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Withコロナ時代のアジアビジネス入門52「カンボジア・デジタル通貨と非<アナーキー>思想」@デジタル経済と哲学(2)

ビットコインやフェイスブックの思想と相違
 日本のスタートアップ企業「ソラミツ」(東京都)はカンボジアの中央銀行デジタル通貨システム「バコン」を開発し、現地で定着化を図っている。岸田文雄首相が5月5日、訪問先の英国ロンドンの金融街シティで講演し、デジタル人材、イノベーション、スタートアップ、グリーン・デジタルへの投資を柱とする「新しい資本主義」の指針を発表したのを機に、先進的な取り組みをしている同社の宮沢和正社長にデジタル経済の未来について話を聞いた。
 インタビューの中で「我々はアナーキーな考えではない」との発言が印象的だった。
 「もう金融はいらないとの議論もある。全てコンピューターが処理するんだという意見がある。本当にそれでお金が還流して信用創造していけばいいが、難しいと思う。ビットコインは中央銀行はいらないんだとの思想だし、フェイスブックも一時期そうした動きで当局に摘発されたわけです。我々は当局と対峙していくのではなく、中央銀行を便利にしていくとの立場だ。中央銀行を否定するアナーキーな考えではない」
 この発言の背景について宮沢社長は次のように語っている。
 「日本の金融機関がうまく正常な形でデジタル通貨を取り入れることを支持している。金融機関が産業の血流なので、そこがうまく資金を回して信用創造をしていかなければいけない。ただし、従来型の金融、その仕組みでは太刀打ちできなくなってくる。スマートフォーンでいろいろな金融サービスをする企業が増えており、固定費の高い従来型の銀行は先々厳しいと思っている。ですから、日本でも中央銀行デジタル通貨(CBDC)は発行すべきだと思います。ただし、民間のデジタル通貨やサービスとバッティングしない役割分担は必要である。国が発行するCBDCと民間のデジタル通貨とのハイブリット型が望ましい」
 いわゆるビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)、GAFAMに代表されるプラットフォーマーの<アナーキー>側には組みしないというわけだ。
ブロックチェーン世界標準のスタートアップ
 スタートアップ企業のソラミツは<アナーキー>側を支持するのかと思っていたので意外だった。
 スタートアップ企業ながらソラミツのブロックチェーン技術は世界有数である。非営利の技術コンソーシアムであるLinux Foundation(リナックスファウンデーション)でブロックチェーンの世界標準を決める会合があり、応募した260社のうち、ソラミツはIBM、インテルとともに選ばれた。無名のスタートアップ企業が超巨大企業と一緒に選ばれたわけだ。宮沢社長はソラミツ入社の前にはソニーで電子マネー「Edy(現在は楽天Edy)」の事業をやっており、世界進出を目指していたが果たせず、そこに挑戦する並々ならぬ独自の哲学があるのだろう。
 ちょうど岸田指針の発表の前に、自民党デジタル社会推進本部NFT(ノン・ファンジブル・トークン=非代替性トークン)政策検討PT(平将明座長)が3月30日に提言したNFTホワイトぺーバーには「Web3(ウェブスリー)はGAFAM中心のデジタル経済の構造を根底から覆す新たな技術革新の波が押し寄せ、新たなデジタル経済圏の標準を日本から生み出すとしている」と書かれていた。
Web3時代はGAFAMを超えて日本にチャンスも
 宮沢社長にホワイトぺーバーについて聞くと次のような見解を示した。
 「Web2.0はSNS時代と言われ、GAFAMを代表するフラットフォーマーが個人情報を独り占めし、そこを通さないとビジネスはできず、富が集中する、偏った資本主義だ。こういう動きは長続きしないし、直していかないといけない。Web3はプラットフォーマーの中央集権的なシステムではなくて、ブロックチェーンを使って分散的な形で、コミュニティで開発者もユーサーも分配する。フラットな組織になっている。DAO(Decentralized Autonomous Organization)のような自律型組織になっている。資本の分配が公平になっている。岸田政権は成長戦略と分配をうまく組み合わせながらやっていこうというわけで、世界に新たなプレーヤーが出てきて、日本がリーダーシップをとれる可能性は十分にある」
 岸田政権の掲げる「新しい資本主義」は分かりにくく、当初は分配だけの「新しい社会主義」と背中合わせだとも揶揄されたが、デジタル田園都市構想とも相まってその中身がやっと見えてきた感がある。Web3時代に日本が世界に負けないために、宮沢氏は「日本にいても新しい技術の仕事ができないからシンガポールにいこうと頭脳流出してしまうケースが多いが、そうすると日本が空洞化してしまう。世界に負けないため日本も規制改革、税制改革していかないといけない」と指摘している。<アナーキー>側に委ねないのなら、政府の側にスピード感と実行力が求められることは当然である。一方、アリストテレスは『二コマコス倫理学』で貨幣の発生と役割について「交換は均衡、正義に基づかなければならない」として次の数式で表した。
 <交換の比率はA:B=C:x D>
 A大工が造ったC家屋とB靴屋が作った D靴を交換した場合、x D は家屋が靴に比べて格段に高価だから、何倍もの数量を掛け合わせなければならない。x を貨幣は見事にやっている。この目的のために貨幣は誕生した。貨幣は従って過重や不足をも計量する、と。
 暗号資産、仮想通貨も、均衡、正義の交換原則がベースにあることは言うまでもない。

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