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ぽっかり空いた「心の穴」を埋めるために


ちょうど3年前。わたしはまだ人が大勢賑わっている夜の原宿で、撮影をしていた。

ただ夢中に楽しんでいる時というのは、その場だけ「空気」が変わる瞬間がある。時間の感覚もなく、まわりの人の姿や声も溶暗に消えていく。そんな瞬間をわたしはここ最近感じていない。


突然、知らない人達が一緒に撮り始めた。「誰だろう?」と不思議に思いながらも、にこやかに手をふられたので手を振り返し、そのまま撮影を続けた。面白い光景だなあ、と思いながらもモデルに徹していたら、その方が手を止め写真を見せてくれた。

それは短時間で撮ったとは思えないほど魅力的な作品だった。話をしているとその方は、「ハービー山口さん」だということがわかった。福山雅治さんや、桑田佳祐さんなどの写真を手がける超有名カメラマンだ。


そんな方に撮ってもらえただけで光栄だけれど、とにかく私は見せてもらった写真に心が踊っていた。どうしてこんなに高揚するのか、言語化するのが難しい。

本物の表現者というのは、1枚の写真でこんなにも人の心を鷲掴みにするのかと、驚きを隠せないでいた。そしてその時、ハービーさんが一言「とてもいいモデルさんだ」と、言ってくれたのが心底嬉しかったのだ。


後で知ったことだが、ハービーさんが当時発刊された写真集が、

『You can click away of whatever you want: That’s PUNK」

というタイトルだった。
訳すと、「撮りたいものは全て撮るんだ、それがパンクだろ!」という意味で、これはあの歴史的なミュージシャン「クラッシュ」のジョー・ストラマーの言葉だそうだ。

「ある午後、地下鉄でクラッシュのボーカル、ジョー・ストラマーを見かけました。恐る恐る、写真を撮って良いですか?と尋ねる僕に、彼は『撮りたいものは全て撮るんだ、それがパンクだろ!』と言って私のカメラの前に立ってくれました。 当時の僕を励ましてくれた言葉であり、未だ現代の人々に希望を与える言葉です。 後年、日本の音楽雑誌の仕事に恵まれ、さらに多くのミュージシャンにカメラを向けることが出来ました。 僕とのフォトセッションは彼らにとって、それ程重要なものではなかったかも知れません。 しかし、彼らは僕に誠実に向き合い、飾らぬ素顔を見せてくれました。」

この精神をハービーさんはジョー・ストラマーから確実に受け継いでいると思った。だから、この人の写真は心を掴むのだと納得したのだ。


とくに日本人の性質は、「遠慮」が骨身に染み付いててしまってるところがある。「私はこうしたい!」という感情をなかなか表に出しにくい。そんな遠慮を繰り返ししているうちに、いつのまにか大切なことがわからなくなる。

他愛もない会話をすることも、文章も、モデルも、どれも表現に変わりはない。誰一人として、表現をしていない人はいない。


周りに迷惑をかけていないかと遠慮が先に立ち、まるでそれが素晴らしいことかのように私たちは思わされている。こうしたい。これがやりたい。だから誰がなんと言おうとこれをするんだ!と言う意思をいつの間にか忘れてしまっている。遠慮をする度に、私たちの中の何かが確実にすり減っている。


パンデミックが起こり、心にぽっかりと大きな穴が空いたような感覚が消えない。徐々に日常に戻る人々が増えているけれど、世の中はどこか暗く街は閑散としている。自粛を続けているうちに「楽しむってどういうことだっけ?」と、そんな単純なことすら忘れそうになっていた。

「撮りたいものは全て撮るんだ、それがパンクだろ!」

そんな時に改めてこの言葉を思い出し、この記事を書いた。心の穴が少しずつ小さくなっていくような気がした。やっぱり表現者は凄いのだ...。こんな時だからこそ、このパンク精神をいま一度心に刻みたいと思う。


現在、uplinkの配信でハービー山口さんの映画が鑑賞できます。
ぜひご興味のある方は観てみてください。

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