初に「前提を共有」出来なかったら負け――あるランチ時の悲劇

とある一言から起こった悲しいすれ違い。話下手な僕が記す失敗談です。

優しい注意

先日、目上の方とごはんを食べながら雑談をしていて(雲の上の存在に近いのですが、気さくに話していただけるのです)、とりとめのない話の流れで、ふと僕がこう発言しました。

「ショートスリーパーの人って凄いですよね。羨ましいです」

その方はその発言を聞いて、こう言いました。

「それ、あんまり言わない方がいいよ」

僕は少し動揺しました。今の発言の何が悪かったのか、瞬間、判断がつかなかったからです。続けて、その方はこう言われました。

「年を取ると寝られなくなるのはみんなそうだから」と。

この時点で、僕は認識違いに”はっ”とし、慌てて付け加えます。
「年齢を重ねると睡眠時間が短くなるのはしょうがないですよね。ただ、もし短い睡眠時間でもスッキリ出来たらという意味で……」
「そうやって言い訳をすればするほど、立場が悪くなるからさ。言わない方がいいよ」
そう言われて、僕は情けなく笑いながら「そうですね。気を付けます」と言って睡眠の話は終わりました。

お昼ご飯はおいしかったですし、楽しい会話だったのに、どうしてもその一瞬の気まずさが頭に残って離れませんでした。どうしてこうなってしまうのでしょうか……。


前提のズレ

まず、この会話でどのような前提のズレが起きたのか。それを見ていきましょう。

僕の意図
前提:ショートスリーパー=短い睡眠時間でも健康を保てる人間のこと

ショートスリーパー/ロングスリーパーは遺伝的影響が強く、個人の努力では大きく変更できない所与のもの。ほかの身体的特徴と同じ。「背の高い人っていいですよね」くらいの感覚で発言
受け取り手
前提:ショートスリーパー=睡眠時間が短い人
睡眠時間が短くて困っている人もいるし、上司にはそれで悩んでいる人も多いだろうから、今、将来のためにも注意したほうがいい。

以上のような、前提のズレが起こっていたと考えられます。

そのため、「ショートスリーパーが良い」と発言した僕は、「(今は若くて何時間でも寝られるけれど、寝ている時間がもったいないから)睡眠時間が短い人は羨ましい(ニチャア)」と見えたのでしょう。

そうして、親切心で重役は注意し、僕はほぞを噛む結果に終わってしまったのです。


対策:前提を共有せよ

では、どうすれば良かったのでしょうか。上記のやりとりの通り、すでにすれ違いが起きてしまった後、異なった認識の挽回は不可能でした。

つまり、この悲しい結末を回避できるとしたら最初の一手しかなかったのです。友達ならそこから愛のあるけなし合いに持ち込めたかもしれません。しかし、今回の場合、明らかに親切心から注意してくれていることが分かったので、弁明をしてもなんの得にもなりません。

だからこそ、前提の共有が何よりもまず必要だったのです。

今回、僕が間違っていたのは「ショートスリーパーという言葉の定義を共有出来ている」という思い込みです。

この定義を共有出来ていないかもしれない、というのは話の流れで気付けたはずでした。そこをすっ飛ばして、「ショートスリーパー」という言葉を使ったからこそ、この悲劇が起こったのです。


知の呪縛

こうした既知のことを周知のこととして認識してしまうことを知の呪縛と言います。

知の呪縛:
自分が知っていることを、他の人も知っていると思ってしまうこと。知っているがゆえに、知らない状態が想像できなくなってしまう現象。
Ex) 自転車が乗れる感覚、彼女がいない感覚、うんこを漏らした時の感覚

僕はこの知の呪縛に掛かってしまうことが非常に多い。いうなれば、不親切なのです。

「ショートスリーパーという言葉は、アホみたいに寝てしまうことに悩んだことがある人しか知らないかもしれない」と想像できればこの悲劇は回避できました。知の呪縛が厄介なのは、気を抜くとすぐ人は「知らない状態を忘れる」からです。いわば、すぐに主観に頼ってしまうのです。

「(自分が知っているから)この表現でわかるだろう」
「(このくらい省略しても)わかるだろう」

そうした、自分本位の態度が悲劇を生むのです。

だからこそ、人を惹きつける会話や文章の時に重要になるのは前提の共有です。

結論:分かりやすい、ストレスのない会話を楽しみたいなら、前提の共有はここぞとばかりにやりましょう。(自戒)



(余談)

以上より、非常にびっくりしたエピソードを話す際「漏らすかと思った」といきなり話すのは得策ではありません。全ての人が漏らした経験があるとは限らないからです。

だから、まずは漏らしたことがあるかを探りましょう。

「長距離バスって緊張するよね?」(ジャブ)
「今までで一番パンツの処理に困ったときってどんな時?」(変化球)
「そういえば、うんこ漏らしたことってある?」(直球)

そうして探りを入れ、相手が漏らしたことがあると分かれば前提の共有は必要ありません。普通に使いましょう。

もし、相手が漏らしたことがなかったときは、自分の体験談を感情豊かに、そして臨場感あふれるように共有したほうがベターです。

それこそが、会話をスムーズにし、これから起こる悲劇を回避できる有効な手段なのです。

すでに起こった悲劇はどうしようもありません。我慢は禁物です。


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