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【asiba platform】02,New Node,移動雑記「どこでもドア」はつまらない?デジタル時代の移動と結節点の未来像を探る

こんにちは、asiba platformのメディア部です。
ASIBA×ND3M「new verb design studio」ワークショップ『New Node モビリティによる移動と結節点のデザイン』(3/12)の開催に伴い、移動をテーマにした『移動雑記』連載を開始しました。

ー『移動雑記』について
パンデミックを経た今、移動への関心や、人々の集まり方は以前とは異なる形を取り始めています。また、デジタル化の進展とテクノロジーの革新が、移動体験を全く新しいものに変化させつつあります。
このような転換期において、どのように空間、時間、そして人々との関わりを価値あるものにしていけば良いのでしょうか。

『移動雑記』では、人々の移動と結節点=ノード(集まりの場)について様々な角度から検討し紹介することで、幅広い歴史や概念を再認識し、発想の指標となることを目的とします。
パンデミックを経て生まれた新しい日常を、この記事を通じて、柔軟に見直し想像する旅に出ましょう。

今回登場するのは、ASIBA理事の 森原 正希と、ND3M 田川 直樹。
クリエイティブに日々活動をするお二人が、対談を交えながら、移動と結節点(ノード)の未来像について多角的に考えていきます。

ASIBA | 森原

森原 正希 / Masaki Morihara
早稲田建築学科卒業。建築デザインファームやクリエイティブチーム、スタートアップにていずれも社会課題と建築的アプローチを紐付けたプロジェクトを推進。100BANCH 69期採択/Green innovator academy 1期採択/WIRED Creative hack 特別賞/緑の環境プラン大賞2023年受賞

ND3M | 田川

田川 直樹 / Naoki  Tagawa
フィジカルとバーチャルを横断しながら目に見えない都市の価値を発見し、人々の暮らしに還元する手法を模索している
京都工芸繊維大学 デザイン・建築学課程 卒業
東京大学大学院工学系研究科 建築専攻 在学中
2021年度未踏ターゲット事業採択/隈研吾建築奨学財団3期生



デジタル時代:移動の価値を探る

ービジョンプロが示唆すること

田川:最近、移動に関して言うと、ビジョンプロ登場しましたね。

森原:Apple Vision proですね。

田川:なかなか面白いと感じています。これまでメタが提供していたVR系は、主にバーチャル空間内での移動がメインでしたが、Apple Vision proは、空間を計算することで現実空間にipadのディスプレイを投影したような体験を得ることができます。移動する際に、ブラウザがその場の空間に完全に固定されず、追従しないと言う点があるので、移動しても視界にディスプレイは継続して表示されます。そのためのサードパーティのブラウザが常にあるように感じます。ヘッドマウントディスプレイをつけていても、人々は移動を望むような気がしていて、何でもその場所に止まってできるようになったからこそ、新たな移動への欲求、もしくは根源的な何かがそこにあるのかなと感じています。

森原:そうですよね。自分もXRのスタートアップであるMESONで働いたことがあり色々と考えがあります。

今回のワークショップのステートメントでパンデミックを出したのは、パンデミックがあっても私たちは移動を望んでいるのではないかということを主張したかったんです。一時的にデジタルで全てができることを感じるような時代としてパンデミックの期間があり、移動の必要性がなくなったように思いましたよね。しかし、実際には移動を望み、移動への欲望をさらに加速させていたのではないかと思っています。たとえば、デジタルを使っていても、動きたい、違う景色や場所にすぐに行きたい、自分を別の場所に移動させたい、新しい景色を求めたいなど…少なくとも私はそう思いました。人間は変わり者であり、新しい空気や空間を求める存在なのだと感じたりします。常に新たな空間を求めているのですね。

ー移動をデザインする

田川:VRに限らず、そのVRChatで設計された空間は、情報の密度はそこまで高くないことが多いです。移動する際のツールのテクスチャーや構造は意外とシンプルです。しかし、その先には自分を刺激してくれる興味深い空間が広がっています。それを意識させるような道の曲がり方や光の配置などに注力しています。そうした先の期待感に移動がどう応えるかというデザインの意識が重要なのかもしれません。自動車や鉄道も同様で、人間が積極的に関わってきた移動のデザインの一部ではないかなと。

森原:確かに。ゲームやコンピューティングの世界では、単純なワープで済ませることもできるはずです。もしくは画面転換で済むのに、わざわざギミックを入れて移動をさせたり、ちょっと面倒なことを強いたりするのは、移動する間の空間のあり方がなければならない人間の欲求をUXUIとして突いているのかもしれません。

ー「どこでもドア」はつまらない? 移動の価値、時間と空間

森原:たとえば、どこでもドアが開発されたとしても、皆さんあまり使わないかもしれませんね(笑)どうだろう(笑)。ドアを開けるだけじゃつまらないじゃん…と感じる人も出てくるかもしれません。

田川:でもどこでもドアがあれば、すべてが一つの空間として捉えられることになり、それはそれで面白いかも。しかし、時間をどのように使うかという点で、移動手段をより意識的に選ぶことになりそうです。

森原:確かにそうですね。移動とは時間を使うことですから、移動中は時間を使っているという感覚が強いですよね。ゆっくりと走る列車に乗る楽しさは、時間を楽しむためにあるものですし、移動そのものが目的ではなく、時間の流れを楽しむことがあります。

田川:景色の流れという時間的な情報が感じられるからこそ、面白いのですよね。また、移動の面白さには、空間的な側面も大きく関わっていると思います。マインクラフトをプレイされたことがありますか?そのゲームで特に面白いと思う要素があるのですが、それは地図です。例えば、洞窟を探索する際などですね。地図を見ることや洞窟を探索することには一応の目的がありますが、その間の行動はひたすら移動し続けるだけではないでしょうか。しかし、その移動が常に空間を広げ、自分の認識している空間を広げてくれるような感覚があります。空間が塊として認識できる形にどんどん広がっていくことも、移動の楽しさの一つだと感じます。

森原:その感覚わかります。世界の霧を晴らす、というようなゲームがあるのですが、一般的なゲームの世界はすでに地図が存在しています。しかし、このゲームでは、行った場所の霧が晴れていくといういった場所のみが地図として記憶されるというものです。それがとても良いです。探索したい、見つけたいという欲求で移動することが多いですよね。昔の人々も、未知の場所に行ってみたいという気持ちで移動していたのではないでしょうか。マインクラフトのような欲求で移動が起こっていたのかもしれません。

田川:移動が直接的に何かを生み出すような感じですよね。そのような移動が発展していき、最終的には大陸移動などが起こったのでしょう。発展は移動を通じて行われますが、最終的にはみんなが一箇所に集まることも面白い側面の一つです。発見の楽しみや、時間が具体的な形となって現れる面白さがある一方で、最終的には駅や街など、人々が集まる場所に向かうことになります。それが目的だったのか、結果なのかは場合によって異なるでしょう。

森原:そうですね。それを今回は「Node」と呼んでみました。しかし、なぜ人々は移動して集まるのでしょうか。人間は不思議な生き物ですね。

田川:確かに(笑)。

ノードの形成:自然と計画の狭間で

ー自然発生的に形成されたノード

森原:なぜ人は溜まってしまうのでしょうか。例えば、港はまさにNodeであり結節点です。港や漁村、宿場町などは、その場所に意図的に人を集めようとしたわけではなく、偶然その場所に人が溜まったことが多いように思います。人間であれば、ある一定の距離を歩いたら、この辺りで休むというような感じで、データの蓄積の上で、ここに宿を作ると良いですよねという感じで生まれているように思います。つまり、自然に生まれたものが多いと思います。結節点、Nodeについてはどうお考えでしょうか。

ー固定化されるまでの過程の魅力

田川:Nodeの面白さについて言えば、固定された状態を興味深いと思いますが、Nodeが固定されるまでの過程もかなり面白いと思っています。例えば、新宿や渋谷のような計画された都市では、Nodeはここにあるという共通の認識があると思いますが、そうではない場合には、Node自体が移動していったり、その数自体も変わっていったりします。しかし最終的には、この季節にはこの場所が最適だという結果でNodeが決まります。環境の制約などに呼応して生まれるNodeは興味深く、それに対して何ができるのか、かなり考えさせられます。

森原:確かに、環境的に生まれるNodeというのは興味深いですね。駅や空港も、環境を考慮せずに設置されることが多いですよね。何を基準に作るかと言えば、地盤が良いから、人のアクセスが良いからですよね。

田川:たとえば、人と数時間話していて気がついたら数メートル移動して、居心地の良い場所に移動していた、というようなことがありますよね。そうやって見つけた場所をより使いやすくしていけば、都市の使い方はもっと楽しくなると思います。

都市のNode:移動と集まり

ーミニマムな移動手段とサービス 

田川:最近では、ループが車道と建物の間の狭い隙間を駐輪場として活用するサービスを提供していますが、初めて見たときは衝撃的でした。その場所が収益を生む場所になっていることが面白いアイデアだと思いました。しかし、そういった空間が完全に固定されてしまうと、都市としての魅力の面で疑問を感じたりもします。その点についてはどうお考えですか?

森原:固定に関して懐疑的であることは理解できます。高いビルを建てる必要もなく、パーキングエリアのように固定しない形でも駐輪場として収益を上げることができるという事実に驚いています。都市にはキックスケーターのようなミニマムな移動手段へのニーズがあるんだなと。さらに移動するものがあれば、それがユーザーには喜ばれることを知りました。

ーGoogleマップの登場と空間認識

森原:また最近では、ビッグデータを活用して最適化されたルートを作ることができるようになりました。たとえば、未訪問の場所へも、Googleマップを使って簡単に行くことができるます。このような時代に私たちは生きています。以前は、移動をすることは非常に想像力を駆使していたと思います。地図というと紙の地図しかない。今では考えられませんよね。20年前の人々は、私たちよりも空間認識能力が高かったのではないでしょうか。私たちが失ってしまった何かしらの能力があるように思います。

田川:Googleマップが登場してから、特定の場所に関する直感的な理解が失われたように感じますよね。

森原:そうですね。目で見て環境を読み取り、目的地までの道のりを考える必要がなくなったため、標識や人への尋ね方などが無効化された瞬間があったように思います。その結果、失われた豊かさがかなり大きいのではないでしょうか。

田川:しかし、都市には魅力的なコンテンツが多く、情報に頼らざるを得ない部分もあると感じます。どこまで情報を得て、どこからは自分の目で確かめるか、バランスが重要ですね。

森原:そうですね。検索エンジン上で様々な移動手段が提案されるといいなとも思います。例えば、電車やバスだけでなく、ループや三輪車なども。最短距離や移動手段だけでなく、現在の気分や求めている体験に基づいた移動経路が提案されると楽しいかもしれません。技術が発展していく中で、人々が集まる新しい場所が生まれる可能性があります。それはアルゴリズムによってではなく、人間の自然な行動によって生まれるものです。

田川:技術がそのような場所を発展させていくことは、非常に魅力的だと思います。例えば、新しい集まりの場所ができたら、そこに3Dプリンタでベンチを作ったりすることもできますね。そして、そこに自動運転のお店を配置して、人が集まり始めたら、逃げて行ってしまうとか(笑)。人間だけが最適化されていく世界では、既に見えるものがありますが、技術によってハックされることで、新しい都市の形が見えてくるかもしれません。

ー鳥瞰的に都市を見る、集まりの場所の再考

森原:集まりたいと思っている場所が私有地でハックもできないような状態に対して、どこでも選んで良いという状態を作り出したとしたら、私たちはどこに集まろうとするのでしょうか。以前、渋谷のPLATERUを全く渋谷とは思わずに観察して、どこに自分は居たいのかをマッピングしてみるという実験をしたことがあります。すると、交通量や人流などは全く関係なく、造形物としての渋谷の地形だけが見えてきました。集まりたいという感覚的な集積の方が、実は非常に人間的な都市になり得るのではないかと思っています。実際都市に住む動物たちは居心地の良さや造形的な快適さだけでNodeを生み出しているでしょう。

田川:その視点は非常に興味深いですね。そのPLATEUを見る際は、一人称視点で見たのですか、それとも鳥瞰的に見たのですか。

森原:とても鳥瞰的に見ました。山を見たときに、この辺に住みたいと思ったり、地形図を見て、ここは住みやすそうだと思ったりしますよね。それを渋谷のPLATEUを用いて行いました。都市の造形を人工的なものではなく、自然的なものとして認識してみる試みです。現状は、条件や効率によって決められがちですが、人々が自然に集まりたい感覚的な場所があるのではないかと思います。もう少し人間を信じてみるべきかもしれません。

田川:なるほど、その視点から見ると、新しい発見があるかもしれませんね。ARでオブジェクトを置く際の視点も近いかも。ユニティ上で鳥瞰的に配置していくことになるので、結局、鳥の目線で配置したものを見ることになりますから。いわば神の視点から作られた都市というのも生まれるかもしれません。

森原:ええ、確かにARもとても鳥瞰的に見るものですね。AR系は確かに良いかもしれません。移動とARについてしっかり考えた方が良いでしょう。NIanticの活動も興味深いです。彼らは新しい移動を作っていますからね。

最後に
今回の移動雑記では、テクノロジーが提供する新しい体験や、デジタル化された空間認識は、物理的な移動の意味を再定義し場所の概念を拡張してい区ことを考えました。私たちは、この対話が多様な視点から再考され、パンデミック後の世界における新たな可能性を探る手立てとして活用されることを考えていきたいと思っています。デジタルと現実の境界が曖昧になる中、移動と結節点に対する理解と関係の仕方はこれからも進化し続けるでしょう。


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『移動雑記:第一弾』を最後までご覧いただきありがとうございました。

ー告知ー
ASIBA×ND3M「new verb design studio」ワークショップ
『New Node モビリティによる移動と結節点のデザイン』
#これからのモビリティが作る結節点 (Node)とは?
新たなモビリティと社会環境の変化が描く未来の結節点「Node」について、モビリティと移動の未来をデザインする現役デザイナーやエンジニアと共に、想像力を巡らせ、探究していきます。
第一回のワークショップでは、都市や建築の視点から「Node」の未来と可能性を様々な学生や社会人と一緒に考えていきます。
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ーアカウント情報ー
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