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Withコロナ時代のアジアビジネス入門56「襲撃事件と中間層の崩壊」@ルサンチマンの標的は<時代性>か

大きな喪失感とリアリティのなさ
 参院選の開票直後にNHKは「自民・公明で改選過半数は確実」「改憲4党で3分の2議席を上回る」の速報を流した。
 2日前に安倍晋三元首相が奈良市内で街頭演説中に銃撃されて死亡した。
 安心・安全の日本で起きた凶行に大きな喪失感はあるがリアリティはない。
 容疑者は特定の宗教団体名を挙げ、「母親が団体にのめり込んで破産した。安倍氏は団体を国内で広めたと思い込んで恨んでいた」と供述しているという。
 今回の襲撃は個人的な恨みだけなのか。そうは思わない。
 時代の空気感が気になる。
中間層崩壊が招く「家族」の鬱積
 その一端を東京逍遙塾の荒木勝塾長(岡山大学名誉教授)は「世界で起きている中間層の崩壊」と見る。
 <欧米をはじめ、世界で中間層の崩壊が起きている。中間層の崩壊は家族をも崩壊させて漠然としたルサンチマンを生む。明確な政治への批判とまでいかなくとも、個人的な鬱積によるルサンチマンの根っこには家族の在り方がある>
 ルサンチマンとは「恨み(の念)。ニーチェの用語では、強者に対し仕返しを欲して鬱結(うっけつ)した、弱者の心。フランス =ressentiment」(ウィキペディアより)。
 世界中で格差が広がる中で、中間層の崩壊が起きている。米国の格差社会は大きな分断を生み、2016年の大統領選挙で時代に取り残された感のある白人系労働者はトランプ支持に回った。グローバル経済に上手に乗ったエスタブリッシュメントに対する白人系労働者のルサンチマンがそうした政治行動に走らせた面は否定できない。さらに、米国ではキリスト教右派の政治的な影響力が強く、LGBT、人工中絶、銃規制への批判論が根強い。韓国などアジアにはキリスト教右派的な教義を標榜する新興宗教団体も存在する。
 格差社会が一因である中間層の崩壊は家族の在り方に深刻な影響を与える。そうした家族のよりどころの一つが新興宗教になっている。
 民主主義は制度があっても、それを支える社会基盤がなければまともに機能しない。それどころかさらに悪い方向へ向かう。大切な基盤とは家族であり、心を整える宗教(欧米における「聖書」)ではないかと思う。しかしながら日本では家族や宗教について頰かぶりし正面から向き合ってこなかった。
鬱積したルサンチマンの標的となった<時代性>
 容疑者の犯行は個人的に鬱積されたルサンチマンかもしれないが、結果的に、史上最長の通算8年8カ月にわたって政権を運営して「安倍1強時代」を築いた安倍元首相が標的であったことを考えると、大きな存在もしくは<時代性>へ向けられた蛮行と思えなくはない。世界的潮流になっている中間層の崩壊とそれに伴って家族に矛盾や問題のしわ寄せがくる<時代性>ーー本当に見つめるべきは民主主義の基層となる家族にある。
アリステレス『政治学』が説く家族の意味
 安倍元首相は文字通り国家のトップリーダーだった。憲法改正を掲げて保守政治家として国家の有り様に心血を注いだ。
 今回の襲撃事件を踏まえ、アリストテレス『政治学』第3巻第9章の次の言葉を改めてかみしめたい。
 <国家とは、家族や一族の者達が、自己完成をめざすための生活、独立自存の生活を確保するための共同的結合体、善く生きるための共同的結合体なのである>

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