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初心者必聴!洋楽名盤10選 70年代前半編

みなさんこんにちわ。

今日も今日とて洋楽名盤普及委員会をやってこうと思います。今回はベトナム戦争も折り返し地点へと入り、ウッドストックなどのヒッピームーブメントの熱狂が覚めてきた70年代前半を取り扱おうと思います。

70年代前半の主な特徴としてはロックというジャンルが音楽ビジネスとしてのフォーマットが確立されたうえで、イギリスでは多種多様なサブジャンルが花開いた。一方アメリカではSSWやルーツに立ち返る動きが出るなど素朴なサウンドへの回帰がはかられ、R&B、ファンク界隈では黒人の貧困による後のヒップホップへと繋がる思想が芽生え始まます。その一方でジャマイカからレゲエという新たなリズム感覚が到来し、60年代のインド音楽同様80年代のワールドミュージック隆盛の流れへと発展します。

1.Led Zeppelin 「IV」

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頂点への階段

ハードロックを代表するバンドにして、ビートルズ亡き後のロックシーンの王者として70年代最強のバンドとして君臨したレッドツェッペリンの最高傑作とも名高いのが今作。

ツェッペリンのキャリアを語る際に今作を一つの分岐点として前期、後期の2つの時期に分けることができる。というのもツェッペリンは今作以前以後では明らかに楽曲の表現スタイルが変わっているからだ。

前期ツェッペリンは前進バンドであるヤードバーズがブルースを起点としたバンドであったように、ツェッペリン自身もブルース由来の曲が多かったのが特徴だ。実際デビュー作にはブルースのカバーが2曲収録されている。またデビュー直後から人気バンドではあったものの、評論家受けもあまりよくない、いわゆる売れ線バンドとみなされていたようだ。(今じゃ信じられない話だが)

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そのような背景を受けアコースティック的な作風で臨んだ前作「III」では評論界隈からは迷走という烙印を押され、後がないツェッペリンはロンドンから離れ今作のレコーディングを開始。完成したアルバムはタイトルなし、アーティストのクレジットなしという異例のスタイルでリリースされた。これは肥大化しつつあったツェッペリンのネームバリューなどを気にせず、純粋に音楽だけで評価しろという強いメッセージが込められている。

そんな強気の一枚というだけあって中身は当然のごとく素晴らしい。分離されたボーカルと演奏の掛け合いという彼らの十八番のスタイルから始まる「Black Dog」、前作の路線を上手く踏襲した「The Battle of Evermore」、ブルースではあるがヘヴィなツェッペリンサウンドでブラッシュアップされた「When The Levee Breaks」などの素晴らしい楽曲群がアルバムを構成している。

だがその中でも傑出しているのが全人類要必聴の感動のハードロックナンバー「Stairway to Heaven」だ。この曲の存在がこのアルバムを超名盤から、人類の歴史に残るマスターピースへと昇華しているといっても過言ではない。このアルバム以降ファンクなどを取り入れたことでブルース色は薄れ、より濃厚なハードロックを推し進めていくことになる転機となった一枚。

<ネクストステップ>
ツェッペリンに関しては前期なら「I」「II」、後期は「Houses of the Holy」、「Physical Graffiti」の4枚は必聴だ。その他のブリティッシュハードロックとしてブラックサバス、ディープパープルなどのバンドのアルバムも聴いてみよう

2.David Bowie 「The Rise And Fall of Ziggy Stardust and The Spiders from Mars」

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固定概念への挑発と究極の普遍性

その抜群の嗅覚と類いまれなセンスによってその時代に求められた音楽を世に送り出した、ポピュラー音楽が生んだ最大のクリエイターこそデヴィッドボウイという男である。

彼は時代ごとに音楽性どころかヴィジュアルも含めて、様々なスタイルに挑戦している。今作は純朴なフォークロックを奏でてた男が、女装というジェンダーレスなスタイルを経て、人類滅亡の危機を救うために地球へ降り立った宇宙人という、もはや人ですらなくなった時期の作品である。

彼が演じるジギースターダストという宇宙人は上記の設定に加え、バイセクシャルであるということ。そんなジギーが地球でロックスターをすることになり成功するも、聴衆による過度な注目によって死に追い詰められるという、中々ぶっ飛んだストーリーで構成されているのが今作の特徴でもある。

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とはいえこれらの「LGBT」や「ロックのスタービジネス」といった要素は今の時代でも話題に挙がるような普遍的なテーマであるわけで。マイノリティが今よりも肩身の狭い思いをしていた時代において、当時人気アーティストの仲間入りを果たしたばかりの男がバイセクシャルを公言したのは大きなインパクトがあったのは間違いないだろうし、ロックが反体制的音楽から大衆的なビジネスになりつつあることをかなり早い段階で暴いたという点では、ボウイがキャリアの早い段階でかなりの曲者であることが窺える。

これ以外にも黒人差別に聖職者批判、女性活動家といった当時のイギリスが抱えていた問題にもがっつり突っ込んでおり、パフォーマンスでは奇抜なメイクと山本寛斎による独特な衣装と外側からの視点で見ると派手ではある。しかし曲調自体はボウイ作品の中でも比較的シンプルなものが多くを占めているのだ。

派手な見た目とは裏腹にシンプルかつ力強いロックンロールは、その内包するメッセージ性と共に時代を超えて愛される普遍的な美しさを兼ね備えているのである。

<ネクストステップ>
ボウイは長いキャリアにおいて音楽性がかなり変わっていることと、次回で再び登場する予定なので敢えて彼のディスコグラフィーからはおすすめを挙げないでおく。それでも気になる方は今作と音楽性が近い「Aladdin Sane」を聴いてみよう。同時期のグラムロックのT.REX、ロキシーミュージック、モットザフープルといったバンドを聴いてみるのがおすすめ。

3.Queen 「A Night At The Opera」

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万華鏡を覗いてみて

日本で最も受け入れられている洋楽のアーティストといえば、おそらく一番その名が挙がるのはクイーンであるのは間違いないと断言できる。

稀代のフロントマン、フレディマーキュリーを筆頭に個性豊かな4人のメンバー、重厚かつポップで口ずさみやすい素晴らしいヒット曲の数々が多くのリスナーを魅了するイギリスが誇る国民的バンドの一つだ。近年だと映画「ボヘミアンラプソディ」の大ヒットにより、また新たなファンを獲得してしまったことも記憶に新しい。

とはいえそんな完全無欠なスーパーバンドにも弱点はある。それはアルバムという観点で言うと、どうしても名盤と呼ばれるものが少ないという点だろう。そもそもロックが大衆産業となった時代に登場したバンドの象徴として語られるところが元々あるし、77年発表の「世界に捧ぐ」以降からはアメリカ進出にかなり力を入れていたという事実からも、どちらかと言えばアルバムよりもシングルに重点を置いたバンドでもある。(そのおかげでどの時代にもハイクオリティな楽曲が存在し、長い間愛されるバンドになったわけだが)

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とはいえ全く名盤が無いのかと言われたらそんなわけでもない。そんな数少ない例外が本作「オペラ座の夜」という傑作であり、イギリスにおいて彼らを国民的ロックスターへと押し上げた会心の一枚なのだ。

グラムロック的な出で立ち、ハードロックの影響の強いサウンド、プログレ顔負けの圧倒的な構成力とストーリー性という当時のUKロックのハイブリッド的な要素に加え、楽曲をコンパクトかつポップに仕上げる能力を持った類いまれな才能を持ったバンドであった。そんな高い能力が最大限に活用されたアルバムこそ本作であり、とにかく全ての楽曲のクオリティの高さがずば抜けている。

そして今作のラストを飾る一曲こそ、クイーンサウンドの最高到達次点とも呼び声が高い永遠のロッククラシックス「Bohemian Rhapsody」なのだから完璧すぎるとしか言いようがない。ビートルズから始まったポップスにおける録音技術革命は、同じイギリスを代表する4人のポップス職人の手によって最初の完成形を提示することになった。

<ネクストステップ>
クイーンに関してはシングル重視のバンドということもあって、無難にベスト盤から聴いていくことをおすすめする。タイプは違うが同時期にブレイクし、なにかとクイーンと一緒に扱われることの多いエアロスミスとキッスなどを聴いてみるのもあり。

4.Marvin Gaye 「What's Going On」

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極上のソウルが織りなす憂い

近年だともはやソウルという枠組みを超えて、アメリカのポピュラー音楽が生み出した最高傑作と名高い、マーヴィンゲイが1971年に発表した名作。

ブラックミュージックがメインストリームで大きな存在感を年々示すようになるとともに今作の評価は日に日に高くなり、ついに今年ローリングストーン誌が発表したベストアルバム500では、前回一位だったビートルズを蹴落とし1位を獲得。ある意味ロックという音楽が現在のアメリカ社会において、それまでの影響力がもはや皆無であることを如実に表した出来事とも言えるのかもしれない。

とはいえやれBLMだーとか、ポリコレに配慮だーとかそういうことは全く関係なく、このアルバムのクオリティの高さは文句なく高いし、この手の名盤ランキングで1位になっても何ら問題は無い、正真正銘の大傑作であるということだけはわかってもらいたい。

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今作が制作される以前のマーヴィンは、名コンビとして多くのヒットを世に送り出した相方タミーテレルの死をきっかけに音楽活動を休止していた。そんなさなかベトナム戦争から復員した弟のフランキーとの再会により、彼は一筋の光を見出す。

完成した本作は流麗な美しいメロディと緻密なアレンジが光る楽曲群に乗せて、ベトナム戦争戦争や貧困などの社会問題を赤裸々に歌い上げる衝撃の一枚となった。当時のブラックミュージックの世界(特にモータウン)において社会問題とコンセプトアルバムの概念を持ち込んだだけでも凄いことだが、それ以上にセルフプロデュースによる自由な楽曲制作の環境を取り入れたことが同世代のブラックミュージック界隈のアーティストに大きな刺激を与え、ニューソウルという一連の流れを作ったことが、本作を歴史的名盤へと押し上げている要因の一つだ。

このような社会問題にも突っ込んだメッセージ性の強いアルバムは、攻撃性の強い尖った作風というイメージを持たれるかもしれない。しかしそこにいるのはヒットメイカーとしての役割に疲れ、ただ純粋に美しいものへの追求へとスタイルをシフトした男の慈愛と憂いなのかもしれない。

<ネクストステップ>
純粋な愛への欲求を高らかに歌った次作「Let's Get It On」、タミーテレルとの極上のデュエットが聴ける「United」がおすすめ。またマーヴィンゲイよりも早い段階でメッセージソングを出していたカーティスメイフィールドの名盤「Curtis」もおすすめ。

5.Bob Marley & The Wailers 「Live!」

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神からの啓示

カリブ海の小さな島国が生んだ音楽が、1970年代のUKロックシーンに一大旋風を巻き起こした。アメリカのR&B、ジャズ、トリニダード・トバゴ発祥のカリプソ、ラスタファリアン、そしてジャマイカのフォーク音楽であるメントといった様々なジャンルから影響を受けたその音楽は、スカ、ロックステディという系譜を経て、レゲエと呼ばれるジャンルへと進化した。

レゲエが示した新たなリズム感覚は、レッドツェッペリンやローリングストーンズといった当時最前線を走っていた多くのアーティストに大きな衝撃を与える。あのジョンレノンが「70年代はレゲエが席巻する」と公言し、自らの楽曲「Mind Games」にそのリズムを取り入れた。

そして1974年エリッククラプトンが「I Shot The Sheriff」という、とあるレゲエミュージシャンの楽曲をカバーし全米1位の大成功を収める。このとあるレゲエミュージシャンこそ、レゲエの神様として多くのアーティストに影響を与えたボブマーリーなのだ。

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1972年にアトランティックレコードからリリースした「Catch A Fire」で世界的に名を知らしめたボブマーリー&ザ・ウェイラーズであったが、活動初期から中心人物として活躍していたピータートッシュとバニーウェイラーの相次いで脱退してしまう。しかもこのアルバムをリリースした翌年にはマーリーがライブのリハーサル中に銃撃される事件が起きる。これは当時のジャマイカの政治闘争を背景としたもので、後に1978年にマーリーがライブのステージで二大政党の党首に和解の握手をさせるという象徴的な出来事へと繋がることになる。

そんな激動の時代の最中にリリースされたこのライブアルバムは、色鮮やかに描かれたジャケット同様、当時のマーリーの勢いと熱気を見事なまでに記録しているライブアルバムの金字塔だ。

ラスタファリズムに裏打ちされた高い精神性に基づいた歌詞、ライブという空間により肉感性が増したうねるようなリズム、そしてどこまでも素晴らしいマーリーの歌唱。レベルミュージックとも呼ばれる攻撃性の強い音楽が大半を占める中で、哀愁を帯びたメロディと祈りのような歌詞が印象的な「No Woman, No Cry」という大名曲が飛び出してくるのがこれまたズルい。

<ネクストステップ>
マーリーのオリジナルアルバムならば「Catch A Fire」、「Exodus」、「Kaya」といったアルバムがおすすめ。またマーリーと共にウェイラーズの一員として活躍したピータートッシュの「legalize It」、同時期に活躍したジミークリフの「The Harder They Come Original Soundtrack」もおすすめ。

6. Crosby, Stills, Nash & Young 「De Ja Vu」

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淡い青春の記録

古今東西スーパーグループと呼ばれる、すげえ奴らを集めたら最強だよねっていう理論で結成されたバンドは数多くいる。ブリティッシュブルースの若きスター3人によって結成されたクリーム、プログレ界の猛者が結集したエイジア、ロサンゼルスでは名うてのセッションミュージシャンたちで結成されたTOTOといった具合にぱっと思い浮かべたでけでもこんだけ思いつく。

とはいえ60年代末から70年代初頭にかけて活躍したこのグループを差し置いてスーパーグループについて語ることは出来ないだろう。アメリカ西海岸が生んだアメリカンロックの最高峰こと、クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング、通称CSN&Yだ。

元バッファロースプリングフィールドのスティーブンスティルス、元バーズのデヴィッドクロスビー、元ホリーズのグラハムナッシュといったこの時点でも豪華なメンバーで前進バンドであるクロスビー・スティルス&ナッシュが1969年にデビューする。アコースティックで素朴なサウンドと3人の美しいコーラス、また元々アメリカンロック界隈では名を挙げていた実力者たちによるバンドだったためすぐに人気バンドの仲間入りを果たす。

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ここでバンドのロック的要素をより強めたかったスティルスは新たなメンバーを追加しようと動く。そしてグループに加入したのがバッファロースプリングフィールド時代の同僚にして、スティルスとは犬猿の仲だった天才ニールヤングだった。こうして4人になったことでCSN&Yに名前が変わり、ウッドストックフェスティバルでのパフォーマンスを機にバンドへの期待値はかなり上昇した。

そんな上がりに上がったハードルを軽々と超えるかのようにリリースされたのが傑作「De Ja Vu」なのである。相変わらずヤングとスティルスの喧嘩は絶えなかったそうだが、これが逆に各々の自己主張を激しくし、結果として前作よりもいろんな面で多彩さが増すこととなった。また4人のソングライティングセンスも円熟味を増しており、ジョニミッチェルが提供した「Woodstck」も含め穴となるような曲は全く見当たらない。

しかしスーパーグループの宿命なのか、このアルバムリリースからほどなくしてニールヤングがバンドから離脱しCSN&Yは空中分解する。その後バンドは断続的にくっついたり離れたりを繰り返しながら今に至ることになる。

<ネクストステップ>
このアルバムの2か月後にリリースされた傑作「After the Gold Rush」を皮切りに、アメリカンロックの重要人物として君臨することになるニールヤングの傑作群(「Harvest」、「Rust Never Sleeps」あたり)は抑えたいところ。スティーブンスティルスの「Stephen Stills」、「Manassas」や、二人が在籍したバッファロースプリングフィールドのアルバムや、その時の同僚ジムメッシーナ率いるポコなども聴いてみよう。

7.Bruce Springsteen 「Born To Run」

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果てしない夢を詰め込んで

1974年、ロック評論家ジョンランドーはとある若手アーティストのライブを観て、リアルペーパー誌にこのようなコラムを掲載した。「私はロックンロールの未来を観た。その男の名はブルーススプリングスティーン」と書かれていた。

ブルーススプリングスティーンはいくつかのバンドとを経た後、1973年にソロアーティストとしてデビューした。しかし彼の持ち味である鋭い視点が生み出すメッセージ性の強い詩が災いとなったのか、レコード会社は彼をボブディラン2世として売り出そうとした。

二作目となった「The Wild, the Innocent & The E Street Shuffle」ではその後の方向性や楽曲の紺瀬王とこそ固まってきたものの、セールスには直結せずレコード会社との契約は危機を迎えつつあった。

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そんな危機的状況の中で先ほどのコラムを書いたジョンランドーをプロデューサーに招き、ボブディランのような詩、フィルスペクターのようなサウンド、デュアンエディのようなギター、ロイオービソンのような歌唱を目指して作られた今作は彼を一躍スターダムを押し上げることになった。

当初の目論見通りクラレンスクレモンズを筆頭としたバックバンドであるEストリートバンドと奏でるロックンロールはどこまでも痛快で、そこに乗っかるスプリングスティーンの熱い歌唱は圧巻。歌詞は大都会に憧れる郊外の若者たちの日常を描き、ベトナム戦争で砕け散ったアメリカンドリームへの不安を切実に描いていた。

走るために生まれたと歌う表題曲は当時20代後半に差し掛かり、先行きの見えないキャリアを過ごしていた当時の彼の心境とマッチしており、まさに当時のアメリカの若者が抱えていたモヤモヤした感情そのものだった。面白いことに今作リリースの翌年のアカデミー賞では、それまで主流だったアメリカンニューシネマの作品ではなく、無名の俳優が自ら脚本・主演で臨んだ低予算映画「ロッキー」が作品賞を受賞する。誰もがアメリカンドリームを渇望していた時代に、共にイタリアにルーツを持つシルベスタースタローンとブルーススプリングスティーンというスターがそれぞれのジャンルから頭角を現したのは興味深い出来事である。

<ネクストステップ>
その後も怒れる男として、アメリカの代弁者としての地位を確立するブルーススプリングスティーン。2枚組の大作「The River」、12曲中7曲がシングルトップテン入りを果たした傑作「Born In The U.S.A.」は要必聴。また80年代の日本のシンガーソングライターへ与えた影響は凄まじく、佐野元春、浜田省吾、尾崎豊なども彼のフォロワーと言える。

8.Sly & The Family Stone 「There's a Riot Goin' On」

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ベッドの上の革命

ファンク(funk)という言葉はクレオールの俗語で「黒人の匂い」という指す言葉であり、アフリカ系音楽由来の16ビートのリズムとフレーズの反復を多用した曲構成を持つ音楽ジャンルを指す。

1960年代にジェームズブラウンによって作り上げられたファンクは、ジョージクリントンによってPファンクという新たな流れを作る。しかしファンクを黒人だけのものにするだけでなく、白人にも受け入れられるように門戸を開けたのが白人・黒人混成バンドのスライ&ザ・ファミリー・ストーンである。

68年にリリースされ人種差別への否定を表明したシングル「Everyday People」のヒットでスターの仲間入りを果たしたバンドは、アルバム「Stand!」が300万枚の大ヒットを記録しただけでなく、ウッドストックフェスティバルへの出演で一気に時代の寵児となった。「おれを黒んぼと呼ぶな白んぼ」と歌うその強い姿勢や、ロックを取り入れたサウンドは黒人だけでなく白人からも高い支持を得る。

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そんな成功とは引き換えに多忙な日々による疲労が祟り、中心人物のスライストーンは薬物に溺れ、それはステージ上でも奇行という形で現れてしまう。スライの奇行に悩まされたメンバーはスライと共にスタジオに入ることを拒むようになり、結果スライは一人スタジオに引き篭もり多重録音を繰り返すことで傑作「暴動」を作り上げた。

ドラムマシーンによる正確かつ無機質なビートというアンチファンク的な志向に加えて、オーバーダヴィングにより弱いダブがかかったチープでヘロヘロなサウンドが、当時薬物に溺れ精神を擦り減らせたスライの状態と絶妙にマッチしている。今作に収録されている名曲「Family Affair」では当時の黒人社会でも問題になっていた家族の崩壊を歌うと同時に、家族をバンド名に入れているこのバンドの崩壊そのものも暗示していた。

マーヴィンゲイが一体何が起きているんだと歌ったのに対し、スライは暴動が起きているとはっきりと明言した。そしてジェームズブラウンとジョージクリントンの流れからなるファンクという音楽を普遍的なものへと昇華し、マイケルジャクソン、プリンスへと繋がる流れを作り上げた。それだけでなくドラムマシーンによる正確無比なビートの反復はヒップホップに大きな影響を与え、事実本作の収録曲は多くのアーティストにサンプリングされることとなった。ブラックカルチャーの大きな源流として、スライが残した功績は大きい。

<ネクストステップ>
スライ&ザ・ファミリー・ストーンとしてはこの「暴動」前後のアルバムである「Stand!」、「Fresh」がおすすめ。また「暴動」では作りけられているシングル「Thank You]はファンクの金字塔的楽曲なので要必聴。同時期のファンクとしてジェームズブラウンの「Sex Machine」、ジョージクリントン率いるファンカデリックの「Maggot Brain」もおすすめ。

9.Joni Mitchel 「Blue」

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限りなく鮮烈に近いブルー

1970年年代初頭、泥沼化するベトナム戦争、享楽的という名のレーベルに覆われたフラワームーブメントがで疲れた体を癒すように、ギターもしくはピアノによるシンプルなサウンドで歌うシンガーソングライター(SSW)たちが頭角を現す。

「Fire and Rain」で一躍有名になったジェイムステイラーを筆頭に、ジャクソンブラウンにローラニーロを始め、アングラシーンで後々評価されるティムバックリィやニックドレイク、さらにはジョンレノンやキャロルキングといった既に実績のあるアーティストが素朴なサウンドを傑作を発表し、SSW戦国時代が始まったのだ。後に70年代中盤から80年代を代表するポップスターとなるエルトンジョンやビリージョエルなんかもこの流れから出てきたはず。

そんな激動のSSW戦国時代において、現在までに多くのフォロワーを残したという意味でジョニミッチェルの存在はずば抜けている。今回のローリングストーン誌のオールタイムベストでも、女性アーティストでは最高位の3位(ちなみに改定前のランキングでは30位だったものの、いずれにしても女性ソロアーティストの中では最高位)にランクインしてることから明らかな通り、現時点のアメリカ音楽界における女性アーティストにとってのマスターピースとして機能していることがよくわかる。

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恋多き女として名高い彼女だが、そんないくつもの恋を経験した彼女が紡ぐ詩は実に繊細だ。1曲目の「All I Want」の時点でレナードコーエンとの恋をこれでもかってぐらい赤裸々に歌い、表題曲の「Blue」ではまさしくデビッドブルーとの恋愛を歌っている。ちなみにデビッドブルーと親友だったボブディランは本作に感激し、後年「Tangled Up in Blue(ブルーにこんがらがって)」という楽曲を描いている。

そしてこのアルバムが他のSSWの傑作群たちと比べて頭一つずば抜けているのはなんといってもそのサウンドである。ギターとピアノの伴奏が中心のフォーク的な演奏であるにもかかわらず、フォークともロックともどちらにも形容できないサウンドはオルタナティブの先駆けとも言われている。それに加えてメロディには起伏があり、ジョニのボーカルはどこまでも自由で鋭利であることが余計オルタナティブっぽさがあるのかもしれない。

ちなみこのアルバムの制作時期に出演したワイト島でのロックフェスにおいて、ギター片手に一人で歌う彼女に「女々しいフォークはやめろ!」という野次が飛び交う中、「みんなちょっと頭を冷やして、じっくり物事を考えるべきじゃない?」というメッセージを彼女は訴えたという。鮮烈な青い光は時代が経過するにつれより鮮烈になり、そして普遍のマスターピースへと成長していった。

<ネクストステップ>
ジョニミッチェルに関して言えば、ジャズへと接近する「Court and Spark」や「Hejira」などがおすすめ。また同時期に活躍したキャロルキング「Tapestry」、ジェイムステイラー「Sweet Baby James」、ローラニーロ「Eli And The Thirteenth Confession」、ジョンレノン「Plastic Ono Band」なんかがおすすめ。

10.Pink Floyd 「The Dark Side of The Moon」

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月が闇に食われる瞬間

「ピンクフロイドの道はプログレッシブロックの道なり」という有名な言葉が表す通り、5大プログレの中で最も商業的な成功を収めたのがピンクフロイドというイギリスが誇るモンスターバンドなのである。

とはいえ他のプログレバンドの中でも実は異色の存在でもあるのが彼らの特徴で、元々はサイケデリックロックの有望株としてデビューするも、中心人物のシドバレットの脱退により壮大な音像を持ったスタイルへと変化した。またプログレ系のアーティストはジャズやクラシックを基盤としたテクニカルな演奏を好むのに対し、フロイドはサイケ、ブルースがベースにあるため浮遊感のある幻想的なサウンドを好む性質がある。

また同じ5大プログレで商業的に成功したイエスやEL&Pなんかと比べるとポップさは無く、ロジャーウォーターズによる現代社会における人々の孤独と社会問題をテーマとした重たい内容の詩が特徴である。だがこのアルバムは売れた。しかもただ売れたんじゃない。5,000万枚という天文学的レベルの大ヒットを記録し、ビルボードのアルバムチャートには15年間ランクインするという驚異的な記録を成し遂げたのだ。

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このアルバムがなぜそこまで多くの人を惹きつけたのか。それはずばり練りに練られた立体的かつ広大なサウンドだ。レコーディングエンジニアのアランパーソンズによって編集された笑い声、振り子時計の音、レジスターなどといったSEを始め、各メンバーが奏でる楽器のサウンド、どれもこのタイミングで来てほしいタイミングで必ず鳴る、完璧すぎるサウンドディレクションが施されている。そのサウンドへの追求はメンバーとパーソンズの5人が正常に音が判断できなくなり、外部からの意見が欲しいということで別のサウンドエンジニアを招いたという逸話があるほど強烈なものだったことが伺える。

また今作のテーマは人間の内面に潜む「狂気」を描き出すというものだが、これは言うまでもなく薬物中毒により精神に異常をきたしてしまったかつての中心人物シドバレットという存在を見てきたからこそより説得力が増す。シドのワンマンバンド的な趣があったバンドが、シドを失った後デイブギルモアを加えた形で4人でシドという巨大な闇と対峙する形で格闘してきたバンドこそピンクフロイドというバンドなのである。

そして4人の成長がピークに達し、それぞれのパワーバランスが上手くかみ合った瞬間こそ、「狂気」という大名盤が誕生したのだ。だからこそこのアルバムのラストを飾るのは全てのタイミングが重なった瞬間に見れる「Eclipse(日食)」というタイトルをつけたのかもしれない。

<ネクストステップ>
ビートルズ、ツェッペリンと並んでUKロックの至宝と語られるだけあって、ピンクフロイドも名盤が多いバンドである。シドバレット時代の「The Piper at the Gates of Dawn」、70年代前半の傑作「Atom Heart Mother」、「Meddle」、ロジャーウォーターズ主導の「The Wall」とロック史にその名を残す傑作群がおすすめ。

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