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Withコロナ時代のアジアビジネス入門55「<錦鯉>デジタルアートと世界観」@デジタル経済と哲学(4)

経産省若手の抽象的概念的なイメージ
 自民党のNFT(非代替性トークン)政策検討PT(平将明座長)が4月、岸田文雄首相にWeb3(ウェブスリー)を日本の成長戦略の柱に据えるように提言した。最近のWeb3の盛り上がりはインターネット黎明期のウィンドウズ95が出た1990年代半ばの様相を呈する。経済産業省の蓮井智哉大臣官房審議官にインタビューにしたところ、Web3の「世界観」という言葉が出てきたのが印象的だった。
--Web3はじめ、関連するブロックチェーン、NFT、DAOは具体的なイメージをつかみにくいですね。
 「省内でも若手を中心に勉強している。彼らの説明の中で印象的なのは『世界観』という言葉。このトークンの世界観はこうだと。まだ抽象的概念的なイメージが強いが、新潟県長岡市にある山古志地域(旧・山古志村)は地元の名産の『錦鯉』を描いたデジタルアートをNFT化して販売し、購入者はデジタル住民になれる日本初の試みをして話題になった。こうした事例は具体的なイメージをしやすい」
「錦鯉」NFT化とデジタル田園都市構想
--「錦鯉」デジタルアートのNFT化は地方の可能性を感じさせます。
 「地方に眠っている資源、モノを掘り起こすこと自体が望ましいことであるが、それを中央などの市場に持ってくる時のコストを考えるとデジタル化で劇的にコストが下がるとともに、国境を越えて世界に発信できる。地方創生がデジタルと絡みあい、一つの循環を形作ることは実に興味深い。これは、デジタル田園都市構想につながっていくものと思う。Web3という新しく、自由なツールを使って何を実現するのか、地方に眠っているものを世界中に広げ、現地に行かなくても楽しめるようになるのはいいことだと思う」
シンガポールへの人材流出避ける制度整備を
--一方、Web3のビジネスにチャレンジする若者が日本のビジネス環境に嫌気をさしてシンガポールに移ってしまうという話も聞く。
 「確かに日本の税、会計、法制度、知財、消費者保護、標準などの国内制度が新しいビジネス実態に追いついていないため、より良い事業環境を求める個人や企業の海外流出につながっているとの指摘もある。海外に比べて遜色ない事業環境の整備にとどまらず、グローバル人材を惹きつける先進的な制度整備までを見据える必要がある。いずれにせよ、政府として縦割りを超えたアジャイルな(すばやい)対応が必要だ。規制と振興のバランスに留意しつつ、政府全体で取り組む必要があると思う」
スタートアップ人材への投資で日本にもチャンス
--Web3ではGAFAM中心のデジタル経済の構造を覆させる波が押し寄せるといわれている。日本からWeb3時代のプレーヤーが出現する可能性はあるのか。
 「QRコードは中国、欧米で使用率が高いが、元々はデンソーの開発部門(現在は分社化してデンソーウェーブ)の技術者が開発したという。開発した製品を誰が使うのか。その利便性を示し、共感してくれる人がどれだけいるか。日本はそこを押す力が今一つ弱いが、若い技術者らの『世界観』をきちんと掘り下げて挑戦する環境を整え、新陳代謝が進むようにスタートアップ人材への投資をすれば、日本にもチャンスがあると思う」
バーチャル「世界観」とアリストテレス「霊魂論」
 経済産業政策を担当する責任者が日本にもチャンスの可能性があると言及したことは良かったが、掘り下げるべき「世界観」とは何か。
 それはバーチャルをめぐる「世界観」のことではないかと思う。
 バーチャル(virtual)ですぐに思いつく訳は「仮想の」である。辞書で調べると、これに「実質的な。事実上の」の訳が加わる。バーチャルはラテン語の語源「男らしさ、戦士」が転じて「力のある、美徳」となり「目に見えないがあるもの=事実上」との意味になったという。
 では、バーチャルの反対語はリアルなのか。
 東京逍遥塾の荒木勝塾長(岡山大学名誉教授)によると、アリストテレスは人間知性の認識の特殊な構造はリアリティ(実存性=存在の重層性)を把握することだとして3分類で考察した。
(1)バーチャル・リアリティ(中間的リアリティ)とは、身体感覚と結合する存在感覚。身体感覚は中間的媒体(メタックス)を通じた知性感覚。アリストテレス『霊魂論』第2巻、3巻の人間の感覚論
(2)ゲーム的・仮想空間的リアリティ(非身体的リアリティ)とは、知性(霊魂の中枢)内在型形象の外在化。身体を超える人間知性・人間知性の離在性。夢の表明・記述化・メタバース。アリストテレス『霊魂論』第3巻の人間知性論・離在性・非身体的身体性
(3)オーセンティック・リアリティ(身体的・フィジカル・リアリティ)とは、生命の生志向と直結する人間知性。食欲志向・性欲志向と結びつく知性。アリストテレス『霊魂論』第1巻の生命論的・物質代謝・生み継ぎへの指向性と結びつく人間知性
 (1)(2)(3)と見ていくと、バーチャルをめぐる「世界観」とは重層的なリアリティと相まって形成される世界観ではないかと考える。そして、バーチャルの反対語はオーセンティックに近いのではないかと思えてくる。

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